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【感想】書籍『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
ITエンジニアという職業柄、新しい技術にキャッチアップするために本(技術書)を読む機会は多い。
読まないと(そして飲まないと)やってられない仕事というかw
(念のため書くと、ITエンジニア以外の職業は未経験なので「他の仕事してる人は本を読まない」という意味ではありません)
会社で管理職になりたての頃はビジネス書もよく読んでいた。
そのおかげか(?)読書への抵抗は無くなって小説やエッセイも好きになった。
ブクログを遡ったら2016年頃から年間60〜70冊のペースで推移してきている。
ちなみにマイルール(死語?)で映画やドラマの予習として原作を読んだ分はここには計上していない。
なのでたまにこういう事態が起きるw
ブクログから「今月は5冊読みました」という毎月末恒例の通知。体感と乖離があると思ったら『三体』『ゴールド・ボーイ』『四月になれば彼女は』の原作10冊分を映画・ドラマの予習扱いで読書にカウントしてないからだった。ここに『オッペンハイマー』の原作上下巻もあったらと考えると震えるw
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) March 31, 2024
こう考えると数は結構読んでる方なのかな?とジェーン・スーが言うところの半径5メートルを見渡して思ったりもする。
なので読む前は本書のタイトルとは少し体感に温度差がある感じだった。
「まぁいうても俺は会社員やりながら年間60冊=月5冊読んでるしな」という若干のマウント思想。
ところが読み始めると、何やら違う様相を呈してくる。
導入は坂元裕二脚本の名作映画『花束みたいな恋をした』
劇中で麦(菅田将暉)が小説を読めなくなって無表情でパズドラを延々とやっているシーンや書店でビジネス書を立ち読みするシーン。
本書が掲げる問題提起は読書に限らず「仕事と趣味の両立が困難なのは何故か?」
この疑問に日本の労働史からアプローチ。
サラリーマンや労働者に読書はどのように受容されてきたのか?
この労働史×読書史の分析がまず面白い。
まぁ読み進める内に少し寂しい気持ちになるのだけど…
新自由主義の時代が到来して「自分の人生・キャリアは自分で築く・切り拓くもの」という思想が広まった。
よって
そもそも仕事に打ち込んでいて余暇の時間が無い
仕事の役に立たないような本を呑気に読んでる場合じゃない
時間はあるが疲れて趣味に注ぐエネルギーが残ってない
そういう人が増えたというのが本書が掲げる仮説(超ざっくりなので詳しくは読んで頂くことを強く推奨)
冒頭で挙げた「ITエンジニアは技術書を日常的に読んでいる」という話も本書の中で位置付けると情報摂取に近い。
(まぁ技術書には目の前の仕事にすぐには役立たないノイズを含む知識を取り入れる側面もあるのだけど…詳細割愛)
ただ、そもそも時間が足りない人(例えば毎日早朝から深夜まで働いているとか)は別として仕事に役立つ本は読めるという人なら多いのかというと、スマホでウェブ記事を読んで情報収集している人が大多数な気もする。
これは恐らく「仕事による疲れ」が背景にあるのだろう。
じっくり腰を据えて本を読んだり2時間の映画を観たりする集中力は疲れた状態では発揮できない。
そういう意味で本書の主張は流行語にもなったタイパとも無縁ではない。
倍速視聴やファスト教養の新書も繰り返し参照・引用されている。
書店に行けば店頭の一番目立つ棚にビジネス書の新刊が平積みされている光景からも分かるように「ビジネスの役に...『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち (...』レジー ☆5 https://t.co/DStQnaESyV #booklog
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) October 30, 2022
暗澹たる気持ちになってきます。
著者は「こんな状況はおかしい」として最終章で日本社会への提言をしているのだが、個人的には理念には賛同するものの実現は一朝一夕には難しいと感じた(少なくとも雇われの身の会社員には)
すなわち特効薬は無さそうである。
仕事と上手く折り合いをつけながら時間を確保して自衛するしかない。
この考え方もまた新自由主義的なのだけれども。
個人的な経験則で思うのは
趣味は大切(これは数年前に仕事絡みでメンタルヘルスを崩した経験から)
とはいえ無理してまで世間で“高尚”と言われているような趣味(読書に限らず)をやらなくていい
ただ、一応ITエンジニアでシステムの狙いが多少分かる身から言うとSNSとかショート動画とかは受動的に時間がいくらでも溶けるように設計されているので、それだけでずっと過ごしてるとかは黄色信号かもしれない。
僕もSNSやYouTubeは使うんですけど、あれは自分の意志でスマホをタップしていると思わせながら長時間滞在させる設計を世界屈指の頭いい人たちが磨き込み続けてるわけで結構恐ろしいんですよね。
詳しくはこちらのNetflixドキュメンタリー映画を。
仕事に疲れた現代人は格好の餌食…
なので本書を読んだら「私は余暇時間をどんな趣味に費やしていたっけ?仕事に直接役立たないことは何かしているだろうか?」と内省してみるのが良いのかなと。
(ちなみに「いや、休日だろうが自己研鑽すべきで仕事に役立たない事をやるとか言語道断」と考える人は本書の想定する読者層ではないので読んでも不快になるだけかもしれないw)
テレビプロデューサーの佐久間宣行のインプット術を掲げた雑誌のSWITCHが売れているのはわずかな希望?
まぁ単に佐久間Pのファン層が広いというだけかもしれないけどw
それに佐久間Pの番組のファンだからといって演劇や映画をよく観るとも限らないかw
2020年代には「推し活」が流行語になってきて、あれは仕事に直接的に役立つ情報摂取とは逆ベクトルの趣味の形なのでは?でもトキシックファンダムと表裏一体なのが難しいよねぇとか議論は尽きない。
今日はこの辺で。
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