見出し画像

2005年ヒッチハイクの旅 4日目〜札幌観光〜

贅沢

 ラーメン屋に入る。お客さんは数人。席につき、麺の固さなどを選んで書き込む紙を渡され、それに記入してラーメンを待つ。出てきたラーメンを、30分くらいゆっくり時間をかけて食べる。
 ラーメンを食べようと思ったのは、モンゴルさんに会う前にメールで、札幌に来るならラーメンを食べておこうという話になったから。味は、おいしいと思うけど、特別にそうというほどではない。しかし、おいしいものを食べたいという欲がほとんどないので、それはどうでもいい話であるが。
 アンケート用紙もあったが、そういうこともあるのと、面倒なので書かなかった。

 会計を済ませ、ネットカフェへと足を運ぶ。ホテルに泊まるくらいならずっと安くつく。札幌あたりではホームレスがいないほど野宿するところがないと、モンゴルさんに教えてもらっていた。ホテルで泊まるには高すぎる。ネットカフェに行くのはごく当然の流れ。それくらいのお金は用意してある。これから旅が終わるまで何回か利用する予定でいる。
 店に入ると、社員なのかアルバイトの人なのか、不慣れな人が対応に出る。
「会員カードをお作りしてもよろしかったですか?」
「絶対入らないと駄目なんですよね」
「はい、こちら、入っていただかないとご利用できないんですよ」
 じゃあ、なんで聞いた。
 名前や住所を記入。もう、来るかどうかもわからない場所に個人情報をさらすのはいただけないが、仕方がない。こういうことを聞かないネットカフェもあるけど。時間は、12時間パックというのもあったが、初めの予定どおりモンゴルさんから聞いていた8時間パックというのにした。深夜だからかわからないが、どこの席でもいいということなので、二人がけの席に坐ることにした。
 古臭いパソコンで驚いた。ヘッドホンもなくて驚いた。テレビを見て、天気予報を見たかったが、やっておらず残念だった。天気よりも天気図を見たかった。北海道の天気図は北海道でしか見ることができない。それは旅先でのちょっとした楽しみでもある。
 主にネットサーフィンをし、後は漫画の『ピューと吹く!ジャガー』を少し見る。ジュースは飲み放題だったが、あまりほしいものがなかった。
 最後のほう、3~4時間ほど、ソファーに足を伸ばして横になり眠る。

画像1

 ブースを出る前は、ネットサーフィンをしている間に入力した個人情報を削除する。個人情報を見られることはないと思うが、現実的にそれが可能なわけで、削除するにこしたことはない。ネットカフェを出るときは、必ずこれをするようにしている。精算をしてもらう。割引券をもらうが、もうここへ来ることはないと思うので後でモンゴルさんにあげることにした。
 その店を出る。
 ラーメンを食べて、ネットカフェに行って、贅沢しすぎだなと思う。また、節約しなければ。

札幌観光

 外は朝。少し曇っている。
 コンビニに行って、『僕といっしょ』や『ドラえもん』の漫画を見ながら時間をつぶす。その間にモンゴルさんとメールでやりとり。待ち合わせ場所など指定。来るまでの間、セガワールドに行ってみる。昨日、セガワールドにはセガのゲームしか置いてないとモンゴルさんから聞いていたけど、セガ以外のゲームもあった。
 モンゴルさんがこっちに来たみたいなので、セガワールドにいることを告げ、10時過ぎ、駐車場で会う。

「どこ行きましょうか」
 と、モンゴルさん。
「前、言ってたところ行きましょ」
 と、私。前々からメールで、札幌駅近くを観光する予定をしていた。札幌駅まで車を走らせてもらう。朝の天気はあまり優れていなかったが、次第に良くなってくる。
 札幌駅から少し離れたところにある駐車場に車を停める。モンゴルさんがケータイをいじっているときに、着ていた服を着替える。今の気温で、女の人と歩くのに相応しい格好になるように。
「でも、長袖は着るんだ」
 と言われる格好。彼女はもちろん半袖。気温の差に弱い私は、建物の中に入るなら長袖のほうがいいと思った。

画像2

 駐車場を出て、ビルが林立する繁華街を歩いていく。
 大きなたぬきのオブジェが釣り下がっている、狸小路商店街というところを歩く。有名なところなのかわからないが、聞いたことはない。
 街頭で「野菜を食べよう」というようなキャッチフレーズで野菜を配っている人たちがいた。なぜ、こんな街中で野菜。しかし、受け取る人はけっこういる。半透明の、スーパーの袋のようなものに緑の葉の野菜が入っている。
 こんなのもらってもしょうがないな、と思っていたけど、なぜか受け取るモンゴルさん。つられて私も受け取る。今夜の食材を片手にスーパーからの買い物帰りのようになっている二人。野菜は後でモンゴルさんにもらってもらった。

画像3

 少し歩くとテレビ塔が見えた。その見える場所は広場のようになっていて噴水がある。嬉々として遊ぶ子供たち。よくテレビで猛暑を伝えるときに見るような光景だ。
 少しまた歩けば時計台があるという。それにしても、観光名所が歩いていける距離に密集している。
 モンゴルさんも、他の時計台を見たことのある人や北海道の人でさえも言う「がっかり名所」の時計台。もう、どれほどがっかりするのかが楽しみになってきた。
「申し訳なさそうに建ってますからね」
 と言われ、その姿が見えた。本当に、申し訳なさそう。
 すぐ隣がもう高いビルで、その間にぽつんと佇む、その昔に取り壊しをまぬがれた時計台。近くまで歩く。観光用の写真では、全てアップで写っていて、周りの建物が写り込んでいない意味がよくわかる。私は、あまりがっかりしなかった。けっこう、これはこれでいいと思う。あまりがっかりしなくてがっかりしてしまった。
 記念撮影をしている人がいる。隣のビルの影で少し薄暗い。中に入るのはお金がかかるので入らない。写真だけ撮ってもらう。

画像4

 続いてモンゴルさんに案内されるまま、サッポロファクトリーへと足を向かわせる。
 そのレンガ造りの建物の姿が見えた。なんの建物かはよくわからない。中に入ると、レストランがあっただけですぐに通り抜けてしまう。
〈あれ? レストランだけ?〉
 その先のショッピングセンターでぶらぶらする。
 服屋ばかり。
「旅中やのに、服見てもな~」
 でも、時計屋には寄ってみる。ん十万するような機能重視の時計は興味がなくて、1~5万円くらいの、デザイン重視のカジュアル時計に興味がある。今は買う気はないが、服とは違って見ているだけでも面白い。
 小さな時計屋で、これといって面白い時計はなかった。

 モンゴルさんは、映画の『電車男』を見ていて、ものすごくよかったと絶賛する。ビデオで見るものじゃない、映画館で見るものだと言う。ますます見たくなった。
 モンゴルさんと私とでは、暑さの感覚が違う。大阪育ちと北海道育ち、しかも私は激しい温度差に弱い。モンゴルさんとは一緒の部屋にいられないと言って笑った。

画像5

 旧本庁舎に行く。中はそのまま入れるので、中を見てまわる。札幌の歴史、北海道の地名がびっしりと書かれた昔の地図、資料諸々。建物内が静かなこともあって、二人とも口数少なく、資料などを見る。
 昔のこの辺りの模型があり、それを見て、駅から近いことを知る。駅から歩いたり曲がったりしてここに着いたので、近いとは思っていなかった。

 ひととおり観光名所は見終わり、駅へと向かう。
「これで、また札幌来たときに誰か案内できるわ」
 と言う。それぞれが近いところにあるし。
「駅の北側案内すればいいんやろ」
 と私が言うと、モンゴルさんの表情がとまった。
 えっ、あれ、違ったっけ。違う、そうや、南側や。
 私の、その発言で、方向音痴のレッテルを貼られてしまった。勘はいいことを言って自分をフォローする。

ぶらぶらと

画像6

 札幌観光、約2時間で終了。時刻はまだ昼を廻ったばかりだ。さすがに、これで札幌ともモンゴルさんともお別れするのは寂しい。なので、どこかでぶらぶらすることにした。場所はロフト。札幌にしかないわけではないけど、色んな面白いものがあって暇をつぶすにはもってこいの場所。
 駅から近いそのロフトに来る。外壁がレンガだった。
「レンガなんや」
 とつぶやくと、
「普通、レンガなんじゃないんですか?」
 と返ってくる。
「そんなわけないやん」
 と笑って返す。

 一階からエスカレーターを使って上に行きながら、ぶらぶらと見てまわる。
 店内中央に構えるエスカレーターを降りて、右に曲がろうとするモンゴルさん。
〈えっ?〉
 と思った。なぜそう思ったか一瞬わからなかったが、すぐにわかった。そういえば、私はこういう場合、いつも左に曲がっている気がする。店を廻るとき、左でも右からでも歩いていけるけど、そういえば、だいたい無意識に左に曲がる。人間は、意識しないで歩いていると、左へ曲がるものだということは知っていたが、本当にそうなのだと実感させられた。
 右に曲がられ、ものすごい違和感が私を襲った。
「普通、左に曲がらへん?」
「えっ、いつも行きたい方向へ行きますよ」
「無意識やと、人間、左に曲がるらしいで」
「そうなんですか」
「ほら、運動場のトラックとか左廻りやん」
「そういえばそうですね! あ、ほんとだ、気持ち悪い!」

 ロフトは本当に色んな面白いものがあって、見ているだけで楽しい。雑貨もある本屋のヴィレッジヴァンガードや、紀伊國屋などで主に時間をつぶして見てまわる。自分の好きな漫画やモンゴルさんの好きな漫画のことを話す。
 大阪の梅田にあるロフトは一階に時計屋があるが、ここの一階には見当たらず、上の階にもなかった。どうやら、地下にあるらしいので下りる。たくさんある、デザイン重視の時計。目を輝かせて見る私。デザインの面白いものが好き。たとえ、読みにくかったり、なんとなくの時間しかわからなかったりしても、仕事などで使うのでなければいい。
 モンゴルさんはあまり興味がなさそう。そして、私が興味を示す時計は、何時かわかりにくいものばかりだとつっこまれる。

 長袖を着てきたのは選択を過ったかなとも思ったが、ロフトにいる間は長袖でよかった。
 ロフトを出る。15時。昼はなにも食べていない。マクドナルドが見えた。
「『マック』見えましたよ」
と、モンゴルさん。
「『マクド』見えたな」
「なにそれ、『マクド』って。見えないっすよ」
「『マック』こそ見えへんけど」
 そんな会話をしつつ、そこに行くかどうか話す。夜にどこかで食べようかという話にもなっていた。帰りは札幌の街の外れか、小樽まで乗せていってほしいことを言っていたので、その小樽で食べるのもいいと思っていたが、車を停めるところがないらしいし、ラーメンはもう食べてしまったし、二人のお金を節約するためにも、その見えたファストフード店に行くことにした。

 中は、昼飯や晩飯の時間帯ではなかったけど人が多かった。二階に行って席が空いているかどうか見るが、ほとんど埋まっている。奥に席が空いていたが、注文をしてから来たのでは遅いかもしれない。もう、すでに商品を持ってきて席を探している人もいる。そんなことを思っていると、モンゴルさんが、荷物(というか野菜の袋)で場所を確保した。
 すごい……。いや、それが普通なのだろうか、私が甘すぎるだけなのだろうか。席を探していた人が、こちらを見ていた気がした。
 下に戻って、それぞれ注文をする。それを持って上がり、通路側に私、壁側にモンゴルさんが坐る。私が頼んだのは、いつも頼むてりやきバーガー。そして、新商品らしいマンゴーリータというシェイク。そのシェイクを飲むと、マンゴーっぽい味がしなかった。マンゴーの味がよくわかっていないのもあったけど、でもやっぱりおかしかった。チョコレートっぽい味がした。
 そのことをモンゴルさんに言い、見せると、「チョコレートだ」と返ってきた。やっぱりチョコレートだった。
「マンゴー飲んだことあるけど、あんまりおいしくなかったですよ」
 と言われたので、それならチョコレートでもいいかなと思い、そのまま飲むことにした。
 ふと、彼女が意図のわからない質問をしてきた。
「雅彦さん、なに頼みました?」
「ん? てりやきとマンゴーリータ」
 なにか言いたげな不敵な笑みを浮かべるモンゴルさん。意味がわからなかったが、「もしかして」と思った。マンゴーリータの他に私が頼んだ、その包装紙に包まれたものを見る。そう、この包装紙には、てりやきと書かれているはず。
 てりやきじゃない……。
 これはさすがに換えてもらわなければ。
 トレイごと持って1階に下りようとすると、店員が対応してきた。食べ終わったものだと勘違いしたので、事情を話してレシートを見せると、謝って、ちゃんとしたものを持ってきてくれた。
 悪いのはその人じゃないのになんか悪いなと感じてしまう。

 血液型の話をする。モンゴルさんはB型らしい。それを聞くまでも、なんの血液型か予想はしていたが、あまりB型には見えなかった。でもそう言われると、そうかもしれない。サバサバしていて、ネチネチしていない。
 後で一緒に写真を撮っていいか聞いたが、きっぱりと断られてしまった。

 ここの店で、襟の部分に五芒星の星印があるセーラー服を着ている女子高生を見た。以前に、星のついた制服を、画像で見たことがあったが、生で初めて見た。画になるデザインだなと思う。

小樽へ

 駐車場に戻り、車を走らせてもらう。
 札幌からは、南か北かに進んで函館に行くことができる。函館は本州と北海道とを結ぶ北海道の玄関口であるのでかならず通る街である。南から函館に行くとなると、分かれ道が少ない単純な道だけど遠いルートと、近いけれど分かれ道が多くてヒッチハイクで一気に進むのが難しいルートがある。選んだ道は南ではなく北。北西の小樽を行くルートにしたのは、分かれ道も少なく、それほど遠廻りになる距離ではないし、小樽を観光したいと思ったから。

 小樽に向かう前に、CDをくれるというので、モンゴルさんの家まで車を走らせる。
 「空気公団」の、私の持っていないCD。もともと、自分が好きで聞いていて、それをモンゴルさんにも勧め、好きになってもらえたミュージシャン。あまり有名な人たちではないが、聞けばけっこう好きになる人は多いと思う。最近は、CD自体を買うことがないため、欲しいと思ってもそれで終わってしまうことがしばしばである。
 家に入る彼女を車の中で待つ。戻ってくる。なかったと言う。その代わりなのか、チオビタドリンクとペットボトルのお茶をもらう。

画像8

 高速へ向かう。高速に乗るのは、免許を取ってから初めてだというモンゴルさん。これが初高速である。
 高速に入る。入ってすぐのところで、行き先が分かれていて、小樽方向とその逆方向とがある。それを見てか見ずか、彼女は逆方向に行く。
〈今の見たんかな? こっちであってるんかな〉
 聞いてみる。
「こっちであってんの?」
 やっぱりさっきの標識を見ていなかったみたいだった。ちょっと進んで標識があり、やっぱり逆方向に進んでいることを確認する。
「ちょっとー、どうしてくれるんですか」
「俺のせいかよ」
 こういったやりとりがもう普通になっている。
 高速で最初に間違えたのが、私でよかった。誰か大事な人と大事な場面で間違ったりせずに済むと思う。

 サービスエリアを見つける。そこで車を停め、そこで反対車線へ行けないか聞きにいくモンゴルさん。外で待つ私。
 以前のヒッチハイクのときに、高速に乗って、私が行くべき方向ではない方向へ進んでしまったときに、あるサービスエリアでは反対側に出ることができた。ここでもそれができるかもしれない。
 サービスエリアの建物から戻ってきたモンゴルさん。駄目だったらしい。一度料金所を出ないといけないらしい。逆の道からでも、函館方面へ行けないことはない。いっそこのまま逆方向に行ってもいいかなとも思った。
 そのことを言おうか言うまいか少し迷っているうちに、車は進路を高速の出口へ向かう。
 少し行った料金所を通過し、Uターンしてまた入りなおす。

画像7

 話をしながら車は進む。高速は小樽の街に入ったみたいだ。
「小樽ついた!」
 とモンゴルさん。
「小樽キターーーーー!」
「キターーーーーーー!」
 2ちゃんねるのネタが通じて返ってくるのが嬉しい。
 小樽までは意外と早かった。モンゴルさんが初めに言っていた目安の時間よりずっと早い。聞くと、その時間は適当に言ったらしい。あと、料金も適当な目安でまったくわからなかったらしい。

 18時。小樽駅に着く。少々廻り道をしたものの長く話せたので、それはそれでよかった。車を駅につける。これから寒くなる時間帯だし、外もすでに少し寒くなっているので服を着替えなおす。私は自作の絵本『ふたり』を持ってきたことを言って、見てもらった。

「残りのお金で帰れるかなー」
 と、いかにも私に金を出してくれといわんばかりの言葉。でも、一日一緒にいると、冗談だとわかるし、モンゴルさんらしいなと思う。
「……なんぼくらいいる?」
「……300円くらい?」
「じゃあ、小銭全部あげるわ」
「あ、いや、冗談ですって」
「いいっていいって、どうせ全部で400円くらいしかないし」
「ほんとすみません、ありがとうございます。あ、じゃあ代わりになにかあげますよ」
「いや、いいっていいって」
「いや、あげますあげます。私の宝物あげます」
 そう言って、財布から「ワンピース」のカードを取り出すモンゴルさん。なぜにワンピースなのだろう。
 冗談で宝物と言っているのか、本当に宝物と言っているのかわからない。「どこが宝物やねん」とつっこもうと思ったけど、本当にそうだったらものすごく失礼なのでやめた。
「いや、いいし」
「えーー、私の宝物なんですよ。これを私だと思って」
「ほら、モンゴルさんは俺の心の中におるからいいわ」
 あまりにクサいセリフだったので、「今、俺、いいこと言った!」と付け加える。
 モンゴルさんは、代わりになにかあげるものを探す。「ええよええよ」と言う私。
「お茶、あげます」
「あーー、荷物になるからええわ」
「そっか。じゃあ……」
 あれやこれやで最終的に「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」の主人公のストラップ、そして、チオビタドリンクをくれた。他になにか欲しいものはないか聞かれると、ポケットティッシュを希望する私。すると、こんもりと取り出し、私にくれる。
 私は『ふたり』の絵本をもらってもらった。もともと誰かにあげるために数冊持ってきていた絵本。持ってくるときに、表紙のついているのが一冊しかなくて、それは、以前にあげると約束していた、奈良で会うだろうマズミさんにもらってもらうことにしていた。モンゴルさんにあげることができたのは、表紙のないもの。

画像9

 小樽の駅前に着いてからそんなこんなで、けっこう時間が経った。車を降り、さよならをして別れる。
〈迷わんやろか〉
 少し心配だった。そして、ネットカフェの割引券を渡そうと思っていたのを忘れた。

ガラス工芸

画像10

 とりあえず駅に入る。周辺の地図がある。駅の周りは建物が多い。観光名所であろう場所も歩いていける場所に多い。
 さて、これからどうしようか。
 一つ、陽のあるうちにヒッチハイクをする。二つ、せっかく小樽に来たので観光する。三つ、まだ店の開いているこの時間帯にどこか眠れそうな場所を探す。その三択。
 駅の地図と、暮れてゆく街並みを見て考える。優柔不断な性格は、それをなかなか決められない。札幌から小樽に来た理由に、小樽はいいと教えてもらった、というのがある。
 ヒッチハイクなら、夜中でもできないことはない。
 私は、眠れそうな店を探しつつ小樽を見ることにした。どこが観光名所なのかは、前に雑誌をちらっと見ただけでよくわからない。でも、地図を見る限り、駅から海へ続く東のほうに、見るところは集まっているっぽかった。

画像11

 海までは歩いてそう遠くない。19時ごろ、ぶらぶらと歩き出す。宵。まだ明るい。露出機能の弱い携帯電話のカメラでも、まだはっきりとその街並みを写してくれる。
 雑誌で見たような気がする建物を見る。さらに歩くと海に出た。
 少し見渡して、もと来た道を戻ることにした。ロシア語でなにか文字が書かれているところがあって、「Д」の文字が目に入る。「ГОДОВ」の単語がなんと書いてあるのかはわからないが、顔にしか見えない。

画像12

 お土産物や、展示品のある建物に入る。海に浮かべるガラスの玉のようなものを作るので有名っぽい。たくさんのパンフレットがある。
 そこで、荷物を重さを量る秤があったので、自分の荷物の重さを量ってみる。バッグを載せる。4.5キログラム。それが重いのか軽いのかはわからない。
 椅子とテーブルがあり、そこで寝る。

 どうやら閉店時間になったみたいなので、締め出される。時間は21時。
 この時間にやっと、さっき、モンゴルさんと別れたあとすぐに送ったメールの返事が来た。なかなか返事が来なくて、迷っているのではないかという不安は的中していて、迷っていたらしい。でも無事帰ることができたみたいでよかった。

 駅へ向かって歩いていると、「BIG MAX」という建物が見える。外観だけではなんの店なのかよくわからない。近づいてみて、それが、パチンコ屋だとわかる。
 休憩できるかも、と思い中に入る。中は広くて綺麗で、椅子とテーブルがあり、本当はパチンコをしにきている人のための休憩場所なのだろうが、そこで休憩することにした。
 店員が私の横を通り過ぎようとして立ち止まった。なにを言われるのだろうと思ったら、「いらっしゃいませ」とお辞儀をされた。お金を使いにきていないので、少し居たたまれない気持ちになったが、まあいいかと思う。サービス業なので、無意味に休憩している人を邪魔者扱いする従業員はいない。心の中では「なんだあいつ」などと思われているかもしれないことは重々承知である。
 日記をつけたり、なんとなくモンゴルさんの似顔絵を描いたりする。似顔絵を描いていて思った。
 こういうのでも描いてなかったら、顔、忘れてしまいそうやな、と。
 あまり似ていない似顔絵ができた。

画像13

 ここも、閉店の時間が近づいてくる。もちろん、結局最後までパチンコはせずに出る。外に出て歩き出し、駅に戻ってきた。
 駅には数人の人がいる。駅の中を見上げると、さっきは気づかなかったが、ガラス製の玉のようなものの中に光が灯っている光景が目に入る。
 駅の北側へ行き、大きな道路を左へ曲がり、ヒッチハイクの場所を探す。このずっと先には余市(よいち)という地名があり、そこから内陸を南下していこうと思う。

画像14

 なかったらどうしようと思っていたコンビニも、角を曲がってすぐのところにあり、減っていたお腹を満たす買い物のために中に入る。本のコーナーに、少女漫画版の『電車男』を見つける。本当に色んなところから出てるんやなぁと思う。
 せっかくなので見てみる。しかし、私には普通の一少女漫画にしか見えなかった。

 飯を買って食べ、歩く。少し歩いた先が、トンネルをくぐる道と、上を通る道とに分かれている。地図で見た分には、トンネルしかないと思っていたので、二手に分かれているのを見て迷う。どっちから行っても余市に着くのだろうか。トンネルをくぐる道は、人が歩ける道ではなさそうなので、その手前でヒッチハイクしなければならない。一方、上の道は、そのまま歩いていっても問題はなさそう。
 今、この場所でヒッチハイクは、人通りがあるし、上の道を歩いていくことにした。

 コツッコロコロッ。私の手から落ちたそれは、いい音を立てて、硬いアスファルトの上を転がった。この春に購入してから、ほぼ無傷を保ってきたケータイが、ここに来てとうとう硬いアスファルトに落下してしまった。恐る恐る見てみると、ものすごい傷が。一度でも落としたらこんなに傷がつくものなのか。よくケータイを落とすという人がいるが、それはかなりの傷がつくと思う。
 けっこうショックだった……。傷以外の機能面などはなんら問題はなかったので不幸中の幸いだった。

 このトンネルの上の道は民家ばかり並び、あまり車が通らない。
 これ以上歩いてもどうかと思い、仕方なくさっきの場所まで戻ることにした。たまにはこうして戻ることも大事である。

画像15

4日目の終わりごろにいた場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?