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カクテルビギナーが飲むべき5つのカクテル

今日から8月です。連日蒸し暑い日が続きます。今日は、この暑さに負けないくらい熱くカクテルの魅力を語りたいと思います。

この記事では、カクテル通を目指すカクテル初心者の方に、私がお勧めしたいショートカクテルを5つご紹介します。既にカクテルに詳しい方ならば、途中で「あー、この路線ね」と感じるかもしれませんが、種明かしは最後にさせていただきます。

カクテルの紹介に入る前に簡単にバーとカクテルについて解説を入れさせて頂きます。「よく知ってるよ」という方は飛ばして下さい。

ショットバーについて

ショットバーとは、お酒を一杯単位で提供するお店のことで、お酒に詳しくない人でも気楽に、片肘張らずに楽しんでよい場所です。最低限のマナーは守るべきですが、バーの扉は誰にでも平等に開かれています。堅苦しく構える必要はありません。

カクテルとは

カクテル(Cocktail)は、乱暴に言うと「酒 x α」のこと。ベース(基酒)となるお酒に、他の酒もしくはジュースなどを混ぜて作るアルコール飲料のこと。混酒。(Wikipediaより)

ウイスキーの水割りは、ウイスキーと水を混ぜているので立派なカクテルになります。北京のバーに行った際に確認したら、「カクテル」は、中国語で「鶏尾酒」と表記されていました。そのまんまなのね!と妙に納得した記憶があります。

カクテルの分類方法には色々ありますが、代表的なのは作成技法で区別する方法です。よく知られているのは、シェーカーの中に氷と材料を入れて振ることで材料同士をよい加減に混ぜ合わせるシェイクという技法です。他にもステア、ビルド、ブレンド、フロートといった様々な技法があります。ここに深入りすると本題からはずれてしまうので、今回はこの程度で止めます。

また、ショートカクテル、ロングカクテルという区分もよく使われます。前者は短時間で飲み干すのに適したカクテルグラスでサーブされるもの。後者は、長時間かけて飲む用にソーダやトニックで割り、タンブラーなどで出されるものです。一般にショートカクテルの方がロングカクテルよりもアルコール度数が高め(つまり、強いお酒)です。

カクテルを飲む際の注意点

自分はカクテルに詳しくないから‥と気後れする必要はありません。興味があるカクテル、名前だけは聞いたことがあるカクテル、バーテンダーお奨めのカクテル、昔一度だけ飲んだ懐かしのカクテル、を自由にオーダーして全く問題ありません。味覚やアルコール度数もお願いすれば調整してくれますので、信頼して目の前のバーテンダーにお任せしましょう。

一点だけ注意するとしたら、カクテルが美味し過ぎるからと調子に乗って飲み過ぎてしまわないことです。殆どのカクテルには甘味や酸味が程良く加味されているので、簡単に言うと「美味しい」のです。なので、ついつい杯が進んでしまい、気が付くと飲み過ぎになっている危険があります。

俗に"レディキラーカクテル"と言われる、口当たりが良くて飲み易いのに、矢鱈とアルコール度数の高い危険なカクテルもあります。淑女が、下心のありそうな御仁とご一緒する際はご用心です。古典的な手口ですが、「このカクテルお奨めだから!」などと言葉巧みに勧めてくる場合はご注意下さい。

因みに、今回私がご紹介する5つのカクテルは、シェイクで作るタイプのショートカクテル(60㎖)でアルコール度数は全て高めになります。スタンダードカクテルあるいはクラシックカクテルと呼ばれるもので、どのバーでオーダーしても作ってくれる定番のものばかりです。カクテル通を目指すなら、是非おさえておくことをお奨めします。

その1 ホワイトレディ

私のお奨めショートカクテル、その一番目は『ホワイトレディ』です。中国語を調べてみたところ色々あるようですが、私がしっくり来たのは『白色麗人』です。いいネーミングですねえ。

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【レシピ】ジン30㎖、ホワイトキュラソー15㎖、フレッシュレモンジュース15㎖

カクテルはアメリカに起源を持つものが多いのですが、このカクテルが生まれたのはヨーロッパで、名バーテンダー、ハリー・マッケルホーン氏(アメリカ人)の作と言われています。

白いドレスが似合う清楚な淑女、という名前のイメージにぴったりな白色のカクテルです。薄暗いバーのカウンターでも灯に映える美しいカクテルで、名前もいいので女性にお奨めです。ジンのアルコール、ホワイトキュラソーの甘味、フレッシュレモンジュースの酸味がバランス良くブレンドされ、すっきりと、しかし、しっかりとした味わいが特徴です。

私は、ハードシェークによってしっかりと砕かれた氷の欠片が、カクテルの表面にきらきらと浮いたタイプのものが好みです。

その2 サイドカー

2つ目は、『サイドカー』です。数あるクラシックカクテルの中でも、最高傑作の一つにあげる人も多い人気カクテルです。中国語では『側車』。そのままですね。

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【レシピ】 ブランデー30㎖、ホワイトキュラソー15㎖、フレッシュレモンジュース15㎖

このカクテルも、ハリー・マッケルホーン氏の作品です。ロンドンからパリに渡り、開いた自身の店「ハリーズ・バー・ニューヨーク」で生まれたと言われています。サイドカーとは二輪車の横に取り付けた車台のことです。

カクテル名の由来には諸説あります。交通事故に遭うとサイドカーに乗っていた人の方が運転手よりも大怪我することが大きいことから、見た目以上にアルコール度数が強くパンチの効いたカクテルだからという説、パリがドイツ軍に占領された時代、ナチスの兵士達が傍若無人に乗り回していたサイドカーへの強烈な皮肉を込めたという説、あたりが有力です。

個人的にも大好きなカクテルの一つで、同じバーテンダーが、同じ作法で作っても、三つの材料の微妙な調合の違い、シェイク技術、氷の砕け具合で味わいが大きく変化するので、二度と同じ味わいのサイドカーは飲めません。

バーテンダーの技量が如実に影響するカクテルの一つであり、修業中のバーテンダーが、そのお店のオーナーバーテンダーからサイドカーを作ることを許されると、一人前として認められた証… という話もあります。

尚、この写真は、バリに出張した2014年11月にパリの「ハリーズ・バー・ニューヨーク」で撮影した自前のもので、私の自慢の一枚でもあります。

その3 バラライカ

3番目にご紹介するのは「バラライカ」です。カクテル名はロシアの民族楽器、バラライカに由来します。中国名は『三弦琴』。

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【レシピ】ウォッカ30㎖、ホワイトキュラソー15㎖、フレッシュレモンジュース15㎖

このカクテルも正式レシピで作るとバランスを取るのがとても難しいカクテルです。おそらく、レシピ本通りに作っているバーテンダーはいません。私はベースのウォッカをフレーバードウォッカ ~元々癖のないウォッカに特定のフルーツやハーブで香り付けをして香味のあるタイプにしたもの~ に変えた変則版バラライカを嗜むことが多いです。

ここで使っている写真は、私が愛した横浜関内のBar DayCocktailのバーテンダー、佐藤健太郎氏に2013年に作ってもらった変形の「バラライカ」です。私は、彼にオリジナルレシピに変更を加えて作ってもらいたい場合に、「ツイストして」という頼み方をしていました。

バー用語として使われる「ツイスト」の意味は、レモン・ピール(レモンの皮)のように柑橘類の皮を指先でひねる動きのことです。ツイストさせることで皮表面のオイル成分がカクテルやグラスに降り注ぎ、爽やかな香りを添えたり、味わいを引き締めたりする効果が出ます。

私の言う「ツイストして」はもっとアバウトで、オリジナルレシピを変形していい感じにして、という意味です。

バカルディ・レガシー・カクテルコンペティションという世界的にも権威ある大会の日本チャンピオン(2017年度)に輝くほどの凄腕バーテンダーだった佐藤氏は、今年からシンガポールに活躍の場を移しています。今では気軽に「ツイスト・バラライカ」を味わうことはできなくなってしまいました。私にとってこのバラライカというカクテルは、進化と挑戦を続ける一人のバーテンダーとの思い出が詰まった忘れられないカクテルの一つです。

その4 マルガリータ

4番目にご紹介するのは、『マルガリータ』です。名前だけは聞いたことがある、という方がおられるのではないかと思います。カクテルの王様と言われる「マティーニ」と並んで非常にポピュラーなカクテルです。

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【レシピ】テキーラ30㎖、ホワイトキュラソー15㎖、フレッシュレモンジュース15㎖、塩少々

このカクテルの最大の魅力は、ネーミングだと思います。私はネーミングが魅力的なカクテルが好きなのですが、「マルガリータ」は絶妙にチャーミングで美しいカクテル名です。

マルガリータは、1940年代からロサンゼルスで活躍したバーテンダー、ジャン・デュレッサー氏の若き日の恋人の名前に由来します。狩猟中に流れ弾に当たり、不慮の事故死を遂げた彼女を偲んで創作したと言われています。

ベース酒には個性の強いメキシコ産のテキーラを用い、グラスの縁に塩をまぶすというのは、当時としては斬新過ぎるスタイルであり、革命的発明だったのではないかと思います。

グラスの縁に塩をまぶすタイプのカクテルは、(厳密にはそう呼ばないようなのですが)一般にスノースタイルカクテルと呼ばれます。飲む人が好みに合わせて塩を舐めて、口の中でカクテルと塩味を混ぜ合わせることが出来る。塩もこのカクテルの重要なレシピという訳です。

その5 X. Y. Z.

今回ご紹介する最後、5番目のカクテルは、最後を締め括るにふさわしい名前を持つ「X. Y. Z.(エックス・ワイ・ズィー)」です。

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【レシピ】ホワイトラム30㎖、ホワイトキュラソー15㎖、フレッシュレモンジュース15㎖

カクテル名の由来は正式には不明のようですが、アルファベットの最期の三文字がついていることから、『これ以上良いものがない究極のカクテル』という意味が潜んでいるという説に納得感があります。

2011年にTVドラマ化された『バーテンダー』の中で、嵐の相葉雅紀さん演じる主人公の天才バーテンダー、佐々倉溜が、ミスターパーフェクトと呼ばれた葛原隆一(金子ノブアキ)との最後の決戦で作ったのがこのカクテルでした。何となく神々しい響きのある名前です。

レシピには、あえてホワイトラムと書きましたが、実際には、ホワイトラム、ゴールドラム、ダークラム、どれを使っても成立するカクテルです。また、比率を全て同じ1:1:1にするレシピもあるようです。

ラムは、四大スピリッツ(ジン・ラム・ウォッカ・テキーラ)の中、最も定義が緩いというか曖昧な酒で、原料にサトウキビを使う蒸留酒は何だって『ラム』と名乗れてしまいます。(厳密には区分があるようです)

ラムは定義や規制が厳密ではないので、製造方法も様々で、高級品と粗悪品の差も激しい印象があります。途轍もなく高貴で味わい深く、値段も高いラムがあるかと思えば、これ工業アルコールでしょ、というような酒がラムと名乗っているケースもあります。

そんな緩い性格の酒であるラムの分類方法には、色による分類、香りの強さによる分類、原料別製法による分類などがあって、ホワイト(無色)、ゴールド(薄い褐色)、ダーク(濃い褐色)は、色による分類方法でついている名称です。

ラムには、世界中に熱烈なファンがいます。私の勝手なイメージですが、ラム愛好家は自由と孤独と旅を愛し、個性的な人が多い印象です。X.Y.Z.は、ラム好きの誇りが詰まった、ラムベースの最高峰のカクテルだと思います。

まとめ

以上、私の独断と偏見で、『カクテル初心者が飲むべき5つのショートカクテル』を紹介してきました。ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

既にお気付きの方もいらっしゃると思いますが、今回紹介した5つのカクテルには共通項があります。おわかりでしょうか?

そうです!
ベースに使うお酒はそれぞれ違うものの、他の材料にホワイトキュラソーとフレッシュレモンジュースを使い、3つの材料を組み合わせて出来上がっているカクテルだということです。

上に述べた四大スピリッツ全てにフィットする、ホワイトキュラソー+フレッシュレモンジュースの組み合わせは最高の名脇役だということです。

三つの材料から出来ているカクテルをスリーピースと呼びますが、私はカクテル初心者だった頃、ここに挙げたスリーピースのカクテルを集中的に飲んで、美味いカクテルとはどういうものなのかを徹底的に考えました。

スリーピースのカクテルというのは、レシピがシンプル過ぎて、あまり誤魔化しが効きません。たった三つの材料を使って、最高の形に組み合わせて美味しいカクテルを作るのは、プロであればあるほど、凄腕と言われるバーテンダーであればあるほど難しいと感じながら丁寧に作っています。実際、作り手によってこれら5つのカクテルは、味わいが全然違います。それがバーテンダーの個性だと思うし、そこにバーに通う面白さがあります。

また、カクテルは、飲む側の私たちの状態、その日の体調はどうなのか、これが今日何杯目なのか、ここに来る前の食事で何を食べたのか、誰と一緒なのか、によっても全然味わいが違ってきます。だから、カクテルとの出会いは常に一期一会、真剣勝負になります。カクテルは面白くて深い… 私はそこにハマってしまったという訳です。

更に付け加えると、プロのバーテンダーで、この5つのカクテルを私が書いているレシピ通りに作っている人は誰一人いない、と思います。必ず、その人の工夫や拘りが反映されています。鼻薬的な隠し味を加えている場合もあるし、シェイクの技術を変えている場合もあるし、氷の状態、グラスの状態を工夫している場合もある… その真髄に触れてみたい、という気持ちで毎回カウンターに座ります。これは最近になっての愉しみ方です。

筆を進めるうちに自分の内側から湧き出て来る熱量が大きくなってしまいました。一つの参考にして、カクテルの世界を愉しんで貰えると嬉しいです。

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