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コロナ禍で忘れ去られていた人間臭さと感情のぶつけ合いが時にうらやましくも感じられた『愛にイナズマ』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:69/157
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:-
  製作年:2023年
  製作国:日本
   配給:東京テアトル
 上映時間:140分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
26歳の折村花⼦(松岡茉優)は気合に満ちていた。幼い頃からの夢だった映画監督デビューが、⽬前に控えていたからだ。

だが物事はそううまくはいかない。滞納した家賃は限界で、強制退去寸前。花⼦の若い感性をあからさまにバカにし、業界の常識を押し付けてくる助監督からは露⾻なセクハラを受け怒り⼼頭だ。

そんなとき、ふと⽴ち寄ったバーで、空気は読めないがやたら魅⼒的な舘正夫(窪⽥正孝)と運命的な出会いを果たし、ようやく⼈⽣が輝きだした⽮先……。卑劣で無責任なプロデューサーに騙され、花⼦はすべてを失ってしまう。ギャラももらえず、⼤切な企画も奪われた。失意のどん底に突き落とされた花⼦を励ますように、正夫は問う。

「花⼦さんは、どうするんですか?映画諦めるんですか?」
「舐められたままで終われるか!負けませんよ、私は」

イナズマが轟く中、反撃を決意した花⼦が頼ったのは、10年以上⾳信不通の家族だった。妻に愛想を尽かされた⽗・治(佐藤浩市)、⼝だけがうまい⻑男・誠⼀(池松壮亮)、真⾯⽬ゆえにストレスを溜め込む次男・雄⼆(若葉⻯也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”を暴き、⾃分にしか撮れない映画で世の中を⾒返してやる!と息巻く花⼦。突然現れた2⼈に⼾惑いながらも、 花⼦に協⼒し、カメラの前で少しずつ隠していた本⾳を⾒せ始める⽗と兄たち。修復不可能に思えたイビツな家族の物語は、思いもよらない⽅向に進んでいく。

そして、“ある秘密”がもたらす真実にとめどなく涙が流れる…。

【感想】

先日、その衝撃的な内容に全俺が震撼した『』(2023)ですが、それと同じ石井裕也監督が手掛けたのが本作です。まさか、同じ監督の作品が同じタイミングで公開されるとは思いませんでしたが、こっちは感動と笑いが入り混じった愛らしい映画でした。

<花子の持つまっすぐな映画愛に感銘を受ける>

この映画は、映画愛、男女愛、家族愛という3つの愛を通じて各キャラクターのよさが如何なく発揮されているところが推せるポイントです。まずは全編を通じて感じる花⼦の映画愛。彼女はせっかく映画監督デビューできそうなところまで来たのに、業界の慣習を重視し、何かと物語に意味を求める助監督の荒川(三浦貴大)と、プロデューサーながらも下っ端で何の権限もなく、あらゆる責任を負おうとしない原(MEGUMI)のクソコンビに辟易しています(笑)このコンビは観ているこっちがはらわた煮えくり返りそうになるほどのクソっぷりなんですが、どんなに嫌な目に遭っても断固として映画製作をあきらめない花子のモチベーションは、幼い頃に失踪した母親への想いと映画愛の成せる業かなと思いましたね。常にカメラを手放さず、気になるものはすべて記録するその徹底ぶりと、業界の慣習に抗い、自分のスタイルを貫き通そうとする我の強さは見習いたいと思いました(まあ、結果干されてしまうので、バランスは必要かもしれませんがw)。

<似た者同士であるがゆえの運命的な出会い>

そんなときに花子は舘と出会います。彼がまた不思議ちゃんで、空気は読めないし、他人との距離感もおかしい人物なんですが、その普通じゃないところに花子は惹かれていき、会ったその日からもうお互いにビビビッてきてキスまでいっちゃうんですよね。この2人、雰囲気からして普通じゃないなってのがわかるので、そういう点ですごく似てはいるんですけど、このように世の中は理由もなしに突発的に何かしら起こるものじゃないですか。特に男女愛においては。先の荒川は「そんな突発的なことはありえない」と散々豪語してきて、花子の言うことを全否定するんですが、そんな荒川の視野の狭さが改めて証明される気もしてちょっとスカッとしました(本人はそんなこと知る由もないんですけどw)。

<どんなにいがみ合っても実は根っこはみんな繋がっている家族愛>

ところが、原に騙されて花子は監督を降ろされたばかりか、荒川が代わりに監督を務めることになってしまうんですよ。しかも題材は花子が撮ろうとしたものそのまんまです。「こんな理不尽すぎること、映画業界にもあるんだな」と怒り心頭な気持ちで観ていたんですが、そこで最後にやって来る愛が家族愛です。花子は自分のダメ家族を題材に自分にしか撮れないドキュメンタリーを作ってリベンジを誓うんですけど、この花子の家族もまたクセが強く手ですが、ひと悶着もふた悶着もあるんですよ。とにかく折村家の家族喧嘩がもうすごくて。みんな汚い言葉を連発してわめき散らして。逆にこんなにまで感情をぶちまけられたらどんなにいいだろうかと思うほどです。その過程で、誰にも知られることのなかった"ある秘密"が明るみに出てることになるんですが、それがこの上ない家族愛に繋がってメチャクチャ感動的なんですよ。。。よくこんな複雑な事情をきちんと形にして映画にできるよなって感心します。結局、この折村家の家族愛に行き着くための踏み台でしかなかったですね、映画製作も花子と舘のロマンスも(笑)

<現代の人々が忘れている人間臭さを思い出させてくれる>

花子たち家族のやり取りを観ていると、人ってやっぱり直に会って話をしないと本当のところではわかり合えないなって強く思いましたね。正直、ですよ、コロナ禍になってマスクして、表情も感情も読み取られずにコミュニケーション取るのって。もう記号のようなやり取りで味気ないんですけど、必要最低限のことしか話さなくなるんで、本当に楽ですよ。そもそも人間って誰しもが何かを演じたり、自分を偽りながら生きていくことが少なくないと思うんですけど、マスクを付けることでそれがより低いハードルで行われるようになったと僕は思っているんですね。でも、この映画を観て、愛ってのはやっぱり顔と顔を突き合わせないと伝わらないなって感じました。お互いに直接話すからこそ、勢いで言っちゃうようなこともあって、まあそれがいい方に転ぶか悪い方に転ぶかはわかりませんけど、関係性は前に進むじゃないですか。そういう人間らしい生き方というか、他人との付き合い方というか、そういうのいいなって思いましたね。

<そんなわけで>

コロナ禍になって忘れ去られていていた人間臭い部分が全面に出た作品でとても楽しめました。観ているこっちが気恥ずかしくなるぐらい感情をぶつけ合うその姿にちょっとうらやましさも感じたりして。また、出ている役者の方が豪華すぎるのも見どころのひとつです。「そんなチョイ役でこの方を使うんだ!」っていうところもあるので。ただ、花子が作っていた映画がどうなったのか、そこがわからないところだけちょっとモヤりました(笑)


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