「2年間は利益を出さず投資期間と宣言した」2019年東証マザーズ株価上昇率ランキング1位の企業の正体
2006年に創業し、2015年に東証マザーズ上場、2019年には東証マザーズに上場する時価総額100億円以上(9月30日時点)の銘柄を年初来株価上昇率でランキング(※)した中で1位に輝いたマーケットエンタープライズ。乾電池のリユース事業からはじまり、現在は全国に10の物流拠点を構え、取り扱う商材は日用品から農機具や医療機器といった専門商材と幅広く、IT×リアルの両軸で世の中のニーズに応えている。
(※)2019年10月2日付の日本経済新聞より参照
また、リユース事業を主軸として成長してきたが、現在は「賢い消費を望む消費者に様々な選択肢」を提供するべく、メディア事業、WiMAXや格安SIMなどの通信インフラを提供する通信事業も同社の中核を担うサービスへと成長している。
そんなマーケットエンタープライズであるが、上場して株価上昇率ランキング1位へと輝くまでは、もちろん平坦な道のりではなかった。
「3回連続で強盗に入られたときは、相当ヘコみました」と語る代表取締役 小林泰士に、あらためてマーケットエンタープライズとはどういった会社なのか、そして株価上昇率ランキング1位に至るまでの道のりを振り返ってもらった。
100万円を握りしめて乾電池のリユースから開始。最適化商社として現在は農機具や医療機器にまで商材の幅を広げる
―― あらためてマーケットエンタープライズがどのような会社なのか、教えていただけますか?
マーケットエンタープライズの歴史を振り返ると、私が23歳のときに個人事業としてスタートしたのがはじまりです。本当に100万円を握りしめてのスタートでして、ニッチなビジネスを泥臭くやってきました。
エンタープライズという言葉は「冒険」というのが語源としてあるのですが、“市場を冒険的に創出する”という意味合いを込めてマーケットエンタープライズという社名を掲げ、2006年に法人化、はじめは廃棄される乾電池を譲り受けて法人に100本単位で売る「格安電池ドットコム」というニッチな事業からスタートし、徐々にマーケットサイズの大きい領域に軸足をずらして成長をしてきました。
社名に込めた想いの通り、主体的なメンバーで、時代に合った、世の中に必要とされるサービスをつくりたいと常に思っています。
そのため、弊社はリユースを主軸に成長してきましたが、現在は農機具や建設機械、医療機器といった事業者向け、海外向けの商材を積極展開していたり、またメディア事業やリユース業界としては初のMVNOなどを展開しています。
そして設立9年半で上場を果たすことができ、現在グループ全体で北は札幌から南は福岡まで14拠点、21部署、1子会社と多角化を進めながら経営をしている会社です。
―― IT企業にも関わらず、なぜ14もの拠点を構えているのでしょうか?
我々としては自分たちのことをIT企業だともリアル企業だとも思っていないんです。いまの時代、ITを使わない企業はありませんし、一方でリアルな領域を開拓していかないと、大きなマーケットにチャレンジできない。
そのため、IT、リアルどちらの側面においても、ニーズがある限り開拓していくということを基本的なスタイルとして持っています。
そして現在、弊社で運用している買取サイト数は30サイトまで増えましたが、商材を徐々に広げていくと同時に、東京にしかなかった物流拠点を大阪、名古屋、福岡と徐々にエリア展開をしていきました。結果、物流拠点数は今では10にのぼり、より多くのお客様に自社のサービスをお届けするため、今後も積極的に展開をしていくことを考えています。
というのも、リユース事業というのは単品個体管理、すなわち同じ商品でも傷があるないなど、状態によって別物扱いをしなければなりません。そのため、非常に商品管理が難しいんですね。それを外部に委託するのはコストがかかってしまうことはもちろん、新商品がどんどん出てくるこの時代において、スピード感を持って対応していくためには内製化する必要がありました。
また買取という点においても、複数の拠点を持つことでより送料を抑えることができます。そのためより高く、より早い買取という顧客メリットが出せるわけです。
つまり、より地産地消でリユースを完結させることでバリューが出せる、というのが物流拠点10拠点、そしてコンタクトセンター2拠点を含め全国に14拠点を持つ理由です。
―― 農機具や医療機器まで扱うというのは非常に珍しいように思えますが、そういった商材にまで事業を広げる理由はなんでしょうか?
一般の方が思い浮かぶリユースって、リサイクルショップだとかフリマアプリなどで扱われている、”日常の不用品” のイメージが強いと思います。しかし、世界では船や航空機のリユースがあったり、日本で使われなくなった電車が海外で走っていたりと、あらゆるものがリユースされているんです。
いまは大量生産大量消費の時代が終わって、価格を比較して消費する、売ったり買ったりする消費が根付いてきていますし、レンタル、シェアリング含め、消費が多様化している時代。
たとえば個人の方でも、新築マンションよりも中古マンションが売れているという現状や、車を買うときに新車ではなく中古車で十分という方もいると思うのですが、それは農業に従事される方も同じで、馬力があれば中古のトラクターでいいという農家の方がいるわけです。
そういった賢い消費がいろいろなジャンルに広がっている中、弊社は「最適化商社」という言葉を長期的なビジョンとして掲げていまして、商品の最適化、および価値の再定義化を提案する企業として、ITとリアルで最適化を進めていきたい。それが様々な商材を取り扱う理由です。
「2年間は利益を出さず、投資期間にすると宣言」下方修正続きの会社が東証マザーズ株価上昇率ランキング1位になるまで
―― 2019年東証マザーズ株価上昇率ランキング1位となりましたが、2015年の上場以降、順調な成長だったのでしょうか?
世の中の追い風を得て、多くの方の協力があってのもと東証マザーズ上場までに至りましたが、上場初年度の決算は予実通りに進捗しましたが、次の2年間は業績が振るわず、株主の方にも迷惑をかけてしまい、大変苦しい時期が続きました。
あぐらをかいていたつもりはまったくなかったのですが、たとえば3回連続で強盗に入られてしまったり、新しくはじめたモバイルサービスではたくさんの注文が入ったと思ったらデビッドカードの不正利用で商品だけ取られてしまったりと、想定外のことが何個も重なりました。
3回も連続で強盗に入られたら、相当ヘコみますよ(笑)。ちょっとしたことを含め、そういったことが重なってしまい、上場企業の経営者として想定レベルが甘く、もっとスケールするための体制を整えるべきだと痛感しました。
また上場時は1事業だけだったところを、新たにメディア事業や通信事業などをスタートさせるのですが、メディアはすぐに数字に繋がりませんし、通信事業もローンチのタイミングでは多くのメディアに取り上げられたにも関わらず、構造上の欠陥が見つかり、大きな損失を出してしまったのです。
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そういったことが続いた結果、上場2年目からは2期連続で下方修正を発表することになり、またメンバーにも「なんとかしようと思っているから、頑張ろうよ」といったことしか声をかけられないときもあったりと、申し訳なさと不甲斐なさとで葛藤する日々が続きましたね。
―― そこから、どう成長させていったのでしょうか?
まず、投資家の皆さまには、この先2年間は投資期間と位置づけさせていただき、利益を出しませんと発表したんですね。そしてその2年間で、より論理的な戦略を持って、しっかりとした成果を出していくんだという気持ちで進めていきました。
投資をせずにこれまで通りのことをやっていればよかったのでは、というお声もありますが、やはり我々が目指す世界観というのは、”マーケットエンタープライズ”、すなわち最適化商社として市場を創出することです。
そのため、大きく前進するためにも投資期間を設け、既存事業における電子化、マーケティングのオートメーション化など積極的なIT投資や人的投資をしました。同時に、既存事業への投資だけではなく、新たに始めたメディア事業、通信事業をどうにか成功させる必要がありました。
そこでまず、下方修正の発表を連続で出した後に、コーポレートディベロップメントディビジョン(CDD)というチームを設立し、多様な経験を持たれている社外の方を迎え入れて、社内の様々なプロジェクトに参加してもらう取り組みをはじめました。
リクルート、Googleを渡り歩いてきた方、メディアのグロースを得意とする方、また新しい雇用体験の創出を得意とする方など、様々な領域のプロフェッショナルと共にいろいろなパターンを試してきて、とりあえず多くの手数を試すということをしてきました。
当時は「これって本当に意味があるの?」と懐疑的なメンバーがいたのも事実です。また、6拠点あった物流拠点を10拠点へと拡大し、経験者が散り散りになったことで在庫に関する考え方が甘くなり、最終的には減損してしまうこともありました。
しかし、結果的に事業を成功させることができたのは、本当にメンバーの頑張りのおかげ。そういった苦しい時期をメンバーが踏ん張って頑張ってくれたことで、個々が成長し、最終的に成長させるための体制が構築できていきました。
通信事業も大きな赤字を抱えた状態からのスタートで、当時抜擢した若手の担当者は相当苦しかったと思います。しかしその苦しい時期を乗り越えて、いまは子会社化したMEモバイルの代表に就任しました。
その結果、最終的に期中に2度の上方修正を発表、さらにその上方修正を上回る着地に至ることができ、我々が投資期間として位置づけてきた2年間に対する価値を少しは世の中に証明できたのかなと思っています。
過去最高益だった昨期を超え、売上100億円を突破見込み。これからも、世の中に必要とされる最適化商社を目指していく
―― あらためて上場以降の4年間を振り返ってみて、いかがですか?
もともとは「リユースをもっと身近にする」というビジョンを掲げていましたが、創業10周年のタイミングで「最適化商社」というビジョンに変えたんですね。
そして、「これから大きなことを仕掛けていこう」という矢先に、強盗であったり下方修正の発表が続いたりと大変なことが重なり、上場後2年間は本当に苦しかった時期が続きました。
しかし、あの時期を乗り越えたからこそ、いまはより強く、より鮮明にメンバー各々が「最適化商社」への道が見えるようになったと感じています。
―― この先を、どう見据えていますか。
社会のニーズに合った「賢い消費を望む消費者に様々な選択肢」を提供するサービスとしてスタートしたメディア事業や通信事業も、はじめは伸び悩んだものの、いまはどちらも会社の中核を担うほどのサービスに成長してきました。
そして今期、弊社では “BEYOND” というテーマを掲げており、売上100億円の業績予想を発表しております。過去最高益だった昨期をさらに超えていき、3桁億円の売上に突入するわけですが、当然そこがゴールなわけではなく、次はいかに1,000億円を目指していくかが重要です。
世の中に必要とされる最適化商社を目指して、より大きく、より力強く、そしてより深く進めていきながら、より座標軸が遠いところまでにも手を伸ばし、様々な挑戦をしていきたいと考えています。
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