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『俺の影と影の俺』
俺は影だ。
いや、元々俺は影じゃない。
俺は俺自身だったのだ。
毎日、退屈な日々を過ごしていた。代わり映えのしない毎日。
仕事は特に面白くもなく、ただ食っていくために働いていた。
朝早くから部屋を出て、深夜に帰ってくる。
飯を食って寝るだけだ。
だから、彼女などいるはずもない。休日は昼頃まで寝ている。
ある休日の午後、公園のベンチで足元を見ると、俺を見つめている奴がいた。
俺の影だった。
俺を下から見上げてニヤニヤ笑っていやがる。
「何がおかしい」
「ずいぶん退屈そうじゃないか」
「ほっといてくれ」
「それにお疲れのようだな」
「お前に関係ないだろ」
「交代してやってもいいぜ。影は楽しいもんだ」
俺は返事をせずに歩き始めた。
影は足元で笑い声を上げながらついてきた。
その日の帰りも深夜だった。
コンビニで買った弁当をテーブルに放り投げると明かりをつけた。
突然足元から女の笑い声。
続いて、
「今日も遅かったじゃないか」
影の声だ。
どうやら影の奴が、どこかの女の影を連れ込んでいるらしい。
「どうだい、彼女、いかすだろう」
無視した。
「俺に気にせずに、その不味そうな弁当でも食ってくれよ」
大きなお世話だ。
ベッドに入ったが、時々聞こえてくる女のなまめかしい声と影の笑い声で眠れない。
それから、俺の影は毎日違う女を連れ込み始めた。時には、友人も招いてパーティでも開いているようだ。
ある日、影は言った。
「交代してやろうか」
「交代だと」
「そうだ。お前が影になって、俺がお前になるのさ」
「馬鹿なことを…」
「心配するな。ちゃんと会社に行ってやるよ」
「そんなことができるのか」
「簡単さ。お前も影になって俺みたいに楽しめばいいさ」
俺は今、俺の影になってあいつを見上げている。
俺になった俺の影のあいつを。
あいつは毎日、会社帰りに女を連れ込んで、俺のベッドで楽しんでやがる。
会社でも調子よくやって、昇進もしたようだ。
俺は俺の影になってはみたが、相変わらずひとりで退屈だ。
「もういいだろう。元に戻してくれ」
「そのうちにな」
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