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“東京”の空気感。


先日、久し振りに東京駅へ向かった。


東京駅の構内は慌ただしく賑わっていて、
人の波に紛れながら歩いていると
仕事に夢中になっていた日々を思い出す。


靴音をたてながら急ぎ足で歩く人達と
休日の余暇を楽しんでいる私とでは
明らかに温度差があって、

その温度差に、ほんのりと淋しさを覚える。



社会に対する熱意が燻っている。

しかし、それに気付いてしまうと、
母親という役目が足枷のように感じてしまって
心の奥底がズシンと重くなる。



結局、母親となってしまえば
家族に振り回されて生きるしかなくて。
"時間"が自分だけのモノではなくなる。

だからと言って、不幸とは限らない。
子を得たからこその幸せも多々あるから。



ズラリと並ぶお土産売場を眺めながら
我が子の好みの品を探すのは楽しい。
ワクワクする。

子供たちが喜ぶ姿を想像するだけで
温かくて優しい気持ちになれる。
愛しさがあるからこそ味わえる幸福感。

平日の東京駅で
こんな風にのんびりと手土産を選ぶなんて、
確かに、あの頃の私には無かった感覚だ。


東京生まれのくせに、
「東京駅限定」という言葉に惹かれて
つい土産物を買ってしまうのは相変わらずで、

東京生まれのくせに、
都心部の空気感には馴染みきれないのも
下町の人間だから仕方無いとも思えた。



手土産が納められた紙袋をぶら下げながら
心が浮き足立つ。


東京駅の丸の内中央口から外へ出ると、
途端に都会的な景色が目の前に広がる。

この駅舎が、私は好きだ。

一目で東京駅だと解る特徴的な造りと、
都心のど真ん中だというのに
駅前の広場は異様な程にひらけていて、
そのギャップにも心が惹かれる。


東京駅を背にして暫く歩けば、
皇居と、江戸城跡が目の前に広がる。

都会の喧騒に侵食される事なく、
どっしりと構えたその空間に足を踏み入れると
心が途端に静かになる。


整えられた芝生の広場を散策しながら遠くを見渡せば
ぐるりと囲むように高層ビルが連なっている。

江戸城の天守閣が現存していたら、
どんな景色が見えたのだろう、等と想いを馳せる。


「東京」と聞けば、
せわしく人が行き交う殺伐としたイメージが先行する。

けれど、少し視点を変えてみれば、
ビジネスと、観光と、歴史……
それら全てをまとめて堪能できる面白い場所だ。

どれも固有の強さがあり、
だけど、絶妙なバランスで共存している。



無我夢中な働き方をしていた頃の私では
気付けなかっただろうな……


周りが見えないくらい仕事に夢中になれていた
あの頃の自分を羨ましく思いながらも、

我が子の恋しさを胸いっぱいに膨らませて
再び人の波に飛び込んだ。

妙な孤独感が込み上げたけれど、
気付かないフリをして、遣り過ごす事にした。

とにかく手土産を無事に持って帰ろう、と
それだけを考える事にした。



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