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『心お弁当』 # 毎週ショートショートnote

俺は若い頃に、3人の友人と起業した。
売上が上向きだした頃、1人と喧嘩になり、そいつは離れていった。
支社を出した頃に、1人が反対して辞めた。
新しい業種に手を広めた時、1人を辞めさせた。

近くに「心お弁当」と看板を出す店があった。
毎日行列ができている。
興味があって並んでみた。
SNSでは庶民感も大切だ。
やっと順番が回ってきたと思うと、店主が言った。
「あんたに売る弁当はねえ」

俺は会社を失った。
路頭に迷った時に、またあの弁当屋が目に入った。
今度は何も言わずに弁当を売ってくれた。
早速、公園のベンチで弁当を開けた。
中は、白飯にごま塩が振ってあるだけ。
そうか。
これは「心お弁当」ではなく、「しお弁当」なのか。
「し」の上の3つの点がゴマってことか。
あのオヤジ、馬鹿にしやがって。
食ったら、怒鳴りこんでやる。
俺はぱくついた。

食いながら、なぜか泣けてきた。
あの時の友人に謝らなければと思った。
そうだ。
これはやっぱり「心お弁当」だったんだ。


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