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僕たちは知らないところで繋がっている

先日、バイト終わりに高校の頃の友達の家に泊まったことがあった。借り物を返してもらうついでに家で酒でも飲もうとなったのだが、これが夜遅くになってしまったので泊まったのだ。

僕はバイト先で売れ残った刺身を持って彼の家へと行った。彼は酒を用意して、駅前で待ってくれていた。小雨の降る夜で、濡れると少し肌寒かった。

彼は都内のシェアハウスに住んでいた。同学年であったがすでに就職している彼は、色々な人と交流が持てた方が自分のためになるし、お金も節約できるという理由で、一人暮らしではなくシェアハウスを選択したと言っていた。

家に着くと早速落ち着いて、二人で酒と刺身を食べ始めた。今日は大家さんも途中から来るらしい。シェアハウスにはもう一人同居している人がいるが、その人は自分の部屋にいるという。

そんな話をしているうちに、大家さんがやってきた。四十代後半のおじさんだったが、細くて洒落ていて、とても若そうに見える人だった。大手のオーディオメーカーで働いているらしい。その人は追加で酒とおつまみを持ってきてくれた。

もう一人の同居人は大家さんと旧知の友で、海外に行ってマグロの買い付けなどしている人であった。彼も四十代後半で、大家さんよりは幾分か老けて見えた。ついこの間もスペインへ行って、魚を買い付けてきたらしい。

結局全員が揃って、酒を飲むことになった。僕の持ってきた刺身と、大家さんの持ってきたおつまみを肴に、それぞれの過去の話やコロナ禍での話、将来のことなどについて他愛もなくしゃべった。酒の力もあるのか、初対面の、しかも年上の人なのに、僕は物怖じせずに悠々としゃべっていた気がする。

話が僕のバイトのことになって、僕は百貨店の生鮮食品売り場でレジ打ちをしていると言った。この刺身も売れ残りで、タダで貰ってきたというと、みんなびっくりしていた。

「そういえば、この魚売ってるのは〇〇っていう会社なんですけど、知ってますか」

僕はマグロの買い付けをしてる同居人のおじさんに聞いた。するとすぐに、

「うん、知ってるよ。この近くに本社があって、社長と知り合いだよ」

とあっさり言った。それだけでも僕としては驚きである。

「え、そうなんですか!じゃあそこにも魚卸してるんですね」

「うん。大体チリとかスペインとか、地中海産とかのやつは僕が仕入れてる」

「そしたら、今日の刺身にもあるかもしれないってことですか」

「そうだね」

僕と友達はすぐに刺身の蓋を一個ずつ確認した。今日持ってきたものの中にはマグロもあったから、何かしら当たりがあるかもしれない。

そしてひとつだけ、生産地が大西洋産の本マグロがあった。おじさん曰く、スペインとかのマグロは大体、大西洋沖で獲られたものだから、大西洋産と表示されるらしい。これには流石に鳥肌が立った。

高校の友達のシェアハウスに偶然泊まったら、偶然魚のバイヤーの人がいて、その人が偶然僕のバイト先に魚を卸していて、その魚を偶然僕が彼の元に届けたのである。なんという奇縁だろうか。

まさに世界規模の地産地消である。というかグローバル経済の実態を目撃したと言った方が正しいかもしれない。

僕たちはみんな、知らないところで繋がっているのだなということを実感させられた。世界は遠い存在ではなく、意外にも自分たちの身近で回っているのである。

その本マグロは四切れあったから、僕たちは四人でひと切れずつ食べた。

マグロは人々の中を巡っている奇妙なつながりの中で、休むことなく泳ぎ続けている。

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