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『凱風館日乗』を読む

本日は、内田樹『凱風館日乗』(河出書房出版2024)の読書感想文です。週末プチ旅の移動の合間に挑みました。読了して、今の自分が漠然と考えているようなことを、クリアに表現されているフレーズに次々と出会うことができ、腹落ちするとともに、とても幸せな気持ちに包まれることができた一冊でした。

丁寧に語りかける論客

最近、内田樹氏の著作を読む機会が急激に増えてきました。読む本の選択を、著者の好き/嫌いで判断するのはできるだけ避けたいと思いますが、自分の関心時についてどう考えているのか、耳を傾けたくなる知識人の一人が内田氏です。

決して優しい人ではないし、付き合い易い人でもなさそうな気もしますが、「俺の話を聞け」と独り善がりに自分の主張を捲し立ててくるタイプではなく、できるだけフェアに相手の主張にも耳を傾けた上で、論点を誤魔化さずに丁寧に問題を捌こうとするタイプとお見受けしています。それは、長年武道の修行を続け、教育の現場にも立ち続けてきた結果、後天的に身に付けられた作法のような気もします。

易しくないことを無理にわかりやすくしようとはせず、省略せずに提示してくれる傾向があり、その点で親切だなと感じます。あたりハズレはあるものの、ユーモアのセンスも持ち合わせている吾人です。

はっ、とする思考

本書は、ここ2年くらいの間に執筆して色々な媒体に掲載されたコラムをベースに加筆修正を加えた書のようです。ご自身の専門であるフランスの哲学・思想以外の時事ネタについては、自らの立場をはっきりさせて意見を述べるようにされているせいか斬れ味が鋭く、従って現在の内田氏の考えていることに加え、思考方法の特徴や嗜好も探れるお手軽な書となっています。

短いコラムの寄せ集めなので、気に入った章を選んで読むという読み方も成立しそうです。しかし、編集の力で完全な時系列ではなく、ある程度主張が体系的に並べられているので、最後の最後に以下の文章が挿入されていても得心します。

資本主義というシステムはもう命脈が尽きかけている。今私たちは「資本主義が滅びるのが先か、人類が滅びるのが先か」というところまで追い詰められている。この状況において「資本主義の延命に加担する人間」というのは存在そのものが背理的である。
もうそろそろ人類は相対的な優劣を競い合い、格付けに基づいて資源を傾斜配分するという有害な仕組みを棄てる頃だと私は思う。まだ遅くない。

P211

内田氏は、新自由主義的資本主義や加速主義には懐疑的〜それでは人類が滅んでしまう〜な立場であり、コモンとか、包摂とかの概念を重視しています。

以下などは、確かにそう思います。今はそれをぶち壊す流れの方が優勢になっている気がします。

政治やビジネスは「複雑系」である。わずかな入力変化が巨大な出力差になる。(中略)
けれども、教育や医療や司法や行政などの「社会的共通資本」は「複雑系」ではない。それらの制度は定常的であること、入力の変化があっても動じない硬直性がむしろ優先される。社会的共通資本は生身の人間が生きていく上でなくては済まされないものだからだ。(中略)
だから、政治と市場は社会的共通資本には関与してはならないと久しく教えられてきたのである。

P61

医療や教育は弱者のための制度である。

P91

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