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世界が認めた邦画の傑作!荒くれ者の人力車夫のプラトニックすぎる熟年純愛に涙した『無法松の一生(1958)』

【個人的な満足度】

「午前十時の映画祭12」で面白かった順位:7/29
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

  製作年:1958年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:104分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、ラブストーリー
元ネタなど:小説『富島松五郎伝』(1938)
      映画『無法松の一生』(1943)

【あらすじ】

明治三十年、初秋。九州・小倉の古船場に博奕で故郷を追われていた人力車夫の富島松五郎、人呼んで“無法松”(三船敏郎)が舞い戻ってきた。

ある日、松五郎は木から落ちて足を痛めた少年・敏雄を助け、それが縁で敏雄の父・吉岡大尉(芥川比呂志)の家に招かれるようになる。酔えば機嫌よく唄う松五郎だが、大尉の妻・良子(高峰秀子)の前では照れくさくなり、声も出なかった。

大尉が急死した後、松五郎は吉岡家の面倒を見るようになるが―。

【感想】

「午前十時の映画祭12」最後の作品ですね。1958年の日本映画。1943年に公開された同名映画が検閲によって大事なシーンが根こそぎカットされてしまったので、同じ監督によるセルフリメイクとなります。第19回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品でもあります。

<オリジナル版よりも圧倒的に観やすい>

本作はリメイクなので、内容としてはオリジナル版とまったく同じです。ただ、撮影技術が上がったことで映像はカラーになり、音声も聞き取りやすくなったこともあって、全体的に観やすい作品となりました。オリジナル版の白黒映画もレトロな感じがしていいんですが、やっぱり今観ると画も音もわかりづらいところがあるので、その点はすべて改善されているのはよかったです。

<松五郎がちゃんと活きていた>

この映画の最大の魅力は、後半で沸々と沸き出る松五郎の良子に対する恋心ですね。オリジナル版では検閲によってまるまるカットされてしまっていましたが、今作ではすべて描かれていまし、そこが一番の見どころでした!

先日観た『オットーという男』(2022)もそうなんですが、主人公が"荒くれ者のおっさん"というギャップしか生まないちょっとズルい設定ではあります。もはやその手法が1943年のオリジナル版からあったというところに、歴史あるやり方なんだなと感慨深くもなりますけど、この映画はそんな設定のもとに描かれた松五郎あってこそですよ。

令和じゃまず見ないですよね、荒くれ者って。でも、それは松五郎の竹を割ったような性格の裏返しで、実は根は優しく、面倒見のいい兄貴肌な人物です。彼は道すがら助けた少年をきっかけに、その家族と仲良くなり、未亡人となった奥さんに淡い恋心を抱くという展開です。荒くれ者が道ならぬ恋に走らんとするっていうギャップがたまらんです。

<松五郎の律儀な性格が自分で自分の首を絞めている>

洋画のような身分の違いを超えた恋愛というほどではないんですが、小学校すら行けなかった人力車引きの男と軍人の未亡人というのは、普通に暮らしていたら交わることのない世界の2人だというのはわかります。そこをどう乗り越えていくか、という期待も膨らむんですが、そうはいかないのがこの映画の切ないところです。

劇中の時代は明治、この映画が作られたのは昭和。今みたいなキラキラした恋愛なんてものは存在しないときです。女性は自己主張せず大人しく家にいるのが普通ですし、男性は一家の主たる厳粛な存在であるという一昔前のジェンダーがまかり通っているんです。それに加えて、松五郎は律儀な性格じゃないですか。そんな彼が「好きです」なんて面と向かって言えると思いますか?彼が最後、もう居ても立ってもいられないぐらい良子への気持ちが溢れて本人に会いに行くのに、そして良子も薄々気づいてはいるはずなのに、何も言わずに帰ってしまう松五郎のあの切なさときたらないですよ!!もし、松五郎が告白していたら、良子はきっとその気持ちを受け入れていたでしょうに。。。松五郎は決して恥ずかしくて言わないんじゃないんですよね。自分が好いた女性は、自分によくしてくれた軍人の奥さんですし、ましてや自分と住む世界が違う方。自分なんかといっしょになって幸せになれるわけがないと思っているんです。その気持ちはすごくわかるんですけど、あそこまで良子から信頼されているのに気持ちを伝えないなんて、今の時代からしたらすごくもったいないことだとは思いました。そこからのラストのオチはもう涙なしには観れません。。。

<古き良き日本男児は絶滅危惧種か>

それにしても、松五郎のような竹を割ったような性格だったり、荒くれ者とまわりから称されたりするような人物は、今の日本のドラマや映画ではほとんど見かけなくなりましたね。もはや現実にそんな人いないでしょうし、いても「めんどくせえおっさん」で片づけられてしまうからなんでしょうか。松五郎なんて、冒頭では寄席でにんにく鍋を作っちゃって、「文句があるなら俺の前に出てこい!」なんて言う始末ですよ。まあ、そういうやべぇ人、SNSで上がって非難されたりしてますけど、そういう側面も持ちつつ、実はいい人だったなんて都合がいいキャラクター、現代では受け入れられないのかもしれません。古き良き日本男児っていうんですかね、昭和までは確かにいたような気もしますが、今は絶滅の危機に瀕していたりして。。。

でも、今作で松五郎を演じた三船敏郎さんの演技は本当に素晴らしかったです。手のつけられないほど暴れっぷりを見せたかと思いきや、しっかり子供の面倒も見て、良子への密かな想いを抱えて苦しんでいる。そんな彼を観ているだけでこの映画は面白かったです。なんとなーく、あれぐらいのキャラクターを今演じられるとすれば、役所広司さんぐらいかなあと勝手に思っていますが(笑)

<そんなわけで>

現代以上に自由な恋愛ができない時代における、不器用な男の熟年純愛に心が締めつけられる映画でした。ストーリーがシンプルだからこそ、キャラクターのよさが際立つ作品で、こんな昔の映画なのに切なさを感じるなんて思いませんでしたよ。世界が認めた日本の傑作としてぜひ観ていただきたいです!


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