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写真を使っていただいたnote

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みんなのフォトギャラリーのヘッダ等、写真を使っていただいたnoteをまとめたマガジンです。※記事ヘッダ用の写真はトリミングして利用したものはマガジンに含めていない場合もあります。
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#短編小説

無重力

 告白するならミルエンズ公園の前で。カウントダウンはエクアドルの赤道の真上で。  そんなことばかり言っていた夢みがちな彼女はいつだってまるで無重力だった。だけどやつらの反撃は静かに始まっていたんだね。  綺麗だった元の色がどんなだったかわからなくなるくらいに汚れたら、あとはもう誰にも気付かれないように消えてなくなる仕組みなら良かったのに。  何度もそう思ったけれど、この世界ではそういうわけにはもちろんいかなくて。  僕ならもしかしたらって気がしてたのに。だめだった。や

じゃあね

誰もいない病棟、静かな廊下を裸足で歩く。 ひんやりとした感触が足裏に心地いい。 カルテは捨てた。もう私を縛るものは何もない。 白い服は白い部屋に置いてきた。白い手足に紫外線が刺さる。 走って行こう、行くあてはないけど。 顔も知らない君のこと、探したいと思う。 誰もいない街、ひっそりとした道を裸足で進む。 焼けたアスファルトが突き刺さる。 踊るように、逃げるように、躱すように。 走って、走って、ひたすら走る。 どこに行けばいいかなんてわからないけど。 前に

蝶のオアシス

 日の出から日没の間がはっきりと長く感じられる様になり、衣替えがすっかり終わった頃、洋三は雨上がりの路地を商店街に向けて歩き出した。  未だ雨水を吸ったままのアスファルトは、やたらに照りだした太陽光を反射して眩しく、肺に滑り込む空気は地表の温度を奪って生温かい。  締め切りの迫ったエッセイのネタ探しに文房具屋にでも行って来ると妻の真帆に告げ、久しぶりの外出を試みたのだったが、実は引き出しには封も切っていない新品のペンが眠っており、またもや創造力への供物を増やすに過ぎない事に嫌

狐の嫁入り【SF ショートショート】

今日はいい天気だ。かんからかんに晴れ上がって、洗濯物がよく乾きそうだ。 ぼうっとTVを見ていたら、カンカンカンと音がしてきた。ベランダの床を、大粒の雨が打つ音だった。こんなに良い天気なのに。 慌てて洗濯物を入れ、乾いたものだけ畳んでいると、ピンポーンとチャイムが鳴った。 「はーい」と答え、スコープを覗くが誰もいない。 いたずらか?と思いながらドアを開けると、小さな白狐がちょこんと座っていた。 かわいい。抱きしめたい。小動物には目がないのだ。抱きしめてモフりたい。 衝動を抑えよ

ヤンデレの死神と、ある一人の魂の話。お題「たった二人の世界」

こんばんは、氷室緑です! 昨日は投稿をサボってしまい申し訳ありませんでした…。今日からは学校も始まって大変になるかもしれないけれど、また毎日投稿頑張っていきたいと思います! さて、今日から学校が始まりました!私と同じ人も多いんじゃないかな?父も今日から出社でした。お疲れ様です! あー、疲れた…。っていうのが今日の感想です。まあクラスでぼっちにならなかったのは幸いでしょう。行く途中に友人にも会えました。早めに着きすぎて1時間も教室で待機する羽目になったけれど、まあ遅刻しな

【短編小説】 それぞれの景色。

教授が教授室で執務をしている。 コンコン。 「失礼します。」 「失礼しに来たのかね。」 「あ、どうでしょう、ひょっとしたらそうかもしれません。」 「それはお断りしたいね。」 「そうですね、わたくしでもそう思います。」 「だろう、じゃあ出て行きなさい。」 「そうしましょうか。」 「出て行くのかね?」 「いえ、受け取りに伺ったんですけど。」 「何も聞いていないが。特に渡すものは無いがね。」 「わたくしも何を受け取りに来たのか、わからないのです。」 「それ

魔の再来

長谷川瑞希様  突然のお手紙、失礼します。稲荷神社・宮司の田畑雄二です。 先日はあなたのおかげで無事、犯人が見つかりました。今回のことで、他の神社に被害が及ぶことも無くなったでしょう。 ですが、現在あなたはいかがお過ごしでしょうか? 以前、自分が偶々気付いたから良かったですが、それでもあなたはとても怖い思いをされたのではないかと危惧しております。  ピピピッと目覚まし時計が鳴った。瑞希はもう少し寝ていたくて、しばらく無視していたが、結局は寝返りを打って目覚まし時計に手を伸

【あとがき】戦場を駆ける紅(ショート小説)

*このnoteは、カドブンさんとnoteで開催していた「#一駅ぶんのおどろき」投稿コンテストの応募作品・ショート小説「戦場を駆ける紅」の《あとがき》となります。 *途中から《有料note》となります。 小説が面白いと思ってくださった方、裏話を知りたいと思ってくださった方に購入していただけたら幸いです。 *「ショート小説だし、あとがきなくてもいっか~」と思っていたら、読者さんから「あとがきないんですか?」とリクエストがあったので、急遽書いています笑! リクエストありがとうご

有料
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感 揺 句。

第10話『甘い汁を吸う』  10年ぶりに帰郷する。  大学から県外で暮らしていて、成人式も戻らなかった。今回は祖母の法事があって、どうしても出席してほしいという母の希望があって、休みをやりくりした。  法事の前日から2泊3日の滞在。法事が終わった夜は、仲の良かった幼馴染みたち数名と会う約束をしている。  地元の駅に着いて、キャリーバッグを転がしながら、路線バスのバス停に向かう。30分に1本のバスは、あと15分ほどで来るだろう。私がいたときと駅前はすっかり変わっていて、

夜明けの少し青くなった空のほうへ

 ある日、再び大きな地震がこの国を襲った。途方に暮れる日々のなか、被災者には国から無料スマホが提供された。災害時用に水面下で準備を進めていただけあって、その対応は極めて迅速だった。使い放題だけあって、提供された人々の手元にはいつもスマホがあった。その効果もあってかどうかはわからないが、わりかし避難先の秩序はどこも保たれているようだった。  震災から二ヶ月が経った初夏のある晴れた日。一時的な宿泊先として提供されていたホテルから、青年は数キロ離れた先にある美しい海辺へと歩いて来て

戦場を駆ける紅 【#一駅ぶんのおどろき】

戦場を駆けるその人は、美しかった。 白い胴着に黒い袴で馬に跨がり、誰よりも速く荒野を駆け抜ける。 銀色に光る刀を振り払い、次々と僕の仲間を斬り倒していく。 透き通るような白い肌、大きな瞳。 漆黒の長髪を馬の尾のように結っている。 女だろうか。この合戦に? ◆◆◆ 大量の屍で地獄絵図と化した荒野に、冷たい風が吹く。 圧倒的な彼女の強さが追い風となったのか、 勢いづいた敵軍は、どんどん僕の仲間を倒していった。 彼女があっさりと大将の首をとり、我が軍は敗北した。 ……

あの子の日記 「さんずい、もくもく」

なにがこんなにもわたしを不安にさせるのか分からないけれど、ひとりぼっちで森の中へ迷いこみ、月あかりだけを頼りに夜を過ごすような淋しさが、あたまの中にぼんやりとある。不安と淋しさはイコールではないと、あいつは言うだろう。そういう感情が血液に溶け、言葉の境目がなくなるほどからだ全体をめぐってしまえば、このふたつの感情がイコールであるのかノット・イコールであるのかなんて大した問題ではなくなってしまうのに。 ねむっていることに飽きてスマートフォンに手を伸ばすと、深夜とも早朝とも呼べ