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人生のY字路である裁判を通じて、真実の追求が必ずしも幸せに繋がるわけではないと痛感した『イチケイのカラス』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:3/5
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

  製作年:2023年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:119分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:漫画『イチケイのカラス』(2018-2019)
      テレビドラマ『イチケイのカラス』(2021)

【あらすじ】

入間みちお(竹野内豊)が、東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称:イチケイ)を去って2年。岡山に異動したみちおが担当することになったのは、主婦が史上最年少防衛大臣・鵜城英二(向井理)に包丁を突きつけたという傷害事件。事件の背景には、不審点だらけのイージス艦と貨物船の衝突事故があった。だが、イージス艦の航海内容はすべて国家機密で、みちおの伝家の宝刀「職権発動」が通用しない難敵…!!

一方、坂間千鶴(黒木華)は、裁判官の「他職経験制度」で弁護士に。配属先は奇しくもみちおの隣町…!そこで出会った人権派弁護士・月本信吾(斎藤工)とバディを組み、人々の悩みに寄り添う月本に、次第に心惹かれていく…。そんな中、町を支える地元大企業のある疑惑が浮かび上がる――。

2つの事件に隠された、衝撃の真実。それは決して開けてはならないパンドラの箱だった――!?どうする、みちお…!!!?

【感想】

2021年にフジテレビで放送していたテレビドラマが好きだったので鑑賞。いわゆる法廷モノですが、裁判官に焦点を当てている点が他の作品との大きな違いで面白いんですよ、これ。

<主人公の曲者感が強い>

そもそもこの作品は、裁判官の入間みちおがかなりの規格外な人物です。法廷でちょっとでもわからないことや不明な点があると、「職権を発動します」と言って、裁判所主導で捜査を開始するんですよ。弁護士や検察の面目丸つぶれじゃないかって気もしますけど(笑)そこで気が済むまで聞き込みや調査を繰り返し、事実を積み重ねていく過程は『99.9-刑事専門弁護士-』の深山弁護士(松本潤)のようです。それをゆるっとした性格のみちおと、学級委員タイプの千鶴という背反する2人が行っていくドタバタ劇が魅力のひとつでもあります。

<強大な敵にどう立ち向かっていくか>

今回の映画では、イージス艦と貨物船の衝突事故をみちおが担当し、国家権力にメスを入れんとする姿勢がテレビドラマ以上のスケールで見ごたえあったんじゃないかなと思います。また、千鶴に関しては地方の大企業にかけられたある疑惑を追う形となり、こちらも大きな敵との戦いに身を投じて行く流れです。いずれも、一個人の存在など軽く消し飛ばせるほどの強大な力を持つ相手で、それらとどう戦っていくかが見どころでしたね。さらに、その2つの事件が実は密接な関係を持っているという展開も興味深い設定で惹きつけられました。

<この作品の最大のポイントとは>

裁判官を主人公にしている点で、他の法廷ドラマとは違った視点であるというのは最初にも書きましたが、この作品の最大のポイントは、真実の追求が必ずしも幸せに繋がらないという点にあるんじゃないかなと思います。普通の法廷モノは、事件や事故の原因を突き止め、加害者を断罪し、被害者を守り、再び平和な日々が戻るというパターンに落ち着くことが多いじゃないですか。でも、この作品の舞台は裁判所であり、主人公のみちおは裁判官です。主人公が弁護士なら、そうやって被告人を守ることが最優先とされますけど、この場合は「真実との向き合い方」が問われます。フラットな視点で真実を追求した結果、必ずしも被告人が望むような結果にはならず、むしろ辛い現実を突きつけられることもあります。それはテレビドラマでもずっとそうでしたね。

だから、裁判は人生のY字路と言われるんですよ。テレビドラマでもみちおが言っていました。「起きてしまったことは変えられない。でも、これからのことは変えられる。その分岐点がこの法廷です」と。ここでの判決が被告人の人生を大きく変えることになるからこそ、有利なことであろうと不利なことであろうと、事実として何が起こったのかを明らかにし、正しい判決を下そうという信念がみちおにはあります。それは、彼の過去があってこその信念なんですが、みちおの過去には今回は一切触れていませんでした。

正しい判決を下そうとするみちおの姿勢は今回の映画でも如何なく発揮されていますが、真実の裏に隠された背景に、法律の限界を感じてやるせない気持ちにもなったのも、この映画の印象的なところです。法律というルールによって、国民は権利を守られているのは確かにその通りなんですが、その法律からこぼれた人までは救ってくれないんですよね。

<そんなわけで>

法律とは何なのか、どう向き合うべきなのかを考えさせられる深いテーマの映画でした。法律によって守られる反面、法律によって傷つけられる人たちがいる状況を目の当たりにして、どうすればよかったのか今でも僕にはわかりません。真実の裏に隠された事情を知ったときのやるせなさを、ぜひ映画館で堪能してください。

そういえば、全然関係ないんですけど、今回この映画には向井理さんと斎藤工さんが出演されています。ドラマ好きな人にはピンとくるかもしれませんが、『アキラとあきら』(2017)じゃないかって思いますよね(笑)


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