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【感想】フジ金9ドラマ『イップス』第1話

オークラとバカリズム

第1話の脚本を書いたオークラは著書『自意識とコメディの日々』の中でバカリズムとの出会いをこう振り返っている。

自分が作るシステムコントよりスマートで、かつ枠からはみ出さないシンプルな構成、そして余計な笑いもないがポイントポイントで確実に笑わせる、すごく美しいコントだった。ネタを作った升野君は僕より2歳年下で当時19歳。映画学校の同級生とバカリズムというコンビを組んで、まだ2回目か3回目くらいのライブ出演だった。年下に完敗したと感じた瞬間だった。

https://ohtabookstand.com/2022/02/jiishiki-03

ちなみに「システムコント」をオークラは下記のように定義している。

システムコントとは「まず演じるコントの世界に1つのシステム(ルールや状況)を作り、そのシステムを前提としてお話を進めていく。そして、そのルールをお客さんに理解させたところで、展開のさせ方や崩し方でさらに笑いを作る」というものである。そのルール自体が笑える仕組みの場合もある。

https://ohtabookstand.com/2022/02/jiishiki-03

倒叙ミステリーもまさにシステム

  1. 犯行シーン(視聴者は真犯人をこの段階で知る)

  2. そこに何らかの理由で主人公が居合わせる。

  3. 主人公と犯人の対決

  4. 犯人のミスや主人公からの逆トリック

  5. いつから私を疑ってたんですか?

システムの浸透度は大喜利のお題として成立するほどw

そんなシステムコントならぬシステムドラマの主演(正確には篠原涼子とのダブル主演)にバカリズムをキャスティングするとはw
月日を重ねて良い意味で自意識や尖りが抜けてきた人生を感じる。

古畑任三郎

さて、始まってすぐ嘘を見抜く黒羽ミコ(篠原涼子)の姿に日本ではU-NEXTで3月から配信が始まったばかりの『ポーカー・フェイス』を思い浮かべたドラマ好きも多いのでは?

主人公が警察ではないという点も共通。

ただ、やはりフジテレビで倒叙ミステリードラマといえば歴史的名作にして金字塔『古畑任三郎』

その第1話の犯人の小石川ちなみ(中森明菜)が少女コミック作家だったというのを思い出すと、本作のミコがミステリー作家という設定にもニヤリとしてしまう。

古畑オマージュを最も感じたのは終盤で事件を解決した後にミコが犯人にかける台詞

麻尋「もう…私の人生終わりですよね?」
ミコ「いえ、もがき続けたら絶対にリスタートできるはず」

古畑が小石川ちなみにかけた台詞がこちら。

ちなみ「あんな男のためにどうして私の人生を棒に振らなくちゃいけないのかな?」
古畑「おいくつですか?」
ちなみ「28です」
古畑「まだまだじゃないですか。第1巻目が終わったところですよ、カリマンタン※で言えば。ハッピーエンドは最後の最後に取っておけばいいんです。あなたは良い奥さんになれますよ。保証します」

※『カリマンタンの城』という劇中で小石川ちなみが描いている漫画

イップスという言葉をタイトルに持ってきた事から推察するにこの辺りの台詞は作品テーマに直結してくるのかな?

そこから弁護士を紹介する流れもシーズン2第1話の犯人の小清水潔(明石家さんま)を思い出したり。
(小石川ちなみは小清水潔の弁護により無罪判決を受けたという後日談がある)

ガリレオ

自分が今回観ていて「お!?」と思ったのは真犯人は麻尋(トリンドル玲奈)と最初から明かされているものの、感電を避けたトリックは視聴者にも伏せられていた点

これは同じくフジテレビを代表する倒叙ミステリードラマの『ガリレオ』を継承している。

こちらも犯人はゲスト俳優の存在により視聴者にもバレているが、古畑とは異なり殺害方法(科学トリック)の解明が肝になるシリーズだった。
シーズン2はそれがちょっと薄まってしまったのは個人的には残念だったな…
映画『沈黙のパレード』では実験シーンがあの曲と一緒に復活してて懐かしかった。

ただ、ガリレオの最優秀作は柳島克己が撮影監督を務めた『真夏の方程式』

その辺りは以前詳しく書きました。

閑話休題
『イップス』の第1話も純水を使った理科トリック(ガリレオの科学トリックに比べると小粒ではある)
麻尋が水風呂に何の液体を入れていたかは解決編まで明らかにされない。
ハウダニット要素もあって面白かった。

刑事と民間人のバディという設定も共通ですね。

全体を通して

倒叙ミステリーもテレビドラマも好きな自分としては一応楽しく観たのだけど、好みが分かれそうな点も。
やはりコメディ色が強くてミステリー部分は弱いという印象は拭えない。
オークラ脚本のはずなのにバカリズム脚本としか思えないバカリズムの台詞回しは最高なんだけど、犯行トリックは雑ではあるよねと。
被害者との関係性からすぐ疑われるし、死体も隠してないんかい!とw
アリバイ工作も無いし。

まぁオークラは前述の著書で

このシステムコントを追い求めるのは修羅の道である。

https://ohtabookstand.com/2022/02/jiishiki-03

とも語っているし、森ハヤシ脚本回もあるそうなので第1話で判断するのは時期尚早か。

あと、意外と難しいと思ったのが解決編を2人で喋るとテンポが悪くなりがちという点。
古畑も湯川も喋るのは1人で、ガリレオの相棒役の刑事も台詞量的にはサポートに徹している。
それこそテレ朝の『相棒』も台詞量としては圧倒的に右京さん。
本作はそこを2人の見せ場を同じ量にしようとしているっぽいのが思ってたよりも難易度高いんだなと実際に観てみて。
どうしてもテンポが落ちてしまう。

近年のテレビドラマだとTBSの『石子の羽男』はそこをカットバック編集(切り返し)で上手いことカバーしてたなと。

あと同じく民間人の立場で捜査に協力する湯川が「奇妙な現象にしか興味は無い。事件の解決は警察の仕事」という割り切ったスタンスを台詞でも繰り返し言わせているのに対して、ミステリー作家に過ぎないミコがなぜ真相究明にこだわるのか?の動機作りも大変そうだなと思ったり。
「間違ったオチは書きたくない」という台詞も決して悪くはないのだけど、いっそ『ポーカー・フェイス』のチャーリーみたいにそういう性格って設定で押し通してもいいんじゃないかなと思った。

「ちょっと首突っ込んでいい?」

って決め台詞もあるわけだし。

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