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『少年と人工衛星』

少女は丸い窓から外を眺めた。
毎日、同じ時間にここにやってくる。
この時間になると見えるのだ。
暗い空間の向こうに、青い星が。
母親からは、あの星がふるさとだと教えられた。
ふるさとというのは生まれた場所のことだ。
覚えていないというと、
「当然でしょ。あなたはここがふるさとなの」
ここでは、みんなが同じところで生まれる。
ふるさとという言葉に意味があるとは思えなかった。
それでも、ふるさとという響きが好きだった。
どうして好きなのかは、わからなかった。
それは、同じ男の子をみんなが好きになる理由と似ているような気がした。
それに、あの星は美しい。

少年は庭に出ると空を見上げた。
夕食後のバットの素振りが日課になっている。
バットが夜の空気を切る音が好きだった。
スタンスを決めて、集中する。
目の前にピッチャーが現れてくる。
しっかり睨みつける。
ピッチャーのモーションに合わせてテイクバックに入る。
ステップからしっかりためを作ってフルスイング。
何度も、何度も繰り返した。
まるで、それが何かを動かせるとでもいうように。
まだ現れていない、この先の時間のどこかに待ち受けている何かを。
やがて、少年のバットから快音が聞こえる。
少年には、はっきり見えた。
夜空に一直線に吸い込まれていくボール。
そして、その先をゆっくり横切る小さな光も。

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