【ネタバレあり】日本の物流の闇を描く面白さに加え、過去ドラマと世界観を共有する"野木亜紀子・ドラマティック・ユニバース"的な展開が激アツ『ラストマイル』
【個人的な満足度】
2024年日本公開映画で面白かった順位:37/97
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:-
製作年:2024年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:129分
ジャンル:サスペンス
元ネタなど:テレビドラマ『アンナチュラル』(2018)
テレビドラマ『MIU404』(2020)
公式サイト:https://last-mile-movie.jp/index.html
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
11月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。
巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?決して止めることのできない現代社会の生命線―。世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?
すべての謎が解き明かされるとき、この世界の隠された姿が浮かび上がる。
【感想】
※以下、ネタバレ。
これは面白かったです!日本の物流業界の歪んだ構造に焦点を当て、サスペンス調に仕立て上げ、さらに過去のテレビドラマともリンクする流れが綺麗にまとまっててうまいなと感じました。以下から早速ネタバレしているので、まだ知りたくない方はここでページをそっ閉じしてください。
<克明に描かれる物流サービスの闇>
この映画で注目したいポイントが2つありました。まずひとつめは、物流業界の現状を丁寧に描いていることです。舞台となるショッピングサイト「DAILY FAST」は、これもう完全にAmazonだろって思うんですが、こうした大手ショッピングサイトのおかげで、我々はいつでもどこでも必要なものが手に入るようになりましたよね。しかし、つい忘れがちですが、購入したものが消費者の手元に届くまでには運送会社や宅配ドライバーなど、実に多くの人の努力があるわけです。にも関わらず、DAILY FASTは自分たちが大口取引先であることをいいことに配送会社に高圧的で、ドライバーたちも適正と言い難い労働環境の中で身を粉にして働いています。さらに、最初に爆発事故があったときも、DAILY FASTは利益を優先して工場の稼働を止めることはしませんでした。こういう大企業らしい利益追求型の姿勢や、下にしわ寄せが行く構図はとてもリアルでしたね。中でも、親子でドライバーをしている佐野昭(火野正平)と亘(宇野祥平)の哀愁漂う役どころは印象に残ります。
<すべての始まりは5年前>
そんなDAILY FASTの持つ巨大なロジスティクスセンターからすべては始まりました。山崎佑(中村倫也)という社員がロジスティクスセンターの3階から、1階のベルトコンベアへ飛び降りたのです。幸い一命はとりとめたものの、その後5年もの間植物状態のままです。これは実際に働いたことあるの人しかわからないかもしれませんが、あれだけシステム化された中に身を置いていると病んでくる人も出てくるんでしょうか。劇中では、いわゆる上司からのパワハラだったり、数字に追われるような労働環境だったりとわかりやすい描写がなかったのでちょっとピンときませんでしたが、山崎は見るからに心身が疲弊しまくっているような状況でした。彼がベルトコンベアに飛び込んだのは、おそらく辛い現実から逃れるために、システムそのものも止めたい気持ちがあったからでしょう。ベルトコンベアは70kgの重さを超えると止まる仕様であることに目を付け、自ら犠牲になろうとしたのです。それなら70kgを超える荷物でもいいのではと思いますが、そんなものを運ぶ力なんて彼には残されていませんでしたし、何よりも本人自身も過労で死にたい心理状態にあったため、あのような自殺未遂に繋がったのだと思います。
で、山崎がベルトコンベアへ激突したとき、その衝撃で稼働は止まったんですよ。止まったんですが、彼が運び出されると何事もなかったかのようにまた稼働を再開するんですよね。。。結局、大きな代償を払っても巨大企業を変えることはできないことへの比喩のように感じられてもどかしい気持ちになりました。しかも、彼がまだ意識があるときに、「会社を訴えません」的な誓約書にサインをしてしまったから、労災と退職金は出たものの、会社からはそれっきりでした。会社としては用意周到というか、間違った対応ではないと思いますが、やはりここにも人間味を感じない恐怖がありましたね。
<そんな山崎の敵討ちを画策する真犯人>
山崎の復讐を果たそうと今回の爆破事件を仕組んだのが、恋人の筧まりか(仁村紗和)です。彼女も彼女でさ、、、こう言ってはなんですが、無駄というか間違った根性の持ち主だったんじゃないかなと思います。捜査が進み、最後の最後で彼女の居場所を突き止めようとしたとき、驚愕の真実が明らかになるんですよ。実は、最初の爆発事故の被害者はホームレスから戸籍を買った彼女だったんです。それは司法解剖の結果わかることなんですが、個人的にはそうまでする動機がちょっとわかりませんでした。恋人である山崎を守れなかった後悔や、彼が植物状態のまま自分だけ生きることの辛さ、またはどうせこれから起こる爆発事件で多くの人が犠牲になるのだから、もはや自分も死んで償おうといういろんなメッセージを含めてああいったやり方を選んだんでしょうけど、そんなことをしても大企業の連中は何とも思いませんし、三澄ミコト(石原さとみ)も「そんな根性ならいらない」って言ってましたが100%同意です。
この映画には、大企業を動かす人、大企業に潰される人、大企業に一矢報いたい人などいろんな立場の人が出てきますが、完全な悪者なんてのは多分いなくて、ある意味全員システムに乗っ取られた被害者、、、というと語弊がありますが、何か見えないものに支配されてしまったようにも感じます。最後のエレナのセリフに「爆弾はもうひとつある」って言っていますが、そのシステムが改善されない限り、同じようなことが起こりうるっていう警告かもしれませんね。
<まさかのシェアード・ユニバース>
ひとつめの記述が長くなってしまいましたが、この映画で注目したいポイントのふたつめが、本作がシェアード・ユニバースであることです。『アンナチュラル』と『MIU404』と世界観を共有しているんですよ。なので、先にも書いた三澄ミコトや伊吹藍(綾野剛)、志摩一未(星野源)らも登場します。2つとも好きなドラマだったからファンとして感慨深い気持ちになりましたね。とはいえ、マーベルやDCほどガッツリではなく、『アンナチュラル』は司法解剖、『MIU404』は捜査というように、うまく役割分担していたって感じでした。それにしても、特撮を除いた日本の映像作品でここまでシェアード・ユニバースの要素を入れたのはほぼ初めてではないでしょうか。以前、日テレでやっていた『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』(2019)と『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』(2019)も世界観を共有していましたが、あれと比べたら今回はもっと入り込んでいた印象です。ただ、この映画は単体でもとても面白く、仮に他作品とのクロスオーバーがなかったとしても充分に楽しめる内容だったので、マーベルやDCのように「おもちゃ箱をひっくり返したような」形になっていないところが丁寧に作られているなと感じました。
<そんなわけで>
日本の物流サービスの闇を克明に描いたサスペンス映画として非常に面白い作品でした。便利さの裏では誰かにしわ寄せがいっているという構図は、何も物流サービスだけでなく他の分野でもありうることなのでいろいろ考えさせられます。そして、過去のテレビドラマを観ていた人にはお楽しみ要素もあるのでエンターテインメントとしても楽しめるし、本当にうまく作られているなと思いました。オススメの映画です。
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