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「なぜ今さら映画化?」って思ったけど、偏見や思い込みが事実を歪めてしまうことの愚かさは今だからこそ観ておきたいと思った『SAND LAND』


【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:33/115
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★★★
     音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:-
  製作年:2023年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:106分
 ジャンル:アニメ、アクション、アドベンチャー
元ネタなど:漫画『SAND LAND』(2000)

【あらすじ】

魔物も人間も水不足にあえぐ砂漠の世界<サンドランド>。

悪魔の王子・ベルゼブブが、魔物のシーフ、人間の保安官ラオと奇妙なトリオを組み、砂漠のどこかにあるという「幻の泉」を探す旅に出る―。

【感想】

原作は『ドラゴンボール』(1984-1995)で有名な鳥山明先生が手掛けた漫画です。僕が高校生ぐらいのときに本屋に並んでいた記憶がありますね。『COWA!』(1997)や『カジカ』(1998)と同様、短期集中連載で描かれた作品で、巻数も1巻のみとすぐに読める手軽さがあります。それゆえに、今回の映画も原作漫画の内容を削ることなく、まるっと映像化されているのがよかったです。

<やっぱり日本の漫画やアニメは面白い>

「日本の漫画やアニメってすごい」。改めてそう感じる映画でした。アクションやSF、アドベンチャーなんかは特にそうですが、実写では海外作品の方が、世界観もキャラクターも映像も圧倒的でとても夢を感じるんです、個人的には。その反面、正直、邦画の実写で夢を感じられることはほとんどないので、海外のブロックバスターなド派手な映画を目にするたびに、「邦画は置いていかれてるんじゃないか」なんて勝手に不安になったりもします。でも、日本ではそういう夢ある作品ってのが、漫画やアニメで実現されているんですよねー。今作に限らずですが、アニメ映画を観ると、海外作品で感じる「すげー」っていう感覚を得ることができます。

<今観ると新鮮さを感じられる設定>

この映画、高校生のときに漫画を読んだときにはあまり深く考えずに読んで、「世界観とキャラクターが面白いなー」ぐらいしか感じなかったんですが、今観ると面白い要素が詰まっています。水不足にあえぐ砂漠の世界で、人間のおっさんと魔物が水を探して旅に出るという『オズの魔法使い』(1939)並みの種族混合の冒険じゃないですか。しかも、日本の漫画やアニメって、メインのキャラクターとなるのは少年少女が多く、今回もベルゼブブはそのセオリーに沿ってはいるものの(とはいえ2500歳なんですけどw)、ラオとシーフは見た目がもうザ・おっさんですよ。もともと、鳥山明先生が「老人と戦車を描きたい」というところから始まった作品だそうですけど、よく当時のジャンプに載ったなと思いますね(笑)大人になってから観ると、その組み合わせに新鮮さを感じられます。

<意外と深いメッセージ性あるテーマ>

そんな奇妙なトリオの冒険譚として楽しめる本作ですが、一番印象深いところといえば、この映画のテーマでもある「偏見や思い込みによって善悪が見えにくくなる」ってところです。"意外と"と言ったら失礼かもしれませんが、鳥山明先生の漫画って割と勢いで進んでいくところがあって、それはそれで面白いんですけど、あんまりテーマっていうのを感じたことがなかったんですよ。ところが、この映画では先に書いたようなテーマがあって、それってこの前ネトフリで観た『ニモーナ』(2023)にも通じるところがあるんですよね。つまり、魔物っていうだけで完全に悪とみなすんですよ、人間って。今回の水不足も魔物のせいだって騒いでいたのも人間。でも、水がなくて困っているのは魔物も同じですし、そもそも今回の水不足の原因を作ったのは人間の国王じゃないですか。彼が私利私欲のために水を独占し、その過程で30年前の悲劇も起きているわけです。そのことを踏まえて、ラオは「本当の悪魔は私の方じゃないか」って言っていましたが、人間だからといって正義を振りかざせるわけでもないし、魔物というだけで悪とは限らないんですよね。偏見や思い込みによって、事実の中にある真実が見えなくなってしまい、善悪の判断ができなくなっちゃう。それをこの映画ではわかりやすく伝えています。

<鳥山ワールドだからこそ子供にも見せたい>

この映画って鳥山ワールドらしく、人間のキャラクターも個性的な上に、人間以外の知的生命体も数多く存在し、メカのデザインも細かいところまで描かれていて、とても夢のある世界観なんですよね。鳥山明先生のデザインって、うまい具合にデフォルメされていて、子供でも取っつきやすいと思うんですが、そういった中で「偏見や思い込みに惑わされてはいけない」というメッセージを受け取れるから、子供にも見せたい作品だなと感じました。まあ、今はネットやSNSが普及しているから、昔よりはひとつの物事でも多面的に捉えやすくはあるけれど、こういうストーリー仕立ての中で感じ取るのもいいなって思いますね。

<そんなわけで>

ストーリーや世界観がつかみやすく、キャラクターもアイコニックで面白い映画です。原作漫画も1巻しかないから、多少のアレンジはあれど、ほぼそのまま映像化されているので、事前に漫画を読まなくてもまったく問題ありません。夏休みに観る1作としてオススメしたいです!

ちなみに、僕はこの流れで先に出た『COWA!』や『カジカ』に加えて、『貯金戦士キャッシュマン』(1990-1991)や『GO!GO!ACKMAN』(1993-1994)、『ネコマジン』(1999-2003)なども映画として観たいなあと思っています(笑)


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