見出し画像

あの子の日記 「さんずい、もくもく」

なにがこんなにもわたしを不安にさせるのか分からないけれど、ひとりぼっちで森の中へ迷いこみ、月あかりだけを頼りに夜を過ごすような淋しさが、あたまの中にぼんやりとある。不安と淋しさはイコールではないと、あいつは言うだろう。そういう感情が血液に溶け、言葉の境目がなくなるほどからだ全体をめぐってしまえば、このふたつの感情がイコールであるのかノット・イコールであるのかなんて大した問題ではなくなってしまうのに。

ねむっていることに飽きてスマートフォンに手を伸ばすと、深夜とも早朝とも呼べる時間帯に2件の着信が入っていた。どちらも以前の恋人からだった。通知を消し、わたしはまた目をつむる。自分から別れ話をしておきながら、未練がましく連絡をとってくるなんてどうかしている。振られたあと、「どうして。まだ好きなのに」とたしかにわたしは彼に言った。あのときは、あの瞬間は、彼に向けている愛がまだ存在していた。ただ、残念ながらそんな言葉の効力はとうのむかしに切れてしまったわけで、「おれのことを愛しているシオンちゃん」はこの世から姿を消している。

空気が重い。窓を開け、ひんやりとした秋のおわりの風を部屋に入れる。テーブルの上に置いてある枯れた観葉植物が、ぴんと葉を伸ばしていたことを忘れてしまったようすで、意志を持たずにゆれている。風はよわい。頬をなで、髪をすり抜け、不安と淋しさをかき立てる程度のよわい風なのに、我がもの顔でわたしの部屋に長居しようとしている。

あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。