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ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもにとっての理想の学校・学びとは

 2022年日本自閉症協会全国大会(佐賀)でのシンポジウムで表題の話題提供をさせていただきました。いくつかリクエストをいただいたので当日の話題提供の一部を書きおこしてみました。

 ASDのある子どもに対する「特別支援教育」についての議論は、当然ですが、常に現実の教育制度をその念頭において行われます。しかし現実の教育制度にとらわれないで、夢を語ってみるのも悪くないかなと思っていたところ、今回のお題をいただいてこのような話をさせていただいた次第です。
 
 自分の苦手な刺激がない場所で、自分の興味関心がある活動に、自分のペースで見通しをもって取り組め、そこには理解者もいる、という環境の中では「ASD」という「障害」は限りなく小さくなるのではないかと思います。 
 逆に、苦手な刺激がある中で、他者や集団のペースに合わせて、興味関心がない活動を、突然の変更のある中で取り組まなければならず、叱責ばかりする人がいる、という環境の中では、その困難は大きなものになり、時として「障害」となるでしょう。ASDの中核的症状といわれる「対人的・社会的関係性の困難」や「こだわり」などの特性に基づく行動も、こうした環境との相互作用の中で、強くもなり、弱くもなると考えられます。

 ASDのある方にとっての理想の教育環境、学校とはどんなところでしょうか。ここでは仮想事例を設定し、私からみた理想の学校について書いてみたいと思います。ASDはスペクトラム(連続体)ですから、個々に応じた教育という側面からの、「ASDとしての最適解」はないと考えます。
あくまで一つの仮想例であることをお断りしておきます。

ASDのあるマー君の未来の小学校

ASDのあるマー君は、ヨナゴ小学校に通う6年生です。マー君の7歳上のお兄さんもASDがあり、当時「特別支援教育」のもとで、配慮を受けながら通常学級で学んでいました。しかしお兄さんは、教室での学習にも学校に行くことにも大きな困難を感じ、学校に行けなくなってしまった時期もありました。

 しかしマー君が入学した20△年から始まった「ニューロダイバーシティー法」によって、マー君の教育課程はお兄さんの頃とは大きく変わりました。

 昆虫が好きなマー君は、昆虫関係の専門科目が既存の科目に読みかえられようになっています。例えば理科(昆虫の生態)、国語(昆虫観察日記の執筆)、算数(昆虫の分布図づくり)、などです。これらは書くことに困難があるマー君のためにタブレットが選択できるようになっています。

 時間割は彼のタブレットに表示され、事前に先生と話し合って週ごとに時間割を決めています。また週にどれくらいの授業を受けるかも選ぶことができます。

 もちろんみんなと同じ科目を受けることもできますが、今は来週の日本昆虫学会とコラボした小学生部会でのイベントの発表資料作りのため、「専門科目」中心にしています。

 これらの専門科目は、他の地域の同じ領域に興味を持つ子どもたちとインターネットで学び、今回の発表資料もこのチームで作っています。先生は東京の博物館学芸員の方が担当されていて、専門性の高い内容にも質問に答えてくれます。

 学校行事への参加は、感覚過敏があり参加に関して強い困難を感じる彼のために、数か月前からスケジュールがタブレットに表示され、必要な配慮がポップアップされ、その中から希望する合理的配慮が選択できるようになっています。彼が去年受けた支援メニューも表示され、マー君が去年記入した満足度と先生のコメントもみることで今年の支援の参考にすることができます。

 学年ごとの教科成績は相対評価ではなく到達度だけで評価されます。マー君は苦手な教科の一部、例えば「漢字の書き取り」は小3のレベルをしていますが、テストはパソコンを使った選択式で出題されるので気は楽です。読めて意味が分かっていること、文章の中での適切な使い方についてが漢字の学習の中心になっています。

 マー君の時代には先生の数が不足していることもあって、こうした漢字や計算などの学習は、ほとんどイーラーニングによって学んでいます。今年から授業の3割がイーラーニングになり、先生はわからないところを巡回して答えてくれています。

 マー君のように理科だけの成績が突出している場合は、ニューロダイバーシティー法によって1科目だけが突出している学生を一定枠受け入れる入試が高校や大学で行われていますので、マー君の小中学校ではお兄さんの時のように「苦手科目の克服」を中心に教えられることはなくなりました。

 マー君の到達度や指導方法はクラウド上に保存されているので全国どこに転校しても一貫した教育を受けることができます。困ったことに関しては24時間のネットによる心理相談がAIと相談員によって可能になっていて、選ぶことができます。もちろん定期的な相談も可能です。

 私が考えた一部はこんな感じです。ASDのある人にとっての理想の学校のシステムがみんな(定型児や他のニーズを持つ子ども)にとってもよいものになるとさらによいですね。みなさんはどんな「理想の学校」をイメージされるでしょうか。理想の学校は決して夢ではありません。既存の教育の問題点の指摘や改善だけではなく、理想について語ることが大きな発想の転換になることもあるのではないでしょうか。


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