『風の歌を聴け』を再読する
本日の読書感想文は、村上春樹『風の歌を聴け』です。今回久々に読み直してみて、新たな発見がありました。
村上春樹のデビュー作
『風の歌を聴け』は、村上春樹氏(1949/1/12-)のデビュー作です。学生結婚した奥様と東京都国分寺市で、ジャズ喫茶/バーを経営していた村上氏が、小説を書くようになったエピソードはよく知られています。
1978年4月1日、明治神宮野球場でプロ野球開幕戦、ヤクルト×広島を外野席の芝生に寝そべり、ビールを飲みながら観戦中に小説を書くことを思い立つ。それは1回裏、ヤクルトの先頭打者のデイブ・ヒルトンが左中間に二塁打を打った瞬間のことだったという。-Wikipediaより
お店経営の傍ら、店のキッチンテーブルで書き上げたと言われています。
1979年4月に雑誌『群像』に掲載されて注目され、第22回群像新人文学賞を受賞しています。今回は、講談社から1990年に発行された『村上春樹全作品1979~1989<1>』に収録されたバージョンで読み直しました。
おそらく四度目の邂逅
私は、『風の歌を聴け』を、これまでに三回読んでいます。
一度目は、大学1年生だった1987年6月。この時は、講談社文庫版です。フィールド・ホッケー部の東京遠征に持参し、宿舎で読んでいた時、一つ上の先輩(後に私が影響を受ける「本を読まない奴と音楽聴かない奴は、人生二倍損してるぜ」ということばを言われた人)から、「お前、村上春樹を読むのか……」と声をかけられたことを覚えています。
村上作品との出会いは、二作目の『1973年のピンボール』の方が先でした。どちらも薄い本なので、本を読む基礎体力が十分ではなかった当時の私は、取っつき易そうに思えて、手を出しました。
その目論見通り、さらっと読み通せました。不思議な印象の本だなあ…… と思った程度で、内容についての強い印象は残っていません。1987年9月に発売された『ノルウェイの森』が空前の大ヒットとなり、村上春樹氏が一躍国民的人気作家になる直前のことです。
二度目は、大金をはたいて『村上春樹全作品1979~1989<1>』を購入した1990年です。おそらく当時の神戸の下宿で読みましたが、この時も内容には強い印象が残っていません。
三度目は、1999年の年末休暇中、無性に村上作品が読みたくなり、帰省した実家で自室にこもって全作品集を読み続けた時です。
色々な解釈がある本
村上春樹氏は今や世界的大作家となり、世界中にファンや研究者がいます。作家生活の原点となる本作は、多くの研究者やファンによって、様々な観点から研究され、評論され尽くされています。この為、
● 主要人物は「僕」「鼠」「小指のない女の子」「ジェイ」
● 1970年8月8日から8月26日に終わる物語であること
● デレク・ハートフィールドという架空の作家が登場すること
● 「僕」や「鼠」がビールやウイスキーを飲む拠点がジェイズ・バー
といった知識はインプットされていました。
最近『謎解き 村上春樹』を読んで、原文をもう一度読もうと思っていながら、忘れていてこのタイミングになりました。
個人的発見
今回読み返してみて、個人的に新鮮な発見が幾つかありました。
① 火星の井戸のエピソード
架空の作家、デレク・ハートフィールドの「火星の井戸」という架空の作品について解説される〈32章〉が印象に残りました。後の村上作品で重要な役割を果たす井戸が登場していることを私は覚えていませんでした。
火星に残された井戸に下り、横穴を歩き続けて再び地上に出た青年が、実体のない「風」と対話し終えて、静寂の戻った中で拳銃の引き金を引いて自殺する話です。『風の歌を聴け』というタイトルはこのエピソードから取られていると推測します。
西洋占星術では、200年に一度の「風のエレメント」の時代に入ったと言われます。自分との対話が一層重要な時代になったという暗示でしょうか。
② 山羊座
本作の「僕」は12月24日生まれ、「小指のない女の子」は1月10日生まれのともに山羊座です。後に『羊をめぐる冒険』が書かれることを知っているとここにも何かの因果を探してしまいます。
二人の誕生日が暗示しているメッセージがありそうに思えます。
③ 「僕」のガールフレンドたち
本作には「僕」が関係を持った三人の女の子の描写がでてきます。その三人目の女の子、1970年4月4日に自殺した仏文科の彼女と「僕」という設定は、後の『ノルウェイの森』で再登場してきます。
ビーチボーイズのLP『カリフォルニア・ガールズ』を借りた同級生の女の子を辿っていく描写も、「突如として人が失踪する」という村上作品でお馴染みの展開で興味深かったです。
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