【短編小説】 それぞれの景色。
教授が教授室で執務をしている。
コンコン。
「失礼します。」
「失礼しに来たのかね。」
「あ、どうでしょう、ひょっとしたらそうかもしれません。」
「それはお断りしたいね。」
「そうですね、わたくしでもそう思います。」
「だろう、じゃあ出て行きなさい。」
「そうしましょうか。」
「出て行くのかね?」
「いえ、受け取りに伺ったんですけど。」
「何も聞いていないが。特に渡すものは無いがね。」
「わたくしも何を受け取りに来たのか、わからないのです。」
「それは困ったね。」
「少し見せていただきますね。」
「何をだね?」
「あっ」
来客が覗き込むと、教授が掛けていた眼鏡からスルリと通り抜けて、来客の手のひらに小さな二人の教授が乗っている。
「どうしても必要なんだそうです、我々の国とあの国に。それで、受け取りに伺ったのです。」
残された眼鏡のレンズにはそれぞれ違う景色が流れ始める。
全く違う景色が。
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