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【読書録34】自分にとって何が大切で、今の自分に何ができるか?~ピーター・M・センゲ「学習する組織」を読んで⑤~

 前回までで、学習する組織の理論的な側面、「5つのディシプリン」についての説明は終えた。


今回は、それを踏まえた実践からの振り返りになる。

 第Ⅳ部 実践からの振り返り
   第12章 基盤
   第13章   推進力
   第14章 戦略
   第15章   リーダーの新しい仕事
   第16章 システム市民
   第17章   「学習する組織」の最前線
 第Ⅴ部 結び
   第18章 分かたれることのない全体

 このパートでは、学習する組織の理念・技法を実践する様々なリーダーの取り組みとそこからの学びについて振り返る。

 登場するのは、フォード、メキシコ・チワワ工場のロジャー・サイモン、インテル、ニューメキシコ工場の組織開発部門上級マネジャーのアイリーン・ギャロウェイ、ナイキの先端研究開発を率いるダーシー・ウィンスローなど約20名。

 それぞれの社内での立場は異なる。著者は、それを現場のリーダー、社内のネットワーク・リーダー、幹部クラスのリーダーと言う形でカテゴライズする。そして、これらの3つのタイプのリーダーは、それぞれ自分とは異なるタイプのリーダーを必要とすると言う。

【現場のリーダー】
革新的な慣行を日々の仕事に組み入れ、学習と仕事が一体化する職場環境を創り出すのに欠かせない存在。有能な現場リーダーがいなければ、新しいアイデアは行動に繋がらず、上層部による変革の取り組みの背景にある意図はくじかれる。
【ネットワーク・リーダー】
手助けしてくれる人、種を運ぶ人、つなげる人。現場のリーダーと緊密に協力し、つなげる。より大きなネットワークを構築して、成功したイノベーションや、重要な学習や知識を広める
【幹部クラスのリーダー】
企業全体の目的や価値観やビジョンにまつわる基本理念の構築を主導する存在

 色々な事例や事例からの教訓が次々と出てくるが、印象に残ったことなどについて書いて行きたい。

「内省的な開放性」

 「会話」を通じた変革についての事例が上げられているが、著者は、会話を通じた開放性について、「参加的な開放性」「内省的な開放性」の違いを上げて、内省とより深い会話の文化を形づくることの重要性を上げる。

「参加的な開放性」
自分の考えについてオープンに話すこと。フォーカスグループ等の手法がある。ただし、自らの仕事や行動に責任を否わず、振り返る事もしない為、不十分
「内省的な開放性」
互いの言うことに耳を傾ける。心の内側に目を向けさせてくれる。
自分の考え方の偏りや限界、また、自分の考えや行動がどのように問題の一因になるのかをより意識できるようになる。

 ただ、「内省的な開放性」を育むのは、言うは易し行うは難しである。実践者であるサイヤンはこう言う。

 社員の成長を後押ししたり、内省に必要な相互関係の信頼と精神を創り出したりすることに深く打ち込んでいない組織環境では、自分自身の心を開こうという気持ちは起こらない。

 形だけ取り入れるのではなく、日常からの取り組みやその取り組みの一貫性が重要であるということであろう。

「志」を出発点にする

 国際金融公社・人事担当副総裁のドロシー・ハマチ=ベリーの話には、共感する。

変革を起こす際に、危機を煽り、「足元に火が付いた状態」であることからスタートするアプローチは、どの場所でも機能しない。ではそれと異なるアプローチは何か、「志」を出発点にすることの重要性に気づいた。

 最近、よく言われる「パーパス経営」。名和高司・一橋大学大学院教授が言う、「志」本主義と言うことを「学習する組織」の実践者達はその遥か前から実践している。

深い学習サイクルと戦略の構造

 「学習する組織」を構築することは、終わりのない旅であり、特効薬は無い。一方で、学習する組織を構築する上で、戦略的に考え、行動するとは何かについて考える上で、著者は、ヒントとなる枠組みを提供する。

「深い学習サイクル」「戦略の構造」である。

「深い学習サイクル」とは、
 「信念・前提」→「慣行」→「スキル・能力」→「関係」→「気づき・感性」→(戻る)信念・前提

 「信念や前提」によって、「習慣・慣行」が行われ、行ったことにより、「スキル・能力」が磨かれる。行動や身につけたことによってその場の人と人の「関係」が変わり、そこからの「気づき」がある。その「気づき」によって、「信念や前提」が変わってくるというサイクルである。

 経験することは、我々の信念や前提を強化する何よりも直接的な源であり、組織の文化は私たちが日々互いにどのように生きるかによって絶えず強化される。

 深い学習サイクルは、構造である。

現在主流になっている構造は、「私たちが過去にどのように行動してきたか」によってつくられたもの私たちがこれまでと違った見方で構造を見て行動しはじめれば、その構造は変わる可能性がある。

 チャーチルは、「私たちが構造を形づくり、その後は構造が私たちを形づくる」と言ったという。名言である。

  そして、深い学習サイクルに影響を与えるのに有効な要素は何か?著者は以下の3つを上げる。

 【基本理念】      目的・ビジョン・価値観
 【理論・ツール・手法】 物事がどのように作用するかに明確に示す理論
 【組織・インフラ】   正式な役割やマネジメントの仕組み

 では、具体的にどうするか?
著者は、実践的なノウハウとして、8つの戦略や事例を上げる。

8つの戦略・事例

 8つの戦略・事例のうち、3つを取り上げる。

➀学習と仕事を一体化させる

  このパートは、そうそうと肯きながら読み進めた。

組織学習の取り組みを最も制限してきた要因はおそらく、断片化、つまり学習を、人々の日常の仕事の「追加的なもの」にしていることだろう。

メンタル・モデルやシステム思考を教わる新しいプログラムの導入をしても、日々の仕事に応用する機会はほとんどない。

 インテル社のニューメキシコ工場の組織開発部門上級マネジャー、アイリーン・ギャロウェイは、「振り返り」「行動」をつなげる取り組みを行う。「振り返り」という内省を行うことで、深いところまで行かないと真の解決策に行かない。 シナリオ・プランニングを行い、色々な想定について皆でじっくり考えていたため、迅速に対応できたというのは、振り返りと行動が結びついた事例かと思う。

 学んだこと事を活かす。振り返りを仕事の遂行の一部にする。米陸軍のARR(After Action Review)を紹介する。

「何が起きたのか?」
「何を予測していたか?」
「この乖離から学べることは何か?」

➁そこにいる人たちとともに、自分のいる場所からはじめる

 「上司がわかってくれないから・・・」「経営陣の後押しがなければ自分たちにできることはほとんどない」と考えてしまう。よくあることではないだろうか?

  これに対しても、アイリーン・ギャロウェイの言葉が刺さる。
ギャロウェイは、大学院に行き、教授たちの「組織の変化は上層部からはじめなくてはならない」という言葉に反発を覚える。

 それに対して、「不可能に思えること」に焦点をあてて、とにかくはじめることにしているという。

 そんな彼女の傍らにあるのが、アインシュタインの言葉である。

「問題を生み出したのと同じ意識では、その問題を解決することはできない。」

 準備ができるのを待つというのでは、いつまでたっても何も変わらない。

③二つの文化を併せもつ

  そして、ギャロウェイやその他「連続変革者」たちが持つ特質で面白いと思ったのが、「二つの文化併せもつ」と言う点である。

 「二つの文化をを併せもつ」とは、「より大きな組織環境との関わりを決して失わないこと」のことであると言う。

もう少し具体的に見ていこう。

小規模な、あるいは局所的な学習ツールの適用によって多くのことを成し遂げたにもかかわらず、これがより大きな企業環境に広がっていかなかった多くの事例を私たちは経験した。それどころか、これらの成功例が、変革者たちを窮地に追い込むこともよくあったのだ。

「成功は必ずしも成功につながらない。」なぜか?

 問題の原因の一つが、「変革者自身の熱意や情熱にある」という。
取り組みに参加していない人たちに自分たちがどう受け止められているかが見えなくなってしまったり、その取り組みがほかの人たちにどのような影響を及ぼすかということに配慮が至らなくなるのである。それを自分の身内以外を排除する、「カルト化」という。

そして

息の長いイノベーションには、二つの文化を併せ持ち、それぞれの基本原則を尊重しながら、二つの異なる世界を効果的にいったりきたりするリーダーが必要である。

という。

「経営陣の言葉で仕事をする」という原則が出てくるが、会社の論理、相手の論理でも自身の取り組みを位置づけることは、重要だろう。

数値目標や指標に引っ張られるな

 第17章「学習する組織」の最前線では、会計学者のH・トーマス・ジョンソンの見解として、トヨタの長期的成功の要因について、「業績指標による経営判断を慎重に制限している」ことにあるとしていることを紹介する。

 経営者が数値目標を設定し、結果を出させる、このプロセスでは、その目標達成することのみに目が行ってしまう。それをデミングは、「干渉」と呼んだという。

 それよりも、現場に欠かせないノウハウを絶えず構築し、効果的に利用しながら、最前線の労働者にコスト・パフォーマンスの管理や改善を任せることが、自然界の複雑な生命システムがやってきたことに近く望ましいという主張である。

 自然界のパターンに近いという主張もなるほどと思うが、数値目標などの設定が、目的と手段を逆転させるという考えは同じ考えを持っている。

最後に

 「学習する組織」は、終わりのない取り組みである。
「システム思考」については、地球温暖化などの現状を考えると、その考え方が広まっているし、重要性も増している。

 本書で言う「システム市民」が多く育てることがポイントである。

 昨今のウクライナ危機を見ても「分かたれることのない全体」として物事をどうとらえるか我々人類は考えなければならない。

 その第一歩として、自分のいる場所からはじめること。自己マスタリー、自分にとって何が重要かを起点に考えることは本書から得た大きな示唆である。システムを構成する一部としてどう行動するか?

 「自分にとって何が大切で、今の自分に何ができるか?」を問い直したい。





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