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【感想】Disney+ドラマ『季節のない街』

原作は山本周五郎の同名小説(1962年出版)
1970年には黒澤明が『どですかでん』のタイトルで映画化している。

クドカン自身もこの映画の大ファンだそう。

20歳くらいで大学に行かなくなって、バイトばっかりしてたときに、黒澤明監督の映画をVHSでたくさん観たんです。そのなかの多くは「みんなが良いって言ってるし、たぶん良いんだろうな」という感じでしたが、『どですかでん』(※)は自分にとって異質でした。誰が主人公なのかわからないし、変なヤツがいっぱい出てくるし、結局まとまらないし、「なんだこれ?」って。そのとき「俺にとって面白いのって、こういうやつなのかも」と思ったんですよね。そのあと原作を読んだら、また全然違う面白さがあって、自分もなにかやらなきゃと背中を押されて本格的に大人計画に入ったという。

https://www.cinra.net/article/202308-kudokankuro_gtmnm

ただ、出来上がった作品を観ると「黒澤明の映画のリメイク」よりは「山本周五郎の小説のドラマ化」だと感じた。
(念のため書くと本作は別にリメイクを謳っているわけではない)

まず劇中で描かれる様々なエピソードはほぼ全て原作小説から拾われている。
よって鑑賞後の第一印象は「なるほどこれは紛うなき『季節のない街』の実写ドラマ版だ」
もちろんこれは映画版にも通じる特徴だが、宮藤官九郎は原作も愛しているのだなと。

ただ、映画版との差分というべき改変にこそクドカン節が出ていると思う。
まぁそもそもオムニバス形式(連作短編集)である原作は映画よりもテレビドラマ・テレビシリーズとの相性が良く、群像劇というのもクドカンの作風とマッチしていたというのは大前提としてあるだろう。

本作は主人公(狂言回し)に原作ではあっさり街からいなくなってしまうキャラクターの半助(池松壮亮)を置いている。
目的は本人もよく分かっていないが街で見聞きしたことの報告が半助の仕事。
これはまさに原作者の山本周五郎がやっていた事そのものである(まぁどこまで本当か真偽不明なところはあるけれどw)

登場する人物、出来事、情景など、すべて私の目で見、耳で聞き、実際に接触したものばかりであって、『青べか物語』と同様、素材ノートの総ざらえといってもいいくらいである。

山本周五郎本人によるあとがきから引用

さらに新版の戌井昭人による解説なんて今こうして読むと半助そのまま。

そこで、わたしは、街の人たちと自分は違うのだという、イヤな感じの自意識がはたらき、これは人間観察であり、物語を作るためなのだと己に言い聞かせてみる。

新潮文庫新版P.452

物語の舞台も現代日本に。
“ナニ”から12年が経過した仮設住宅街。
この“ナニ”は宮藤官九郎が『あまちゃん』や『いだてん』を手がけてきたこともあって東日本大震災を想起させるが、それ以外にも日本で起きた様々な自然災害を含んでいるそう。

本作は“ナニ”から12年後の世界を描くが、“ナニ”には東日本大震災だけでなく日本各地で起きたさまざまな災害への思いが込められている。

「災害にあわれた当事者の人たちのことを考えたら、僕は普通に生活ができてしまっている。震災の話でさえ、どんな顔をして聞けばいいのかもわからなくて。でもそういう感覚って、口に出してはなかなか言えなくて。

https://news.mynavi.jp/article/20230808-kudo-kankuro/

これも実は山本周五郎が原作で意識していたことに通じている。

それゆえ「ここには時限もなく地理的限定もない」ということを記しておきたい。それは年代も場所も一定ではないのである。

山本周五郎本人によるあとがきから引用

そして半助のやっていた謎の仕事が、これまた原作では序盤のエピソードに出てくるだけのキャラクターであるタツヤ(仲野大賀)と島さん(藤井隆)が絡む縦軸のストーリーとして機能していく。
最終話はほぼオリジナル展開。
(強いて言うなら、この改変により原作ではワイフを愛する善人だった島さんのキャラクターがブレている面はあるかもしれない)
この「間違いなく原作小説のドラマ化なのに鑑賞後はオリジナル要素が印象に残る」という脚色が見事すぎて唸ってしまった。
これ以上ないレベルの換骨奪胎。

また、本作はどうしても企画・監督・脚本を兼任した宮藤官九郎に注目が行きがちだが、他のスタッフも一流どころが揃っている。

音楽は『あまちゃん』『いだてん』でクドカンとタッグを組み、最近では『エルピス』の劇伴も記憶に新しい大友良英。

ここはもう説明不要だろう。

次は衣装。
『どですかでん』は黒澤明にとって初のカラー作品であり色彩設計に並々ならぬ情熱を注いでいたと言われている。
そことの比較が避けられない衣装にはこれまた「近年の国内ドラマ・邦画でスタイリングがイケてる作品は大体この人」な伊賀大介。
近作は『大豆田とわ子と三人の元夫』など。

それこそ『エルピス』も担当してましたね。

録音には近年の城定秀夫監督の作品を彩ってきた山本タカアキ。

あの街の中にある様々な環境音を丁寧に拾い、街の生命感を視聴者に伝えている。

そして何より撮影監督は名手・近藤龍人!

『万引き家族』や『ある男』で発揮されてきた温かみのある柔らかい映像タッチが本作の物語と実に合っている。
(ただ、本作は温かいだけではなく辛いエピソードも少なくないし、結末もほろ苦い面はある。原作もそういう話だし、それらもひっくるめての人間讃歌が本作の主題なのだと思う)
仮設住宅という狭い屋内を舞台に、でも決して退屈な構図に感じさせない画面設計はさすがだった。
相当色んなアングルから撮ってるよなあれは。

宮藤官九郎と日本を代表する一流スタッフが作った和製ドラマ『季節のない街』
個人的にはこのクオリティの作品はもう有料の動画配信サービスでしか作れないのかなとも思いつつ、地上波でも観られる日が来たら良いなぁと思う。
(ちなみに本作の著作権者はテレビ東京)

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