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家族のすきなもの

シイラ、シーフードサラダ、牛カルビ握り、あぶりきんき。
夫は回転寿司チャレンジャー。手を出しにくい、なんの魚かわかりにくいメニューにガンガン手を伸ばす(きんきは高級魚だとGoogle先生が教えてくれた)。夫と一緒に見知らぬ魚を食すことは回転寿司の楽しみになった。ささいなことだけど、夫はいつもわたしの世界を広げてくれる。

その日は夫抜きで義両親に会いに行った。義母はお寿司がだいすきで、遊びに行くといつも出前をとってくれる。今日もお寿司を食べながら楽しく過ごしていた。せっかくだから夫は家族の前でどんなふうにふるまうのか聞いてみる。

「あの子は、一般的な男の子より自分のことをよく話してくれると思います。最近ハマってるものとか、今日学校でこんなことがあったとか、仕事でこんなことがあって大変だったとか。だから異性の子どもでも何を考えてるかわからないってことが少なくてありがたいなぁって思ってましたねぇ」
「お義母さんにもそうなんですね。わたしにもよくその日のできごとを話してくれます」
夫は素直でかわいらしいひとで、その素直さは両親にも見せてる姿だとわかったら、より本物に感じられた。恋人や妻の前で甘えてるだけでなく、本当に素直なひとなんだと。
「寿司で思い出したけど、あいつは、回転寿司にいくと聞いたこともないような魚ばかり食べるんだよなぁ。いつも変わったモン食うなぁって思うんだよ」
分かりますと何度もうなずいた。
「あと、あいつドラマが好きだろう。おれが東京出張に行くからお土産はなにがほしいか聞いたらドラマのグッズを買ってきてほしいって頼まれて、テレビ局まで買いに行ったこともあったなぁ」
義父は目を細めながら微笑を浮かべている。夫はミーハーで、ドラマやアニメの公式グッズには目がない。出張のお土産をリクエスト通りに買ってきてもらえたら、夫はさぞ喜ぶだろう。
わたしは、義両親の夫への愛情を感じていた。息子の様子を日頃からよく観察していることや息子がどんなものを好んで食べるか把握し、好きなものを知っていることに。夫の家族は、たがいの好きなものに対する理解がある。夫は他者に寛容な性格で、その性格は家庭環境の賜物なのだと思った。

同時に、長年抱いていた違和感のピースが集まり、ひとつの形を作りだした。母はわたしの変化に敏感だったし、わたしの好きなものは把握してくれている。だが、父はどうだろう。
父親が子どもの好きなものを知らないのは当たり前だと思っていたし、子どもの性格や好みを把握するのは母親の役割で、父親は母親の指示なしに子どものことに関わらない生き物なのだと思っていた。
それが当たり前すぎて気づいていなかったけど、このときはじめて気がついた。
わたしがなにを好み、なにを嫌うのか父にも知っていてほしかった。好きなものを知ったうえで尊重してほしかった。わたしも、父親からこんなふうに愛されたかったのだ、と。

与えられなかったものを、今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。そのチャンスは残されてる。
(三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』P.163)

父からは望んだ形で愛されなかった。
だけど、せめて、夫が好きなものを好きでいられるように、義両親が夫にしてきたように、夫の好きなものを理解する存在でありたいと思う。
夫の好きなものとわたしの好きなものに囲まれて、おたがいの世界を少しずつ広げあって楽しく生きていきたい。

今日のお寿司は、いつもよりわさびがツンとしていておいしかった。


📕三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』
便利屋を営む多田のところに同級生の行天が転がりこみ、2人は珍妙な依頼を解決しつづける。
取り返しがつかないくらい傷ついても、ほかの誰かと過ごすことで癒される傷がある。だれかといることは煩わしくも温かいことだと改めて感じた。

🫖ルピシア マロングラッセ
イベント限定の紅茶。
栗の渋みが忠実に再現されています。ミルクを入れて大人なミルクティーに✨さらにハチミツを入れると渋みが消え、モンブランを食べているかのような味わいになります🤤

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