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小鳥さん救出の舞台裏(番外編)

はじめに

皆さんこんにちは。
Jリーグで審判をやってる家本です。
いつも温かいブーイングと緊張感高まるブーイング、ありがとうございます。

さて、先日、僕が担当した、
「J2リーグ 甲府v北九州」
の試合中の出来事(小鳥救出)についてネットでは、
「優しい」
「すごくいい」
「プロの仕事」
と言った嬉しい声があります。

反面、
「誤審したらどうするんだ!」
「試合止めてドロップで再開しろよ!」
「だからお前は〇〇!」
といった救出方法を問題視する声もあります。
その気持ち、よくわかります。


でもこれって、要するに、
当事者(僕)がその時の事を発信していない事に起因している
部分もあります。
もちろん発したとしても、僕の考えに反する意見は必ずあるでしょう。

僕を含めた現役審判員は、
これまで何かあっても情報を全く発信してきませんでした。
正確には、立場上多くの規制があり、中でも情報発信に関してはかなり厳しく規制されています。
ですが、たとえ規制は多くても、発信できることも中にはあります。

今回のことは、「いい意味」で何かと注目されているようなので上を通さず、自ら発信しても何ら差し支えないと思いましたので、初の試みですが当事者としてその時の出来事を皆さんにお話しようと思います。

動画はこちら↓


それでは小鳥さん救出の舞台裏、お話していきますね...

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□何があったの?

daznの映像では前半25'35に副審2の前方15m辺りのフィールド上で休んでますが、実はその前からピュンピュンと元気に飛び回っていました。

僕は、
「あ、鳥だ。でもちょっと飛んでる高さが低いな。ボールや選手に当たらなきゃいいけど…」と思いながら審判してました。

その後小鳥さんは、
場所を変えてはフィールド上で休む、場所を変えては休む、を繰り返してました。僕も副審もそのことには気づいてました。
「フィールドにおりてきたり飛んだりか。これ、やっかいだな…」

□なぜ試合を止めて救出しなかったの?

その時の僕の思考プロセスを時系列で証していきますね。

27'48
僕の後ろあたりに不時着した小鳥さん。僕は試合に集中しきっていたので全く気付かず。

27'56
北九州が左から右に攻撃の展開を変えたことを受けて、甲府の選手たちも僕もポジションを変えようとした矢先、家本、突如として小鳥さんと遭遇。
「おわ!ここにいるの!」
「やばい!ふんでしまう!」
あまりに突然のことだったのでかなり驚きましたが、間一髪のところで何とか回避。
ホッとしたものの、
「まずいなこれ」
「なんとかしなきゃな」
「でもどうやって…」

28'02
試合は、
「小鳥さん問題」に関係なく続く。
家本、試合のことに意識を向けながらも小鳥さん対応にも意識を分散。
「試合は今どんな状況?」
「試合止める?」
「止めずになんとかできる?」
「そもそも捕まえられる?」
「今の最悪は何?」
「ベターは何?」
「何が最適解?」
「てか小鳥さん生きてる?」
無数の問いが、家本の頭の中を激しく駆け巡る…

28'05
試合はゆっくりとしたリズムで北九州がボールを回しながら相手陣内深くを切り込むきっかけを探っている状況。
そこで家本、
いい試合だしいい流れなので試合を簡単に止めて変な間を作りたくない
「楽しんでる選手やお客さんの邪魔をしたくはない
「それよりもまずは小鳥さんだ。とにかく小鳥さんを確保しよう」
「それでだめなら試合を止めよう」
「試合の流れは落ち着いてる。今なら大丈夫」
と全体の流れやボールの場所、選手の配置やテンション、といった全体像を見ながら、まずは小鳥さんの確保に挑み、見事成功する。

「よし!無事に小鳥さんの命を確保できた!」
「生きてる!」
「試合の邪魔にもならなかった!」
「ほんとよかった!」
家本、この後の試合展開をはかりつつ、次の問題解決に目を向ける。
「とはいえ、これからどうしよう…」

28'11
捕まえた小鳥は、黒色でまだ子供のようだ。疲れてるのかおとなしい。
「かわいいな…」
そんなことを思いながら家本、その小鳥を優しく右手に抱え、左手に笛を持ったまま試合を続ける。
「小鳥さん、ちょっとまっててね」
「すぐここから出してあげるからね」

28'12
次に家本が、小鳥さんをフィールドから脱出させる方法とタイミングを色々と探っていたとき、突然展開が変わる。
「あ!縦パスがはいった!」
「どうなる?難しい状況になる?」
「PA内に入っていく?」
緊張感が高まりながらも、その先の展開に全神経を向ける。

28'13
甲府の選手が北九州の縦パスをPA前で遠くにクリア。
「PA内に入って展開がゴチャゴチャしなくてよかった」と少しホッとしつつ、
「これで少し時間ができるな」
「北九州はすぐには縦パス入れずに様子見してくるはず」
「チャンスはここら辺りだな」
と家本、右手に小鳥さんを優しく抱え、少しドキドキしながらも落ち着いて小鳥さん脱出のタイミングをみはかる。

28'15
「この後は落ち着いたリズムでメイン側に展開していくな」
「これなら試合止めずに小鳥さんを脱出させられるな」
と試合の展開を読みながら、ボールが北九州自陣の一番深いところに行った瞬間、
「よし!今だ!」
「今ならいける!」
「試合の邪魔をせずに小鳥さんを4thに渡せる!」
と小鳥さんを4thに渡すことを瞬時に決断

家本、4thに向かってダッシュ!
(もちろん試合をしっかり見ながら)

4thは、
「えー!!!今このタイミングでくるんですかー!」
「えーっと、えーっと、どうしよう…」
と困惑しながら受け入れの準備をする。

28'25
家本、無事4thに小鳥さんを手渡す。
「頼んだ!」
「は、はい!」
「よし、何とか無事に小鳥さん救出できたぞ」
「さてと、試合に集中集中…」
と思った矢先、予測通り北九州はボールをメイン側4th前辺りに送る。
しかし、家本の予測に反してボールと選手が思った以上に近くに来る。
「やば!近い!」
「ぶつかる!」


28'28
なんとかプレーの邪魔はしなかったものの、気がつくと今度は僕の目の前で甲府 宮崎選手が北九州 福森選手のシャツを後ろから激しく引っ張っている。
家本、
「やりすぎ!やりすぎ!やりすぎはダメよ!」
笛ではなく声で、その行為をやめるよう促す。
宮崎選手はその声を聞き入れ、引っ張るシャツを即座に手放す。
直後、福森選手はフリーとなって体勢を整え、北九州の次の攻撃に備える…

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□その後小鳥はどうなったの?

ドキドキしながら小鳥さんを受け取った4thは、試合を運営されている甲府のスタッフに手渡す。
「こ、この子、どうかお願いします」
「え、あ、はい…(って渡されても…)」

小鳥さんを受け取った甲府の運営の方は小鳥を優しく抱えながら、
「でもこれどうしたらいいの?」
と困惑しつつも、ひとまず小鳥さんを静かで安全な場所に移動させる。

そこでしばしの休憩をとった小鳥さんは、元気になったのか再びどこかへ羽ばたいて行った。

甲府のスタッフがそれを確認し、運営の方にそれを報告。
運営の方はそれを4thに伝達し、4thは主審に伝達。
「家本さん、小鳥は無事に羽ばたいて行ったそうですよ」

「そか…よかった」

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□試合を終えて思うこと

いかがでしたか?

「何が最善なのか」
「どうすることが最適なのか」


その答えはあの瞬間には誰にもわかりませんし、僕もあの判断と行動が本当に妥当だったのか、今でもわかりません。

あのときの事をもう少しだけお話すると、僕は主審としていろんな権限を持っていましたが、限られた情報、条件、時間しか持っていませんでしたし、誰かに相談することも妥当とは言えない状況でした。

「え?仲間に相談すればいいんじゃないの?」
と思われるかと思いますが、仮に皆さんがあの試合の副審や4thだったとします。

「反則はないか」
「オフサイドはどうか」
と色々気を使いながら試合に集中しているときに、突然主審から
「小鳥さんどうする?」
「どしたらいいと思う?」
と試合とは関係のないことを言われても困りますよね?

僕としては、審判チーム全員の目と意識が試合から離れるのが最も怖いことですし、おそらく選手たちもそうだと思います。
もちろん見ている方にとっても。

運転で言う
「脇見運転」
「スマホで話しながら運転」
をしているようなものですからね。
問題が余計複雑になります。

ですので、
「これは僕が一人で解決しないといけないことだ」
とあの時、そう思いました。

それと、試合を止めたら止めたで、その状況がわかっていない選手やコーチングスタッフ、お客さん、メディアの方は
「なになに?なんだよ家本!」
「なんで止めるんだよ!」
「試合の邪魔すんなよ!」
とそれまでいい緊張感を持っていた面白い試合と多くの方が楽しいと感じている気持ち大きな「ネガティブインパクト」を与えてしまいます。

後で試合を止めた理由を知って少しはその時のことを理解したとしても、突然試合を止められたことに対するあの時の不快な気持ちや違和感は消して取り除くことはできません。

こういうときに僕が経験上大事だと思っていることは2つあります。
1つは
「何があってもまずは人として必ずやり遂げなきゃいけないことをやる」
もう1つは
「何をやらないか決める」
です。
やる事は、やらないことを決めたあとに考えます。

このときで言えば、
「鳥の命は救う」
「皆がサッカーを心から楽しむ」
が絶対にやり遂げなきゃいけないことで
「試合は可能な限り止めない」
がその実現のためにリスクを犯してもやらないことです。

僕たち審判員は常に、
「今何をするのが皆にとっての最適解(妥当)なのか」
「何にでも笛を吹いてすぐに試合を止めるのが皆にとって本当に望ましいことなのか」
「何が皆にとって一番喜ばしいことなのか」

ということを考えながら、試合中審判しています。
もちろんこの考えとは違った考えを持って審判されている方もたくさんおられます。

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さて、長々と話してきましたがそろそろ終わりにしたいと思います。

世知辛い世の中、この話が皆さんを少しでもほっこりさせられたのであれば、とても嬉しいです(^-^)

「footballを もっと 面白く」「footballで もっと 豊かに」

これからも少しづつ実現させていきます。

次回は、こちらをお届けいたします。

お楽しみください。


家本政明

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