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『変われ! 東京』を読む

本日は、隈研吾・清野由美『変われ! 東京 ~自由で、ゆるくて、閉じない都市』の読書感想文です。

隈研吾氏との初遭遇

隈研吾氏は、世界中にその名を知られる建築家です。著書も多数あります。私も名前こそ知っていましたが、これまでに氏の考え方や建築理論には触れたことがなく、本書がファーストタッチのようなものでした。

隈氏は、建築学界でも産業界でも巨匠的立ち位置の大物です。ただ、本書を読むと、非常に現代的な感覚の持ち主で、気さくな人柄の人なのだという感想を持ちました。

権威的なもの、上から目線のものには批判的です。丹下健三氏や磯崎新氏、ル=コルビジェの建築の世界観にも批判的なコメントをしています。

はじめに が最高!

隈氏自身が書かれたという「はじめに」が一番おもしろいと感じました。全文引用したいぐらいです。新型コロナウイルスの出現を受けて世界がどう変わるか、を予言する記事は数多く目にしましたが、隈氏の総括は結構しっくりきました。

☑ 人も都市も本当にひどい目に遭わないと変われない

☑ ペストの流行がルネサンスの到来という流れを生んだ。ペストの温床となった不衛生な街から整然とした閉じた街作りの流れが起きた。教会権威の失墜により数学・科学が重視され、技術が建築に積極的に取り入れられた。

☑ 「効率性」を重視した行動様式である「オオバコモデル」がスタンダードとなった。日本は「オオバコモデル」の最優等生であった。

☑ オオバコシステムは、オフィス空間のみならず、都市のすべての空間のモデルとなった。教育も同じく、生徒を均質なオオバコに詰め込んで、「平等」に授業を供し、それとは矛盾する競争に駆り立てることが効率的とされた。そこで育った子どもたちは、そのまま企業というオオバコに詰め込まれ、同じように激しく競争させられて、ある年齢に達したり、「効率」が落ちてきたりすると、オオバコから放り出された。そのシステムが人間に強いるストレスに対しても、効率性の名のもとに、目がつぶられ続けた。(P13-14)

☑ 建築業界の「サムライ化」が日本低迷の問題… 平和な江戸時代に無用な長物と化した武士集団を温存したように、マッチョな建築業界を保護・優遇し続けた結果、オオバコシステムからの卒業が遅れた。

☑ コロナ後の都市のテーマは、「衛生」ではなく「自由」である。(P16)

☑ 時代から取り残され、必要とされなくなった社会集団は、新しい現実を理解できないままに、自分たちの美学を日本刀のように磨き上げ、内側の倫理観を人に押し付けて、ふんぞり返る。倫理というのは、しばしばそのような目的で使われる。(P16)

東京が変わることを期待している

隈氏がサラリーマンを以下のように定義しています。辛辣かつ秀逸です。

集団の存続が第一目標で、その目的を忖度して個人の決定を行う人たち

隈氏は1991年に手掛けた「M2ビル」が不評で、1990年代は東京から放逐されて過ごした、と回想されています。後知恵的ですが、1990年代の東京に生まれた建築物は、当時の最先端ではあったのでしょうが、今見ると無機質で前時代的なものが多いように私は感じます。

2000年代、私は仕事の関係で海外の街を歩く機会も多かったです。その頃は、各都市の変質が盛んな時期で、上海なんかは行く度に景観が劇的に変化していてとても面白く感じました。

その感覚で日本に戻るたびに、バブル景気の後遺症に苦しむ東京の変わらなさをツマラナイと感じていました。実際には、この頃から水面下で進行していたプロジェクトも多かったようですが、私は東京がどんどんビハインドしていると感じていました。ただ、2010年代以降はちょっと様相が変化している感もあります。

隈氏も清野氏も最近の東京の景観の変化には前向きな期待をしているように感じられました。都市再開発が進んでいるタワー型の渋谷とスクエア型の池袋の項も興味深く読みました。

2020年の東京五輪は延期となったものの、新型コロナウイルスがもたらした変化も加わり、これから都市の変貌を目撃できるのはちょっと楽しみです。

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