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#7 なぜ企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのか②

長くなってしまった前回の続きです。
なぜ企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのでしょうか?


前回のおさらい

前回のブログで、このブログにおける「ジェンダーギャップ」とは何かについて、大まかに定義を設定しました。

また、企業がジェンダーギャップ解消に取り組む理由について、下記の通り、現時点では3点に整理できるとしました。
そして、前回のブログでは「1, 認知多様性の獲得」について書きましたので、今日のブログでは「2, 人材(労働力)の獲得」について書きます。

筆者作成

2, 人材(労働力)の獲得

■ 経営資源と労働市場

企業が事業を運営し、企業価値を創造するために必要な資源を「経営資源」といいます。
「ヒト・モノ・カネ」「ヒト・モノ・カネ・情報」といった言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

経営資源と言っても、その企業の状況によって、資源となる要素は異なると思いますが、いずれにせよ、企業が継続的に企業価値を創造するためには、経営資源を調達し、その資源を有効活用することが重要です。

そして、その中でも「ヒト」は、重要で不可欠な経営資源である場合が多いでしょう。


以上を踏まえ、ここからは、日本の労働市場の状況を見ていきます。
説明するまでもないですが、日本社会は少子高齢化で、日本の人口は現在、減少傾向にあります。

では、労働人口はどのような傾向となっているでしょうか。
(※労働人口=15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口。つまり、実際に働いているか、現在は失業しているが、働きたいという意志を持っていて、仕事が見つかればすぐ就業できる人ということです。)

以下のグラフは、2000年から2023年の間における、労働人口の人数(線グラフ)と前年に比べ多人数の増減(棒グラフ)を表したものです。

まず全体の労働人口の推移は、2000年から2023年で159万人増加しています。実は、”現時点では”、労働人口は増加傾向にあります。

総務省統計局 労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果を基に筆者作成


では次に、男女別に見ていきましょう。
まず、男性の労働人口は、2000年から2023年で213万人減少しています。
全体としての労働人口は増加しているにも関わらず、男性の労働人口は減少しています。

総務省統計局 労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果を基に筆者作成


では、女性の場合はどうでしょうか。
女性の労働人口は、2000年から2023年で371万人増加していることがわかります。
2023年の男性労働人口が3,801人で、女性の労働人口が3,124人ですから、労働人口の男女比は拮抗しているといえるでしょう。

男女雇用機会均等法や女性活躍推進法などの法整備に加え、社会全体の意識や風潮が変化し、女性の社会進出が進んでいることが分かります。もちろん、日本経済の低迷による労働者の収入の低下によって、夫婦共働きが必要となっていることも要因の一つでしょう。

総務省統計局 労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果を基に筆者作成


ちなみに、65歳以上の高齢者の労働参加も増加しています。
2000年から2023年で全体として437万人の増加、男性では237万人、女性では201万人がそれぞれ増加していることがわかります。

そもそも少子高齢化によって人口構成が変化していることや、健康寿命の伸長、老後の収入確保といった背景が伺えます。(ここでは深掘りしません)

総務省統計局 労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果を基に筆者作成

ここまでを整理すると、日本の人口は減少しているが、労働人口は増加している。なぜならば、女性65歳以上の高齢者(男女共)の労働参加が増加しているため

また、これまで企業の主力であった男性の労働人口は減少している。


■ 労働市場の多様化が企業に与える影響

さて、そろそろ本題に入りましょう。
ここまでの通り、日本の労働市場は、そこに参画している人の属性が変化していることが分かりました。

それでは、これらの変化は、企業にどのような影響を及ぼすでしょうか?

いままで、主に若い男性が労働市場の大多数を占めていた時代には、その男性の中から、優秀で自社に合致した人材を採用すれば、必要な経営資源であるヒトを確保することができたでしょう。

また、組織においても、労働市場から採用した男性を基準とした人事制度等を設計すればよく、男性にとって働きやすい組織であることが求められました。

一方で、上述の通り、日本の労働市場が多様になった昨今、今までの様に男性だけではなく、女性や高齢者、外国人といった多様な人々の中から、優秀で自社に合致する人材を採用する必要があります。
そうでなければ、経営に必要な資源であるヒトが確保できない時代になっているからです。

もちろん、組織においても、男性だけではなく、多様な社員がいる前提で人事制度等を設計する必要があり、多様な人材にとって働きやすい組織を目指さねば、せっかく採用した人材が流出してしまう恐れもあります。

筆者作成
(イラスト: https://soco-st.com/)

■ 採用や人事で現れるジェンダーギャップ

労働人口はいるんだから、ヒトは確保できるのではないか?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、一筋縄ではいかないのが現実です。

例えば、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)から、同じ経歴書であったとしても、女性に比べて男性の方が通過率(面接に呼ばれる可能性)が高かったり、高い報酬が提示されるということが、複数の調査でわかっています。

また、組織内には様々なアンコンシャスバイアスが潜んでいて、職務の割り当てや配置転換でも男女差が大きく、そこで得る経験の差が、男女の昇進や昇給に影響を及ぼしているという調査や研究もあります。

さらに、同類性選好(Homophily)といって、人間には自分と似た人を選ぶ傾向がありますから、現時点において男性の管理職が多い日本企業では、この同類性選好によって男性の方が昇進しやすいといったことも課題です。

同様に、同類性選好の現象の一つであると考えられますが、Old Boys Network(OBN、男性社会で形成される閉鎖的で排他的な非公式の人間関係や派閥)により、男女間で組織内における情報の不均等が発生していることも、女性の昇進や離職に間接的にネガティブな影響を及ぼしているでしょう。

もちろん、ライフイベント等についても男女差があります。人事制度等の見直しや拡充も必要で、組織のユニバーサルデザインについても検討することが重要です。
家庭内のジェンダーロール(家事負担の差)も根深い問題ですから、企業においての働き方そのものを見直す必要もあります。

加えて、労働者側にも「この業種は、女性が就く仕事ではないな」「これは女性の仕事だから、男性の自分が応募するのはやめておこう」といったアンコンシャスバイアスがある場合もあります。
このため、「当社の仕事は、属性に関わらず出来る仕事であって、その支援をしている」といった労働市場に向けた採用のための広報活動をすることも必要でしょう。


これらの課題が解決されなければ、優秀な女性が、そもそも採用されなかったり、また入社しなかったり、更には、男性中心の組織であった場合には居心地の悪さから、女性の組織コミットメントが低下したり、離職してしまうかもしれません
また、採用担当者や管理職のアンコンシャスバイアスよって、優秀な女性よりも、不優秀な男性(例えなのでこの様な表現になっていることをお許しください)が採用されたり、重要なポストに割り当てられたりする可能性もありますが、それは企業の望むところではないでしょう。

いち早く対策をとった企業は、ライバル会社よりも、”属性を問わない”質の良い経営資源(ヒト)を、潤沢に調達し、有効活用できることになります。

念のため書き加えておくと、男性よりも女性が優秀ということを言いたいわけではなく、労働者の属性に関わらず、優秀で自社に合致した人材を採用し活用する必要が、企業にはあるということです。

なお、採用と組織におけるジェンダーギャップ、アンコンシャスバイアス、同類性選好、組織のユニバーサルデザイン等については、重要な領域ですので別途ブログにする予定です。


■ 結論:なぜ企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのか?

今回も、また長くなってしまいました。
もしも、ここまで読んでくださった方がいらっしゃいましたら、心から御礼申し上げます。本当にありがとうございます。
いつかカフェラテでも飲みながら語り合いたいくらいです。

さて、整理すると、日本の労働市場は、人の属性が変化していることから、企業は、属性に関わらず、より良質な経営資源(ヒト)を必要数だけ確保し、また有効活用するために、採用や組織内におけるジェンダーギャップ解消に取り組んでいるのです。

つまり、企業がジェンダーギャップ解消に取り組む2つ目の理由は、経営資源の調達と有効活用と結論付けることが出来るでしょう。

まとめ

💡企業は、必要数の良質な経営資源を確保するために、ジェンダーギャップ解消に取り組んでいる。

参考文献 / 関連文献


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