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私のおにいちゃん

「まる、お母さんが最近様子がおかしいんだよね。急だけど実家に帰ってこれない?」

お兄ちゃんからの電話がある時は大体家族の緊急事態だ。

「まだ休職してるから行けるっちゃ行けるけど、どうしたの」

携帯の画面にお兄ちゃんと写しだされたときから、私は”お母さんになにかあったのかな”と悟っていた。

どうやらここ一週間ほど母の様子がおかしいらしく、無気力で、ごはんも一口食べるか食べないかでぐったりしているらしく、なにもしないで布団に入っているらしい。そんな様子は初めてだった。

うちは母とお兄ちゃんと3人家族だ。

父は高校の時他界した。一緒に住んでた母方のおばあちゃんは5年前に亡くなった。

お兄ちゃんは年が離れていて、独身である。

私は結婚して家を出ているため、お母さんと実家暮らし。

優しくて、常に家の犠牲になっているマンだ。

寡黙で、家にいるときは自分の部屋に引きこもっている。自分のことは全然話さない。

でも不思議といつも優しさがにじみ出ていた。

そんなお兄ちゃんだからこそ、よくお母さんとおばあちゃんに比較された。

「お兄ちゃんは優しいのに、まるは優しくない」

この言葉は幼少期に言われすぎて、(今でも母が言う)ずいぶんと自己肯定感を下げられたものだ。自分はダメな奴なんだ、人と比べて劣ってるんだ、と価値観を植え付けられた。

だけれども、不思議とお兄ちゃんのことは嫌いにならなかった。それはお兄ちゃんの人柄あってだと思う。


♢♢♢

私は大学一年の時から上京し、家を早くに出た。

それが功をそうしたのか、家を出て、他者と触れ合う機会が増え、他人に育てられて今の人格形成になった気がしている。

あのまま実家にいたらどうなのか、もっと鬱屈していたかもしれないと思うと怖い。

対してお兄ちゃんは、高校から大学受験の時に希望校に入れず、一浪し、都内の有名塾に通うために上京した。しかし、一浪するも、受験がうまくいかず、結果学校に入ることなく、実家に戻り、1~2年ほどニートしたあと、現在働いている工場に勤めて現在係長をしている。

ニートをしていたのに一度決めたことに対しての粘りずよさと責任感はピカイチだ。遅刻もなく勤勉に働いてると母が自慢していて、自慢の息子で良かったねと、私は横目で皮肉った。


♢♢♢

うちの父は良くあるダメな父親で、借金まみれの父親だった。

高校の時に他界したけれど、父がなにで借金を作ったかも不明だし、もっと言うなら不明なまま死んだ。

私の人間不信はお父さんから始まっている。

聞いた話によると、お兄ちゃんが上京して浪人している時、夜中にお父さんが車を走らせて、お金を借りにきたらしい。

(貸してしばらくベビースターラーメン暮らしをしたと言っていた)

ある時は幼少期に仲いい親戚の子とよく遊んでいたのに、突然そのパパから「もうこないでくれ」と言われて、胸を痛めたお兄ちゃんはしばらく不登校になったというエピソードも笑いながら話していた。

(どうやら親戚にお父さんがお金を借りに行ったかららしかった。)

そんな思い出を抱えるお兄ちゃんだけど、お父さんが亡くなった時

「しょうもない人だったな・・・」

と言いながら、お父さんを思い病室で静かに涙を流していたのを覚えている。


♢♢♢


お兄ちゃんは今、ずっと体調が悪いお母さんの傍にいる。

お母さんが体調が悪いと電話をすれば、出来る限り会社を早退したり、休んで運転手として病院に連れていく。

お兄ちゃんは皮肉はいうけど、淡々とお母さんの面倒を見続ける。それは長男の”それ”である。

優しくて見ようによってはマザコンなお兄ちゃんを私は尊敬している。

私は家を出ているし、実家とは距離をとっている方が生きやすい。

でも、お兄ちゃんからヘルプの連絡が来たら、ちゃんとすぐ行ける人でありたいと思う。

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