高野で囲む鍋
今年の冬は、とにかく鍋をよく食べた。たいていは、5、6人で集まり高野のイズミヤで材料を買い、そのまま誰かの家になだれこむ。僕たちの下宿先は、皆高野周辺にあったので便利だった。
皆、バイトにサークルにとそれぞれに予定があったから、集合するのは23時くらいである。僕たちにとっては、その時間は心地よかったし、有無を言わさず参加を強要する時間でもあった。眠たいから、などという言い訳は許されない。
何度も同じ鍋を囲んだが、いつだってやることは同じだった。要するに、鍋を食べ終わったら誰かが酒を飲み始めるということだ。酒を飲んでいれば、普段は言えないことも言えるような気がした。
僕たちは夜8時に旅に出る。まずは、本州最南端の地、潮岬へ向かおう。高速代がもったいないから、当然一般道を駆け抜ける。潮岬で見渡す限りの太平洋を眺めるのだ。誰かが「夜だから何の景色も見えないよ」と言ったら、誰かが「その分、星がきれいじゃないか」と言おう。そうしたら、夜明けと同時に伊勢神宮へ行く。観光なんて僕らの柄じゃないから、赤福だけ買って退散しよう。次は城崎温泉だ。そろそろみんな疲れている頃だろうから、ぜいたくに時間を使って夜になるまでたくさんの温泉に入ろう。その次は、当然鳥取砂丘へ行く。深夜、だれもいない砂丘を駆け回ろう。砂丘にはさえぎるものが何もないから、きっと星がきれいだ。見飽きた星空に、いちいち感動しよう。次の日は、出雲大社へ行く。縁結びで有名なあの神社だ。伊勢神宮ではお参りしていなくても、出雲大社では神様に怒られるくらいたくさんのお願い事をしよう。そうやって旅を満喫したら、時間までにレンタカーを返す。その後は、また高野で鍋を囲もう。「結局、これが一番なんだよね」と分かったような口をきこう。
あるいは、こんな臭いことを言っていたかもしれない。それでも、とにかく、これが僕にとっての、とりあえずの、今年のハイライト。
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