見出し画像

認知症の父を介護する娘の健気な姿に心打たれる『選ばなかったみち』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:33/46
   ストーリー:★★★☆☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【ジャンル】

ヒューマンドラマ
認知症

【原作・過去作、元になった出来事】

イギリスを代表する女性監督サリー・ポッターの弟が、若年性認知症と診断され、監督自身が介護で寄り添った経験をもとに書き下ろされた物語。

【あらすじ】

ニューヨークに住むメキシコ人移民レオ(ハビエル・バルデム)は作家であったが、認知症を患い、誰かの助けがなければ生活はままならず、娘モリー(エル・ファニング)やヘルパーとの意思疎通も困難な状況になっていた。

ある朝、モリーはレオを病院に連れ出そうとアパートを訪れる。モリーが隣にいながらもレオは、初恋の女性と出会った故郷メキシコや、作家生活に行き詰まり一人旅をしたギリシャを脳内で往来し、モリーとはまったく別々の景色をみるのだった―。

【感想】

タイトルから「もしも、、、」の世界を描いた話かと思ったんですけど、その実態は認知症の父と介護する娘のヒューマンドラマでした。

<介護する娘の姿が健気すぎて泣ける>

この映画で一番注目したいのは、何と言っても娘モリーですね。両親が離婚しているため、父親の介護に関しては母親はほとんどノータッチの様子です。ヘルパーさんの助けはありつつも、身内では彼女一人で面倒を見ているんですよ。父レオは意思疎通も図れないばかりか、お漏らしもしちゃうし、他人の犬を、自分がかつて飼っていた愛犬と混同して連れて行こうとするなど、非常に手のかかる状態です。普通だったらもう介護疲れを起こしてもおかしくない状況かもしれません。にも関わらず、モリーは嫌な顔ひとつ見せず、父を非難することもなく、まるで赤ちゃんをあやすかのように、明るく優しく接するんですよ。本当にいい子だなって。まだ若いし自分の時間だって欲しいだろうに。まあ、終盤はとあることが原因で堪忍袋の緒が切れてしまうところもあるんですが、それでも父への愛が変わらなかったことには感動しました。

それにしても、演じたエル・ファニングって、役の幅広いですよね。彼女の出演作、気づけばいろいろ観ていましたけど、パッと思いついただけでも、『マレフィセント』(2015)ではオーロラ姫をやっていますし、『アバウト・レイ 16歳の決断』(2015)ではトランスジェンダーの役でした。『ネオン・デーモン』(2016)ではやべぇモデルもやっていましたし、『ティーンスピリット』(2018)では歌手を目指す少女など。ティーンの役が多いですけど、それでも役の多さに驚かされます。

<認知症という題材の割には悲壮感がない>

この映画、認知症の父とその介護をする娘ってことで、悲しい話かなと思いましたが、実際はそんなこともないんです。もちろん、介護の大変さは痛いほど伝わってきますよ。でも、先にも書いた通り、娘は父へ変わらぬ愛を捧げていますし、父は父でまるで冒険をしているかのような感じで。

父の頭の中って、常に過去の思い出の世界が広がっていて、そこでの言動がそのまま現実に反映されていることが多いです。だから、基本的には彼の目から見えている世界っていうのは、思い出の世界が主軸になっているんじゃないかなって思いました。楽しかったことも辛かったこともひっくるめて、自分にとって印象深く残っている思い出こそが、今の自分の世界のすべて。それを、娘が優しく寄り添うことで、時々現実の世界に引き戻されている印象を受けます。まさに、思い出の世界と現実の世界を行ったり来たりしているような感じかなって。それ自体は悲観することでも何でもなく、本人からしたらそれこそが日常なんでしょうね。

<そんなわけで>

認知症を扱った映画と言えば、個人的には『ファーザー』(2020)がものすごく印象に残っています。あれは認知症の人の視点で描かれた世界が秀逸な作品でした。この映画も、認知症であるレオの頭の中では何が起こっているのかが垣間見えるので、少し似ている部分があるかもしれません。レオを演じたハビエル・バルデムの演技が、思わず見入ってしまうほどのリアリティなので、一見の価値はある作品だと思いました。

https://cinerack.jp/michi/

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?