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『コロナ後の世界』を読む❹

本日の読書感想文は、『コロナ後の世界』❹ー認知バイアスが感染症対策を遅らせた by スティーブン・ピンカー(P109-138)です。

【目次】
❶ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』の著者
❷マックス・テグマークス『Life3.0』の著者
❸リンダ・グラットン『ライフ・シフト』の著者
❹スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』の著者
❺スコット・ギャロウェイ『the four GAFA』の著者
❻ポール・クルーグマン ノーベル経済学賞受賞者

スティーブン・ピンカー氏とは

スティーブン・ピンカー(Steven Arthur Pinker, 1954年9月18日 - )氏は、カナダ生まれの心理学者で、ハーバード大学心理学教授。米タイム誌の「世界で最も影響力のある百人」にも選ばれたことがあり、過度なシニシズムに警鐘を鳴らす気鋭の研究者です。

記述内容からの抜粋

✔ 知識と科学が人類の幸福(Well-Being)の長足の進歩をもたらしたのであり、進歩とは自然の摂理ではない。(P112)
✔ 相反する「基準率的思考(Base-rate thinking)」と「指数関数的思考(Exponential thinking)」のうち、新型コロナウイルスは「指数関数的思考」で考える必要があるかもしれない。(ジョージ・メイソン大学のタイラー・コーエン教授の見解の援用)(P112-114)
✔ 感染症拡大は戦争を引き起こさない(P114-115)
✔ 科学技術の進歩によって人類は感染症に対するレジリエンスも向上させたが、「指数関数的思考」の観点に立てば、いかに迅速にかつ強力に感染症対策を実施できるかにかかっている(P115-117)
✔ 新型コロナウイルスの大流行がもたらしたポジティブな側面や教訓があるとすれば…
① 専門的な技能と組織の重要性、健全な諸制度の必要性が見直された
② 国際協力が評価された~国際協力で乗り越えるべき課題の想起
③ パンデミックを防ぐ為のリサーチへの投資が今後増大する(P117-118)
✔ ジャーナリズムの報道姿勢は、「利用可能性バイアス(人は危険が起きる確率を客観的な統計やデータよりも、身近なイメージや、よく聞くストーリーに基づいて判断する)」を刺激するので、理性や科学による進歩を正しく評価することを妨げている。(P120-122)
✔ ネガティブな内容を報道して、人々の行動を促すことが義務だと信じ込んでいるジャーナリストの意識には危険を感じる。正確な事実が軽視され、センセーショナルでネガティブな報道ばかりクローズアップされると信頼を失うし、受け取る側に絶望感・無力感を抱かせ、宿命論、諦めに襲われる。諦めに陥った人は過激派や「私が全て解決する」というカリスマ性のあるリーダーに誘惑されるリスクを持つ。(P122-126)
✔ データを正しく理解できるかどうかと知能の高さは関連しない。知能が高くても偏見があると事実を歪曲して間違った結論を導く。(P127-128)
✔ 我々の認知能力はバイアスの影響をすぐに受ける。新型コロナウイルスの現実的な脅威は、統計やデータよりもシリアスで具体的なケースの方が有効。一度も会ったことがないのに、有名人が感染すると他人事とは思えなくなる。(P128)
✔ インターネット、SNSの定着で、自分がみたい情報しか見えない「フィルターバブル」に入ってしまいがち。自分がバイアスに囚われているということを忘れて、自分とは意見の違う人はバイアスを持っていると思い込む「バイアス・バイアス」に注意が必要。(P128-129)
✔ テロや火事には特殊部隊や消防隊が常備されているのに、それらよりも遥かに殺傷リスクの高いパンデミック対策を行う専門部隊は未整備だった。これも「認知バイアス」の一種と言える(P134)
✔ 「格差」よりも「アンフェアネス(機会の不平等)」の方が重要。(P135-136)
✔ 他人を信用できず、搾取されるような社会的信用性が低い国は、幸福度も低い傾向がある。(P137)
✔ 楽観主義も悲観主義も自己予言的です。ならば、我々は楽観的になるべきでしょう。(P138)

所見

全6章ある本書の中で個人的に一番納得感の大きかったのが、本章のピンカー氏の主張でした。新型コロナウイルス感染症という人類共通の脅威に立ち向かう態度や心構えとして、非常にフェアだと感じました。

原子力エネルギーの位置付け、環境問題への向き合い方、AIの認識、核兵器問題、格差問題など、具体的に見えている課題への認識や対処法で、賛同できない部分はあります。

しかしながら、客観的なデータ・統計から浮かび上がる事実を重視し、自分がバイアスを持った人間なのだと認知した上で判断し、行動を決めていくという考え方には共感します。

最後のことば、「楽観主義も悲観主義も自己予言的です。ならば、我々は楽観的になるべきでしょう。」には同意です。新型コロナウイルスは、人類が乗り越えられる危機だと思うし、得られたデータや統計から教訓を読み取って、知識と科学、制度の進歩に役立たせることが可能だと確信しました。

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