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【感想】劇場映画『ゴールド・ボーイ』

原作は中国の作家である紫金陳(ズー・ジェンチン)のサスペンス小説『坏小孩』
なんでも東野圭吾の『容疑者Xの献身』を読んでミステリー作家を志した人だそう。

日本では『悪童たち』のタイトルで邦訳されている。

文庫本で上下巻だが、どんどん引き込まれるのでページ数の割にはサクッと読めた。

中国では2020年に『隠秘的角落』のタイトルでドラマ化されて大ヒット。
陰毛やウ◯コなどの描写はさすがにカットされ、また後半はがっつりオリジナル展開。
特に張東昇(今回の日本版で岡田将生が演じている人物に相当するキャラクター)の行動が大胆にアレンジされている。
結末も原作とは全く異なるものに。

邦題は『バッド・キッズ 隠秘之罪』

日本ではAmazonプライムやU-NEXTで配信中。
私も映画鑑賞前に1週間ほどかけて全12話を観ました。

というわけで、まず自分は「脚本をどうまとめてくるのか?」に注目していた。
本作の脚本家は港岳彦。
骨太なテーマを内包する社会派の作品を数多く書いている印象。
直近だと『正欲』とか。

金子修介監督とは『百年の時計』以来の再タッグになるのかな?

今作のような純度の高いエンターテイメント作品は珍しい気がする。

で、いざ蓋を開けてみると今回の日本映画版は中国ドラマ版に比べるとかなり原作に近いストーリー。
もちろんエピソードの取捨選択や細かい設定の変更(そもそも舞台が日本になっているし)はあれど。
あらすじを聞かれたら誰が答えてもほぼ原作に忠実になると思う。
ストーリー上最も大きな改変は朱晶晶の事件を“省略”していることで、あとは基本的に日本を舞台にするためのチューニング。

インタビューで金子監督ご自身が港岳彦に相談した理由や経緯を語っていて興味深かった。

「中国の骨格はあるけどディテールは日本の感じ」というのはまさに。

そう、本作の舞台は原作の中国から変更されて日本。
それも沖縄。
その沖縄の夏を見事に撮ってくれる撮影監督が名手・柳島克己。
北野武作品を数多く担当してきた名カメラマンで、代表作の一つに同じく沖縄を舞台にした『ソナチネ』

個人的にはいわゆる「テレビドラマの劇場版」の域を超えた映像を見せてくれた『真夏の方程式』も捨てがたい。

最近だと『カラオケ行こ!』なんかも。

時折挟まれる風景のショット含めて沖縄の映像が良かったなぁ。しみじみ。

そして何より金子修介監督。
映画好きの間ではやはり平成ガメラ三部作やGMKで知られる存在。

GMKは『ゴジラ-1.0』に影響を与えた作品として最近また再評価されてる感じ。
平成ガメラ三部作はもう金字塔の評価が歴史的にも確定。

大衆にはやはり『デスノート』の実写映画化が最も知られているだろう。

漫画原作の前後編フォーマットという(功罪あれど)産業的にも大きな影響を後世に残した作品。

しかし『DEATH NOTE デスノート』のヒットを受けてこれからどんどん大きな映画を撮っていくのかと思ったらフィルモグラフィーは必ずしもそうはならず。
2006年以降の18年間でメジャー作品は東映配給の『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』ぐらい。

もちろん「メジャーだから良い」とか「ミニシアターは規模がショボい」とかって単純な話ではない。
むしろどんな規模・ジャンルでも確実に平均点以上を叩き出す職人監督の凄みもある。
とはいえ平成ガメラもGMKも好きな身としては「またいつか大きな映画も撮ってほしいな」と思っていた。

そんな折に飛び込んできた本作の知らせ。
キャストを見てたまげた。

  • 岡田将生

  • 黒木華

  • 松井玲奈

  • 北村一輝

  • 江口洋介

突然の豪華キャストw
何があったんだw
でもって脚本に港岳彦で撮影に柳島克己と来ればこれは金子修介監督久々の大作の予感である。

しかし、これがまた蓋を開けたら良い意味で予想を裏切られたというか子役チーム3人が素晴らしかった。
(他2人より出番がやや少なめの前出燿志ももっと見たかった!)

そもそも「夏休み」という設定やジュブナイルものというジャンルは往年の作品を知っているファンなら思わず膝を打つであろう金子監督の十八番。

今作でもその手腕が炸裂。
サイコパス殺人鬼を演じる岡田将生とストーリー的にも演技的にも張り合う中学生を演じた羽村仁成が素晴らしい。
原作未読の人は終盤の展開に開いた口が塞がらなかったのでは?w
彼の演技力も、それを引き出した金子監督の演出も見事。

終盤の展開といえば、自分が原作の“弱点”だと思っている構成があって、原作は種明かしパートがその手法の都合上どうしても読者には既知のことばかりになってサプライズどころかむしろ失速してしまう。
もちろん最初は驚くのだけど、読む内に「いや、もう真相わかってるけどな…どこまで続くんだこれ?」と飽きてくる。
今回の日本映画版ではその種明かしパートをかなりスマートにテンポよく片付け、さらに映画オリジナルのもうひと展開まで足していて素晴らしかった。
(まぁあの手紙の内容は人によっては「あまりにも男性に都合の良い理想的すぎる女性像」と感じるかもしれない)

キャストの話に戻ろう。
金子修介監督といえば、アイドル映画も数多く手がけ、アイドルに限らず女優を綺麗に撮ることに定評がある。
(これもまた昨今の人権意識の変化の中で「少女や女性を消費する」問題と結び付けられて絶滅危惧種になる作家性なのかもしれない)
そのフィルモグラフィーに本作で加わったのが夏月役の星乃あんな。
ぶっちゃけ岡田将生よりも羽村仁成よりも金子監督の情熱を感じたw
ガメラ…じゃなくてカメラに愛されてましたね。

中国ドラマ版の普普とも雰囲気どことなく似てるような?

日本映画版の上間夏月(星乃あんな)
中国ドラマ版の普普(王圣迪)

あの結末を用意しておきながら、中盤は夏月と朝陽(羽村仁成)の淡い青春映画のテイストで仕上げてくる辺りさすが金子監督だなと。
2人で道を走るザ・青春映画なシーンは中国ドラマ版へのオマージュ?
あの青春映画の味付けがあるからこそ上で「都合が良すぎるかも」と書いたラストの手紙にも一定の説得力が備わる。

原作未読の人には二転三転するジェットコースターのようなストーリーで魅せ、自分のような原作を知る人にも「こう来たか!」という作家性で魅せる。
金子修介監督の大きな新作映画をまた観れて本当に良かった。

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