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SBT(Science Based Targets)申請の具体的手続きの話。

前回は「SBTとは何か?」的な記事を書きました。
SBTについて簡単に知りたい方は下記記事を参照ください。

それでは今回は私達がSBT認証を得ようとしたら、どういった具体的な手続きが必要になるか。ご参考までに書いていこうと思います。

まず先にお知らせします。

弊社のGHG(温室効果ガス)排出量削減目標は中小企業版SBT認証を取得しています。

マルト株式会社は2030 年までにScope1とScope2 のGHG 排出量を2019 年を基準として46%削減しScope3 の排出量を測定して削減することを約束します。

マルト株式会社 GHG削減目標

カーボンニュートラルに取り組みますと言っているくせに、SBT認証すら取っていないというのは残念なので、とりあえずサクッと認証をいただきました。

SBTには2つの種類がある

SBTには下記の通り通常のSBTと中小企業向けSBTの二種類があります。

出典:環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html)
【参考①】中小企業向けSBT(PDF/514KB)

ご覧の通り、中小企業向けSBTは削減対象範囲がScope1とScope2であるのに対して、通常SBTはScope3までを対象範囲としています。このことから中小企業向けSBT申請の方がハードルが低くなっていることがわかります。このハードルの低さが弊社カーボンニュートラルチームの背中を押してくれました。

これから記事にすることはこの中小企業向けSBTに限った話です。通常のSBTについては私どもには知識も不足しており経験がございませんので、ここでは触れません。

手順

でははじめましょう。
SBT認証取得への手順はこれまた環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォーム(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html)にあるものを参考にします。

  • STEP0:目標設定へのコミット

  • STEP1:サプライチェーン排出量の把握

  • STEP2:目標の検討

  • STEP3:社内折衝

  • STEP4:目標申請

グリーン・バリューチェーンプラットフォームに記載の通り、STEP0については別にやらなくても良いです。と言うか中小企業向けSBTにおいては不要です。
ということで中小企業向けSBT申請はSTEP1から行きましょう。

STEP1:サプライチェーン排出量の把握

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

サプライチェーン排出量と言えばこの図ですね。
中小企業向けSBTについてはこの中の【自社】に該当するScope1とScope2の排出量を削減の対象とします。

自分の会社の中だけの話です。なので自社以外の範疇であるScope3も対象とする通常SBTと比べて容易であるのは間違いありません。

あなたの会社のScope1とScope2を算出しましょう。
算出方法は以前お知らせした下記の計算式です。

「いや、待てよ。一体いつを基準とすれば良いんだ?」

こう思った読者の方、鋭い。そうです。それ大事です。
そこでもう一度冒頭の中小企業向けSBTと通常SBTの比較表をご覧ください。
2018年〜2022年から選択とあります。

ここでちょっと考えてみましょう。
世界は2019年末頃から2023年初頭まで新型コロナウイルスの感染拡大によって、経済活動に制限をかけている状況でした。もちろん商売にもよりますが、多くの方は行動制限などで需要が落ち、経済活動が停滞したのではないでしょうか。

そんな中、上記計算式の活動量というものが減るのは当たり前です。
経済活動の縮小は活動量の減少となりますので。


(なぜか2023年8月18日現在、ここから先の文章が消えてしまっていたので再度新たに記入します…)


野心的な排出量削減を掲げるならば、コロナ禍で最も経済状況が落ち込んだ時点を基準とすれば良いし、少しでもイージーな目標としたければコロナ前の最も好調だった時点を基準とすれば良いと思います。

STEP2:目標の検討

さあ御社のScope1とScope2が算出されました。続いてはこいつを2030年までにどれだけ削減するか考えましょう。

出典:環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html)
【参考①】中小企業向けSBT(PDF/514KB)

目標レベルを見てみましょう。Scope1,2に1.5℃目標が指定されていますね。少なくとも年4.2%削減です。仮に基準年が2020年の場合、10年で42パーセント削減ということになります。

ここではこの程度の規模感であると当たりをつけるに止めておきましょう。

御社においてScope1、Scope2をどうすればこれだけ削減出来ますか?
照明のLED化で賄えますか?
電気自動車を1,2台投入したら賄えますか?
太陽光発電設備を設置して賄えますか?

いろいろシミュレーションして、ざっくりでいいので計画を作っておきましょう。ここで大事なのはざっくりであること。精緻さは求めません

STEP3:社内折衝

おそらくここが一番ハードルが高いところでしょう。

脱炭素経営は新しい技術の導入、業務の変更、そしてそれに伴うコストが発生します。これらの課題に対して経営者は社員や関係者を納得させる必要があります。
しかし短期的な利益を求める声や、変化への抵抗は常に存在します。

「脱炭素経営の意義は計り知れない!地球温暖化の進行を食い止め!次世代に美しい地球を残すための取り組みは、経営者としての社会的責任でもあります!」ときれい事を声高に叫ぶだけでは従業員の納得は得られません。

彼らは何もボランティアで仕事をしてるわけではありません。何かが得られるからそれに取り組むのです。そこで明確なメリットを提示する必要があります。

以下にメリット例を挙げますので、社内折衝のアイデアとしてご活用ください。

  1. ブランド価値の向上: 環境への取り組みは企業の社会的責任として評価され、ブランドの信頼性や評価を高める要因となります。

  2. コスト削減: エネルギー効率の向上を図ることで長期的にエネルギーコストを削減することが可能です。

  3. 投資家からの支持: ESG投資の増加に伴い、環境への取り組みを行う企業は投資家からの支持を受けやすくなります。

  4. リスク管理: 気候変動に伴うリスク(例:資源の枯渇、天候の変動による生産の影響など)を早期に対策することで、未来のビジネスリスクを低減できます。

  5. 新しいビジネスチャンス: 環境技術の開発や新しいエコ商品・サービスの提供により、新しい市場や顧客層を獲得するチャンスが増えます。

  6. 従業員が誇れる職場へ: 環境や社会への貢献を目指す企業文化は、従業員が対外的に誇れる職場へと繋がるでしょう。

  7. 法規制への対応: 今後の炭素排出削減を求める法規制への早期対応が可能となり、将来的なペナルティーや制約を避けることができます。

いかがでしょう。
これくらい良いことあるよ言えば、多少は協力的にならないでしょうか?

いずれにせよ経営者としてリーダーシップが求められる正念場。ここで大筋合意を得られれば、あとは走るだけです。

自分の意思と従業員を信じてSBT申請に進みましょう。

STEP4:目標申請

中小企業向けSBTは下記URLから申請します。

リンク先をご覧になっておわかりの方もいらっしゃるでしょう。
私は絶望しました。全文英語です。
そうです。このSBTは日本語にローカライズされたものはありません。全て英語でのやりとりとなります。

今までの私だったらおそらくここで「もう無理だ」と匙を投げたことでしょう。それほどまでに語学音痴なので。

ですが最近は大変便利なものがあります。インターネットという道具を使えば、語学音痴の私でさえ、この長文の英語をいとも簡単に読みこなすことが出来るのです。

翻訳に関して私はよくDeepL(https://www.deepl.com/ja/pro?macos_app_version=4.0.317085&utm_source=macOS&utm_campaign=titlebar&utm_medium=app&cid=0CF24773-B0AB-4AD2-A75D-5009D3AD9BA5#team)を使用します。

この翻訳ツールは長文とか論文のようなものの翻訳が非常に優れています。もしまだ利用していないようでしたらおすすめします。

SBT申請は簡単です。このウェブサイトのステップに則って進んでいけば、誰でもゴールにたどり着きます。

STEP2の目標の検討で私はざっくりでいいといいました。それはこの申請サイトの中で基準年を選択すれば勝手に○○%削減と指定されるからです。

弊社は2019年を基準としたところ、おたくは46%ですねと指示されるのです。なので自社の基準年に沿ったSBT目標はこのウェブサイト上で確認されるのが良いでしょう。この数値目標をベースに自社の削減計画を練ってください。

途中、PDFに署名(サイン)をする作業もありますが、それはそれほど難しい作業ではありません。じっくり翻訳ソフトと相談して進めてください。

申請フォームを一通り入力したら申請ボタンをポチッとな。

申請事項に不備がなければ、2週間程度でSBTの事務局からメールで「Target Approval(目標承認)」とレスポンスがあると思います。(弊社申請時のことをベースにしてますので、現在どういう状況かはわかりません)

そのメールには

  1.  Fill in the target setting online application
    目標設定オンライン申請

  2. Due diligence and target approval
    調査と目標承認

  3. Invoicing and fee payment
    請求書発行と料金支払い

  4. Payment verification and target confirmation
    支払い確認と目標確認

  5. Target publication
    目標公表

と工程表のようなものが書かれ、あなたは3番の場所まで来ていますと示されています。目標が承認されたのであとはお金の話です。

中小企業向けSBT取得に必要な費用は1,000米ドルです。この記事を書いているのは2023年8月19日なので、145,415円となります。
最寄りの外国送金取り扱い金融機関にお願いして送金しましょう。

しばらくすれば「Target publication」のメールが届き無事SBT認証取得となります。

ただ弊社の場合行き違いがあったのか、この「Target publication」メールが待っても待っても届きませんでした。

そこで語学音痴の私がビジネスメールをSBT事務局に送るという行動に出たのです。

先ずは日本語でそれらしく書いてDeepLで翻訳。そして「ビジネスメール 英語」で作法的なものをいろいろ調べます。ただこれだけだとどうにも不安です。

そこでChat-GPTさんにこのビジネスメールの校正をお願いしました。するとこんな感じでどうよと多少の手直しが入りました。

私には正解が何か分かりません。ですが集合知の極地であるAIを駆使したんだから、限りなく正解に近いだろうということで、そのまま送信しました。

すると事務局より「やおら手続き完了するよ。」としれっと返信が来ました。
このメールの送受信のタイミング。店屋ものをオーダーを彷彿させました。

「いま出たところです!」

とにかくこんな語学音痴の私でも、現代のツールを駆使すれば世界とコミュニケーションをとれるという良い例になったと思います。

まとめ

中小企業がSBTを取得することは、企業の持続可能性への取り組みを明確に示す行動となります。SBTは気候変動対策の国際的な目標と連動した具体的なCO2削減目標を設定するもので、これを取得することで、企業が真剣に環境問題に取り組んでいることを外部にアピールできます。

特に中小企業にとって、大手企業との差別化やブランド価値の向上の手段として有効です。

SBT取得は将来的な環境関連の法規制への対応をスムーズになるにします。また環境リスク低減を図ることができるため、ビジネスの持続性が高まります。

さらにESG投資の増加や消費者の環境意識の高まりを背景に、SBT取得企業は投資家や顧客からの信頼を得やすくなります。

中小企業がSBTを取得することは、単なる環境対策ではなく、企業の競争力を高める戦略的な取り組みと言えるでしょう。

通常SBTはScope3にもキャップを課せられているという点で、難易度が高いものですが、中小企業版はそこまでではありません。

このハンディキャップを最大活用しない理由はありません。
早速御社もSBT認証取得してみませんか。

今回も長文最後までお読みいただきありがとうございました。