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『瓦礫の中のアルバム』

僕たち軍人は国を守るのが務めだ。
国と国民を敵国から何があっても守り抜く。
もちろん、戦いは先手必勝だ。
我が国を侵略しようという国があれば、迷わず攻撃に出る。
相手よりもどれだけ早く動けるか。
それが戦況を大きく左右する。
狙うのは軍事施設だ。
僕たちが戦うのは敵兵であって、その国の国民ではない。
その戦いも、そのような命令のもと始まった。
もちろん、僕たち志願したての兵隊にはどこが軍事施設かなどわからない。
落とせと言われたところに爆弾を落とす。
打てと言われたところにミサイルを打ち込む。
あれが敵兵だと言われれば、迷わず撃つ。

敵兵の抵抗もなかなかのものだった。
正義は我々にある。悪をやっつけろ。
我々は英雄になるぞ、引き下がるな。
上官が言った。
僕たちも雄叫びを挙げた。
倒れていく仲間もいた。
僕はくじけなかった。
ほら、悪を撃て。
上官の指示のもと、買い物かごを提げた女性を撃った。
ほら、悪の芽をつめ。
上官の指示のもと、幼い女の子を撃った。
気がつけば、街は瓦礫の山と化していた。
人影はなく、歩いているのは猫だけになった。
僕たちは、敵を制圧した。

かろうじて骨組みの残った建物の中でその夜を明かすことなった。
瓦礫の散らばる、狭い部屋で僕たちは思い思いの場所に腰を下ろした。
真ん中に立てたローソクに仲間の顔が照らし出された。
みんなの顔が緊張からの解放で、優しく見えたのが嬉しかった。
「これはなんだ」
誰かが瓦礫の下から、赤いビロードの表紙のアルバムを拾い出した。
口笛を吹いた。
「これは、ここの女学校の卒業生の写真だな」
みんなは、その写真を見ようと身を乗り出した。
僕は、ここが女学校の跡だとその時初めて知った。
僕もみんなの後ろから首を伸ばした。

「俺は、真ん中のこの子がいいな」
「俺は、端から2番目のこの子だね。髪の長いのがいいや」
「この子はスタイルが良くなるぞ、きっとな」
「この子の笑顔は、優しそうじゃないか。嫁にもらうならこの子だね」
「このくりっとした瞳」
お前はどれがいいと上官が僕に聞いた。
僕は写真の中で、一番背の低い子を指差した。
みんなは笑い転げた。
「やっぱり。子供だなあ」
ひととおり笑いがおさまった時に誰かがつぶやいた。

「もういないよ。この子たちは」
ローソクが消され、みんなは眠りについた。

僕はこっそり、そのアルバムを上着の中に隠した。
身体が震えてくるのを、朝まで必死でこらえた。

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