今年一番笑った邦画!現代を取り巻くリアルな要素盛りだくさんだけど、変にかっこつけず誰も傷つけず、うまくコメディに落とし込んだ宮藤官九郎の脚本力が秀逸すぎた『ゆとりですがなにか インターナショナル』
【個人的な満足度】
2023年日本公開映画で面白かった順位:24/142
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★★
映画館で観たい:★★★★★★★★★★
【作品情報】
原題:-
製作年:2023年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:116分
ジャンル:コメディ
元ネタなど:テレビドラマ『ゆとりですがなにか』(2016)
【あらすじ】
「野心も競争意識も協調性もない」と揶揄されてきた「ゆとり世代」。かつて勝手にそう名付けられた彼らも30代半ばを迎え、それぞれ人生の岐路に立たされていた…。
夫婦仲はイマイチ、家業の酒屋も契約打ち切り寸前の坂間正和(岡田将生)。いまだに女性経験ゼロの小学校教師・山路一豊(松坂桃李)。事業に失敗し、中国から帰ってきたフリーター・道上まりぶ(柳楽優弥)。
家族、仕事、仲間、ライバル、不倫疑惑、マッチングアプリ、エビチリ、二日酔い…。彼らの前に立ちはだかる"人生の試練"…!そして、《Z世代》《働き方改革》《コンプライアンス》《多様性》《グローバル化》…。想像を超える新時代の波も押し寄せ、物語は予想外の展開へ…!!
時代は変わった。俺たちは…どうだ!?
【感想】
※以下、敬称略。
2016年に日テレで放送されていたテレビドラマの映画版です。そのドラマ自体、ここ数年で観てきたドラマの中でも5本の指に入るぐらいストーリーもキャラクターも主題歌も個人的には好きなんですよ。だから、映画化を聞いたときからメチャクチャ楽しみにしてたんですが、もうツボりすぎてひとりで肩振るわせて笑っちゃいました(笑)
<現代を生きる人すべてにわかりみが深い話>
この作品のよかったところは、「映画版」となっているからといって、変にスケールがデカくなったり、ド派手になったりっていうのがなく、あくまでもテレビドラマ版の延長であったことです。でも、そこが『ゆとりですがなにか』らしくて、すごく作品の世界観を大事にされているなと感じて好感が持てたんですよね。
その中で、今回はとにかく詰め込んでる要素が多かったのが特徴的でした。リモートワークといった新しい働き方、パワハラ、アルハラなどのコンプライアンス、国際交流やLGBTQなどの多様性、女性の生きづらさ、男女の友情、コスプレ、YouTuber、育児、童貞、セックスレス、泥酔、おっぱいまで!もともとテレビドラマ版でもいろんな要素が入っている作りでしたが、2016年の放送から7年経って、時代の変化を踏まえてさらにいろんな要素を2時間の中に詰めるからより密度が濃いんですよ。そのいくつもの要素を、坂間と山路とまりぶに割り振りながら物語は進んでいきます。
この映画、言ってしまえば「現代を生きるいい歳した大人の日常」を描いているに過ぎません。何か強大な敵を倒すとか、どこかへ行かなくてはならないとか、そういう向かうべきゴールがある話ではないんですよね。なので、それだけ聞くと地味な印象を受けてしまうかもしれませんが、メインの3人が日常の中で先に書いた要素と出会い、悩み、葛藤していくのが、現代を生きる身からするとわかりみが深いモノばかりで、それだけで感情移入しやすいんですよ。中にはセンシティブなものもあるんですが、誰も傷つけずにうまく笑いに変えられているのも、脚本を担当した宮藤官九郎の為せる業ですね。邦画ではあまり見かけませんが、時折出るブラックジョークなんかも悪いとは思いつつ笑ってしまうので注目ポイントです。本当にちょっとしたセリフや仕草がマジで面白いですから、これ(笑)
<短所すら愛せるキャラクターたち>
この映画、基本的にはしっちゃかめっちゃかしてるんですが、それを面白く感じられるのは、やっぱり出てくる登場人物みんなキャラが立ってるからなんですよね~。坂間はとにかくオーバーリアクションかつ叫んでばかりでうるさいですし、山路の童貞感と独特の恋愛観は妙なぎこちなさを生んでいますし、まりぶの調子のよさと胡散臭さには近寄りがたさがあります。でも、彼らは彼らで一生懸命「生きてる」って感じが伝わってくるんですよ。何とかトラブルを回避しようとしたり、恋人を作ろうとしたり、新しい仕事に勿慣れようとしたり、みんなそれぞれ抱えている問題を解決しようと必死なんですよね。だから、彼らの短所ですらすごく愛せるんだと思います。
また、僕は茜ちゃんを演じた安藤サクラの演技がテレビドラマ版から引き続きとても好きなんですよ。鬼嫁と言われるぐらい怖いところもあるんですけど、心を許してる山路との掛け合いは男友達みたいなノリで観ていて楽しいですし、ラストの夫とのやり取りは女の子感出しててかわいさがあったりして、その場の状況と対面する相手によって性格を演じ分けられているところがすごいなって思いました。
あと、今回新キャラとして登場したチェ・シネ(木南晴夏)と服部(吉原光夫)もいい味出してましたね~。2人とも真面目でシリアスな雰囲気なの画、ちょっとした仕草がギャップになって笑えるんですよ(笑)しかも、チェは女性としての生きづらさを、服部は禁断の恋を、それぞれ抱えており、面白いエピソードを持ってるんですよね。いやー、これは続きが知りたい(笑)
<拝啓、いつかの君へ>
もうひとつ、個人的にうれしかったのが、オープニングもテレビドラマ版と同じで感覚ピエロの『拝啓、いつかの君へ』をそのまま使ってくれていた点です。あの歌、すごく好きなんですよ。映画版の主題歌は『ノンフィクションの僕らよ』って歌ではあるんですけど、ちゃんとドラマの方も残してくれたことに感謝です!
<そんなわけで>
福田雄一監督作品みたいに変にウケを狙わずに、自然な感じで笑えるのが心地いいコメディ映画でした。テーマ的にも現代ならではの内容ばかりで、老若男女問わず楽しめると思うので、これはメチャクチャオススメしたいです!