羊と雲の丘眺望羊群れ2

循環

イトウというのは魚の名前だ。
サケの仲間の。

士別に源流があって全国で4番目に長い川、
天塩川(てしおがわ)の下流域に生息してる。

サケが一生のうちに一度しか産卵せず、
そこにエネルギーのすべてを注げるのと違って、
イトウは同じ川の同じ場所で何回も産卵する。

つまり、産卵場所がずっといい環境じゃないと、
イトウは命のリレーをつないでいけなくなるのだ。

天塩川にイトウがたくさんいるのは、
157㎞ものあいだ、ダムとかみたいに
川水を遮る人工物がないからなのだそうだ。

目には見えないけどその区間、
水は川を下るだけでなく
ぐるぐると巡っている
ということになるらしい。

巡るということは安定するということだ。
巡っていないと、いろいろ困ったことになる。

士別にやってきてしばらくして、
耳が聞こえにくくなったことがあった。

私が引っ越してきたのは10月のことで、
そのままマイナス30℃の日まである真冬に突入。
今までの防寒技術ではまったく歯が立たない寒さの中で、
私のカラダはみるみる冷えていったらしい。

耳が聞こえなくなったのは、
冷えによって血液の循環が悪くなったからだそうだ。
カラダの中の循環が悪くなったせいで、
とても困ったことになった。

それはまちも同じことではないかなと、
ふと思った。

まちを去る人が多くて来る人は少なくなると、
エネルギーが足りなくなる。
だから、新しいものを生み出しにくくなる。

川にとって、
水の流れが止まることは魚たちの死を意味する。
きちんと循環しないということは
そのくらい恐ろしいことなのだ。

うまくいっている循環のしくみは
夏の空みたいだなあと思う。
温度の高いところと低いところがあって、
それぞれの空気が交わり合うことで
雲がもくもくと育って雨が降る。
大地を潤すその雨が、いきものたちを育む。

まわすこと。
まわること。
それを意識すること。

それが天塩川と厳しい士別の冬が教えてくれた、
いろいろとうまく行かせる方法だった。

◎鯨井啓子 info

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