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【読書録19】人生の「可変性」と「再帰性」~A・スコット、R・グラットン「LIFE SHIFT2」を読んで~

  ベストセラーとなった「ライフ・シフト」の最新版。
前作も読んだが、前作を読んだ時よりも「切迫感」というか「すぐに行動したい!!」と思えた。その間、我々の生活が大きく変わったことも影響しているからであろうか?

テクノロジーの進化と長寿化の進展

 現代は、農耕社会への移行と産業革命に次ぐ、大変革期である。
IT・AIなどのテクノロジーの進化や長寿化の進展などの「技術的発明」は、我々に大いなる可能性をもたらすとともに、「フランケンシュタイン症候群」とも言うべき不安をもたらしている。

 「不安」とは、極論を言えば、例えば、汎用人口知能の開発による人類の滅亡や高齢化による社会保障費増加による国家の破産などである。

「社会的発明」の必要性

 なぜ、そのような「不安」が生まれるのか? なぜ、「技術的発明」による恩恵を素直に好ましいことと位置づけできないか?

 著者は、それには、「技術的発明」に対応する新しい社会の仕組みの変化、すなわち、「社会的発明」が必要であるという。

 新しい社会の仕組みとして、本書では、「企業」「教育」「政府」という切り口で様々な提言を行っている。

「社会的開拓者」たれ!!

 では、我々は、「社会的発明」がなされ、社会の仕組みが変わるのを待つのか?

 答えは、No。

 我々一人ひとりが、「主体的に、どんな社会を望むのか、どのようにしたいのか?」を考えて「社会的開拓者」として、新しい社会のあり方を切り開く覚悟を持つ必要があるのである。

 本書は、「社会的開拓者」として、すべての人に訪れる変化と波乱を主体的に乗り切るヒントを以下の3つの切り口から与えてくれる。

物語 自分の人生のストーリーを紡ぎ、そのストーリーの道筋を歩むこと 
探索 学習と返信を重ねることにより、人生で避けて通れない移行のプロ
    セスを成功させること
関係 深い絆をはぐくみ、有意義な人間関係を構築して維持すること

人生のストーリーの「可変性」と「再帰性」

 人生が長くなることで、どのように年齢を重ね、どのように人生を構成し、どのように時間を割り振るかは画一的に決まったものではなくなる。人生の可変性が高まるのである。そして、人生のストーリーは、「再帰的」な性格を持っているとする。

人生のストーリーは、「再帰的」な性格を持っている。
いまあなたがどのような行動をとるかによって、あなたが将来どのような足場の上に立ち、どのような選択肢を得られるかが決まる。
人生のどの段階にある人でも、みずからの行動を通じて自分の未来に好ましい影響を及ぼすことはできる。

そのためのポイントとして、以下の2つを挙げる。

自分がいだいている基本的な前提を再検討する
 古い前提に基づくストーリーは書き換えなくてはならない。
  *私のキャリアは突然終止符を打たれるのか?
  *私の思考は狭まりすぎていないか?
      * 私は年齢に関して誤った思い込みをいだいていないか?
        * 私は制度の変化を考慮に入れているか?
時間配分を検討する
 時間は、私たちにとってとりわけ重要な資源のひとつ。
 この資源を賢く使えているか?
  *私は時間を再配分できるか?
  *私は何を重んじて時間配分を決めたいのか?

「探索」と「学習」による「移行」

 本書の登場人物の一人であるインは、55歳の会計士。解雇を言い渡され、自分の人生の「探索」を行う環境に追い込まれる。 その「探索」、「学習」、「移行」の旅は、容易ではない。

容易に移行できることはめったになく、ほとんどの人は最初のうち強い不安を感じる。移行が難しい一因は、仕事でも私生活でも移行を遂げればアイデンティティが変わらざるを得ない。あなたが何をするのか。まわりの人たちがあなたをどのように見るか。あなたが自分自身のことをどのように見るか。こうしたことがすべて変わる。

 「探索」に当たっては、いま思い描いている進路とステージひとつひとつについて、内面からモチベーションが沸き上がり、主体的に学習できそうか?という点が鍵である。

 そして、「学習」に当たっては、年齢と学習の関係の強力な固定観念から離れることが重要であるという。

 このパートが、私にとって、一番響いた部分である。

何歳でも学ぶ 
 「神経可塑性」=脳は柔軟な筋肉のようなもので、適切に訓練し、
         正しく用いれば、いったん失われた能力も取りせる。
   
  年齢を重ねた人が新しいことを学べないとすれば、それはその人が老い
  ているからではなく、新しいことを学び続けてこなかったから

 「結晶性知能」=時間をかけて蓄積されていく情報や知識、知恵、戦略
         年齢を重ねるとともに強まるタイプの知能

 テキサス大学ダラス校心理学者デニス・パーク
「快適ゾーンにとどまっている人は、成長ゾーンに入れない場合がある」

そして「移行」。移行に伴う痛みは、前述したとおりであるが、本書の中で指摘され、「なるほど!!」と思った部分は以下のところである。

人生最後の移行は、人によって老い方が異なるせいでひときわ難しい。同世代の人たちの行動に追従するのではなく、自分の気持ちを理解し、それに基づいて行動すべき

「中年の危機」などない。あるのは中年の溝。中年期の人々が移行を成功させるのを助ける社会規範と支援体制が社会に欠如しているのが問題。

こうした状況を受けて、新しいタイプの移行を目指す人が出現しはじめている。昔なら、ある程度の年齢以上の人たちにとって、未来への計画と言えばもっぱら引退の計画だった。しかし、最近は、そのような年齢でみずからの生産性を高めようとする人が増えている。その取り組みを成功させる土台になるのは、既存のスキルや強みに磨きをかけるために思い切った投資をすることだったり、やりがいを感じられる新しい分野を見つけて、その分野で必要なスキルを習得するために努力すること。その際にカギを握るのは、年齢を重ねるにつれて強化されるタイプの知能、すなわち結晶性知能を最大限活用すること

どのようなコミュニティに属するか?

 そして、「社会的開拓者」として人生を切り開く際の人との関係性やコミュニティの重要性を指摘する。

 人生を通してあなたがどれくらい人間として花開くけるかは、ほかの人たちとの関係にも大きく左右される。
人は独りぼっちでは社会的開拓者にはなれない。人生に一貫性と安定をもたらすうえで、深く強力な人間関係が果たす役割は極めて大きい。

 人間関係の基盤として、パートナーや子ども、そのほかの家族や親しい友人との関係の重要性を指摘する。そして、その重要な関係性を育むために十分な時間を確保できているかを振り返ることも重要性も。

 以前読んだ、「イノベーション・オブ・ライフ」でも自分の価値観に沿った資源配分プロセス を取っているかという話があり、なるほどと思ったものである。

 他にも、インサイダー取引で有罪判決を受け失意な中、家族に助けられた村上世彰氏(「生涯投資家」)や「嫌われた監督」落合博満の最大の理解者である家族など、家族がいるからこそ自分が成り立つというのは、私の実感とも一致する。

  変化が激しい時代だからこそ、家族やコアな人間関係は、ますます重要になるであろう。

 そして、コミュニティを主体的に選択し大切にしていくという指摘もなるほどと思う。

あなたが加わろうと思っているコミュニティは、人生に喜びをもたらし、学習を促すようなものだろうか

 また様々な年齢層の人と意図的に接点を持つというのも今後の指針にしたいと思った。

 年齢層の異なる人と接する時間が多ければ、人生プランはいっそう強力で実りあるものになる可能性がある

今を生きよ!!

 私としては、人生のストーリーの「再帰性」というところが一番刺さったポイントである。

 今、どう生きるか。それにかかっている。

 そして、どうありたいか幅を狭めず問い直していきたい。その際には、自分がどうありたいか、そして「結晶性知能」という観点も重視して考えていきたい。

 移行には痛みが伴う。ただ、大きな変化の影響からは逃れられない。であれば、主体的に未来を重んじた選択を行い、今を生きていきたい。



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