見出し画像

「計画をどこまで詳細化すべきか」という極めて厄介な問題に答えを出すためのヒント(1)

どんな計画であれ、計画者にとって「計画をどこまで詳細化すべきか」は悩みの種です。計画に着手しようとした瞬間、多くの計画者がこの問題に頭を抱えることでしょう。

例えば事業計画で詳細化といえば目標数字のことが思い浮かびます。「目標数値をどこまでブレークダウンすればよいのか」という詳細化問題がそれです。
それはそうなのですが、実をいうと、目標数字そのものよりも目標数字の計画根拠をどこまで詳細化するかのほうがはるかに悩ましい問題です。計画では、できあがった計画そのものよりも計画過程での議論やそこで使用した根拠情報の確からしさのほうが大切なわけで、それと同じ考え方に基づくものです。

プロジェクト計画で詳細化といえば、つきものなのがWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)に記述するタスクの詳細化問題です。はた目には些細なことのように思えるかもしれませんが、計画する当の本人であるプロジェクトマネージャにとって、これはかなり厄介な問題です。
詳細化し始めるときりがない上に「こんなに詳細化して意味があるのか」という自問自答が始まります。詳細化には時間がかかるので、忙しいときには焦りが募ります。ステークホルダーからも「計画に凝るのは後にしてくれ」とプレッシャーをかけられます。
多くの場合、プロジェクトマネージャ本人も、どもまで詳細化しておけばいいのかに確信が持てているわけではないので、途方に暮れることになります。
この件を、少し深堀してみましょう。

WBSの詳細度を決めるには事前準備が欠かせません。

なぜなら、WBSの詳細度には、プロジェクトの全体像やゴール達成に向けた方針が深く関わっているからです。

プロジェクトの全体像が把握できていないことには、これから計画する箇所のプロジェクト上での位置づけや大切さを計り知ることができません。大切な箇所は時間をかけて詳細に、さほどではない箇所は大雑把に、そんな判断ができません。

ゴール達成に向けた方針が明らかになっていなければ、詳細化以前に、適切にタスクを洗い出すこともタスク間の優先順位を設定することもできません。どうにかこうにか大雑把にタスクを洗い出せたところで、それをどの程度まで詳細化するかの判断には、一連のタスクがゴール達成にどう関係しているのかの見極めが必要で、ここでもゴールが関わってきます。
同じような理由で、リスクの特定と、リスクにどう対峙するかの方針も決まっていなければなりません。

このような事前準備は、プロジェクトが大きくなればなるほど大切です。

大規模プロジェクトでは、計画の細かな箇所は各担当者が記述します。ところが担当者は自分の目の前のことしか見えていないものです。そのため、担当者に適切にWBSを詳細化させようと思えば、プロジェクトマネージャと担当者の事前の意識合わせが欠かせません。
事前準備で明らかにするプロジェクトの全体像やゴール達成に向けた方針、リスクマネジメント方針などはこの意識合わせの対象となります。

これらの事前準備をしっかりできれば、プロジェクトマネージャにとって、担当者にWBSの詳細度をしっかりとイメージさせる準備が整ったことになります。しかし、これですべてが終わったわけではありません。なぜなら、担当者にイメージさせるためには、具体的な指導も欠かせないからです。
表面的にしか考えない担当者に対する会話の中でのツッコミは欠かせませんが、プロジェクトマネージャにそれ相応の現場経験や知識がなければ、これは無理な話です。

結局のところ、大規模プロジェクトで適切な詳細度のWBSを作成しようと思えば、プロジェクトマネージャには相当のスキルが必要だということになります。プロジェクトの全体像を把握でき、ゴール達成に向けた方針やリスクマネジメント方針を描くことができ、現場経験も豊富でなければならないということになるからです。
ところが実態は、そんな優秀なプロジェクトマネージャばかりではありません。

自信のないプロジェクトマネージャはおそらく、WBSはほどほどの詳細化で放置しておきたいと考えるはずです。

なぜなら、彼らにとっては、自分が適切な詳細でWBSを洗い出すことも、担当者に適切な詳細度のWBSを洗い出させることも、共に至難の業だからです。
しかし、これが本末転倒な話であることは言うまでもありません。

「適切に詳細化したいが、内心はある程度で終わりにしたい」
プロジェクトマネージャにとって、この葛藤はかなりの負担です。

このように、WBSの詳細度を決定するのは容易なことではありません。

ところが、WBSのデキや詳細化の程度はプロジェクトマネジメントの質にダイレクトに効いてしまいます。

【WBSのデキや詳細化の程度に影響を受けるマネジメント要素の例】
・   数字の配分や積み上げ
・   計画内容に対する担当者の理解
・   責任と権限のフィット感
・   段取り具合
・   進捗会議や日々のコミュニケーションの質

そこで私は、WBSに限らず「計画をどこまで詳細化すべきか」という問題に対して、私なりの答えを出すことにしました。
今回はざっと方法を説明し、次回はその内容を、プロジェクトマネジメントにおけるWBS詳細化を例にとって具体的に説明します。

計画の詳細度を決めるような、いわゆる“捉えどころのない問題”を扱うときに大切なのは計画者の心構えです。

計画者は闇雲に考えるのではなく、自分の思考を構造化し、整理しながら考えを深めていかなければなりません。

計画を詳細化しようと考えたとき、構造的思考の起点は計画の目的です。目的が違えば、それにふさわしい詳細度も違ってきます。

そこで、私は次のような手順で詳細度を定めます。

1.     計画の目的を明らかにする。
2.     目的達成に向けて実行計画に求められる要件を整理する。
3.     要件を満足するにはどの程度詳細化すべきかを考える。

もちろんこの背景には、プロジェクトの全体像やゴールの把握、現場への理解などがあってことですが、それらを上記の1~3の流れで計画の詳細度に結実させていくわけです。
これだけでは雲をつかむような話なので、次回はプロジェクトマネージャになった気分で、タスクをどこまで詳細化すべきなのかを具体的に考えていきます。

★★★ 概念化.com を立ち上げました ★★★

★★★  ぜひ、お立ち寄りください  ★★


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?