【感想】Peacockドラマ『ポーカー・フェイス』シーズン1
2023年1月から3月にアメリカで放送されて絶賛の嵐だったPeacockドラマ『ポーカー・フェイス』
約1年後に遂にU-NEXTで配信がスタート。
シーズン2継続も決定済み。
本作のクリエイター(企画・製作総指揮・脚本・監督)は映画監督のライアン・ジョンソン。
歴史に燦然と名を残すはずだった『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は残念ながら全世界から酷評されてしまった。
そこから『ナイブズ・アウト』シリーズで再起。
さらにトロント国際映画祭2023で観客賞を獲ってアカデミー賞にもノミネート中の映画『アメリカン・フィクション』や今年最注目のNetflixドラマ『三体』に製作総指揮(エグゼクティブ・プロデューサー)として名を連ねており完全復活の感すら漂う。
スター・ウォーズは上手くいかなかったものの、近年はしっかり面白い作品を世に送り出している。
復活してくれて良かった。
そんなライアン・ジョンソンにとって初のテレビドラマとなる本作は倒叙ミステリー。
犯人は序盤で明かされていて、主人公が犯人を追い詰める過程を楽しむ。
『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』と同じジャンル。
誰が犯人なのか?に物語の吸引力がある『ナイブズ・アウト』とは正反対。
ライアン・ジョンソン的には「フーダニットもいいけど倒叙もやりたいぜ!」ってことなんでしょうか?w
どちらもテレビドラマ史に残る名作にして金字塔
主演はナターシャ・リオン。
『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』や『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』といったNetflixドラマの印象が強い人。
コロンボや古畑と同じく倒叙ミステリーはまず主人公が魅力的であることが大切だが(魅力に欠ける人物が犯人を追い詰める過程なんて別に見たくないし)ナターシャ・リオンはこのハードルを軽々とクリアしてみせる。
やさぐれた佇まいとあの声が良いんですよね。
コロンボと同じく犯人から「取るに足らない貧乏人」とナーメテーターされてるから終盤にカタルシスが生まれるわけで。
テイストは恐らくコロンボにオマージュを捧げていると思われる、どこかクラシカルな古き良き米国テレビシリーズの趣。
2010年代以降、ハリウッド映画を凌駕する勢いで洗練されてきたテレビシリーズの映像よりは敢えて少し粗めなように思う。
同様にミステリーには不可欠な伏線回収も今の時代の感覚からするとやや緩い。
いわゆる“考察勢”には物足りないかもしれない。
いずれも本作にはむしろ合ってるわけですが。
で、いざ観始めたらこれがまぁとにかく面白い!
あの黄色いフォントでタイトルが表示されるオープニングから最高w
「コロンボじゃん!」と笑顔になってしまうw
しかも第1話のゲスト俳優がエイドリアン・ブロディですからね。
豪華も豪華、超豪華。
『サクセッション』のシーズン3にワンポイントで出演したのに続きおいしい役w
第2話のゲストは『ウォッチメン』の鮮烈な印象もまだまだ記憶に新しいホン・チャウ。
これまた豪華。
倒叙ミステリー×テレビドラマの醍醐味。
プロットにもコロンボへのオマージュが随所に見られる。
第1話が計画的な(本作の場合は厳密には組織的な)犯行で第2話は衝動的な犯行という構成も。
双眼鏡に向かいの景色が映るショットには『指輪の爪あと』の眼鏡の演出を思い出したり。
第3話は動機が『別れのワイン』で解決の決め手は『アリバイのダイヤル』
日本の視聴者的には、ラジオの生放送をアリバイに利用して殺人を犯すというトリックが古畑で桃井かおりが犯人役を演じた『さよなら、DJ』そっくりなのもニヤリと出来る。
第4話はバンド内で作詞作曲のクレジットとお金が絡んだ動機ということで『構想の死角』
古畑なら『笑うカンガルー』か。
第6話はかつてのスター女優が犯人ということで『偶像のレクイエム』
一瞬「犯行は失敗に終わったのか?」と視聴者を騙すのもオマージュ。
ただし本作の場合は即ネタばらし。
個人的には全10話で折り返し地点を過ぎてるわけだし、本来の標的を殺せたのか失敗したのか不明なまま進むというトリッキー回があっても良かったかなという気もした。
と思ったらその次の第7話がまさしく『偶像のレクイエム』の犯行トリックをさらにもう一つ転がしたようなトリッキー回!
そしてなんと第8話もまだまだ『偶像のレクイエム』w
犯人の設定も往年の名女優だし、過去の殺人が鍵を握るプロットも。
ライアン・ジョンソンはあの話が好きなのだろうか?w
事件解決の決め手は文字通り『ビデオテープの証言』
そして第9話。
ゲストはジョセフ・ゴードン=レヴィットとステファニー・スー!
なんと主人公が殺人の標的になるというサスペンス溢れる異色エピソード。
ここまで終始一貫ミステリーで来た中での変化球。
コロンボでも古畑でも見られなかった新たな一手。
ちなみにここでも「過去に犯した殺人事件」という『偶像のレクイエム』と同じモチーフがw
あと昨年末に配信されたNetflix映画『終わらない週末』に続き鹿の使い方が印象的。
シーズンフィナーレとなる第10話もまた変化球。
今度は主人公が罠にハメられて降りかかった冤罪容疑を晴らすために奔走。
日本では配信順が前後したけどAmazonドラマ版『Mr. & Mrs. スミス』でも印象的な役を演じていたロン・パールマンが重要な役どころ(兼被害者)で満を持して登場。
これまでのエピソードで撒いていた伏線を回収しながらシーズン1としては着地しつつ、シーズン2の幕開けにも繋げる全体構成が見事。
あまりに面白いので「とにかくみんな見てくれ!面白いぞー!」というテンションでいつも以上に中途半端な駄文を書いてしまいました。
まさか2024年にこんなにも面白い倒叙ミステリーの完全新作をテレビドラマで観られるとは思ってもみなかった。
ライアン・ジョンソンありがとう。
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