『丁寧に考える新型コロナ』を読む
新型コロナウイルス感染症については、まだまだ知らないことやわからないことばかりです。上っ面を追い掛けるだけでは中途半端な知識で凝り固まってしまいます。その態度では、広汎かつ網羅的な理解はできないだろうと思うので、定期的かつ自主的に知識をアップデートしていこうと努力しています。
最近読んで頭の整理になったと感じたのは、岩田健太郎『丁寧に考える新型コロナ』(集英社新書)です。
2020年10月に出た本(内容はそれ以前の2020年7月頃の情報がベース)なので、現在実施されている二回目の緊急事態宣言は反映されていません。岩田先生は、感染症の専門家です。予防ワクチンの実用化に至っていない現段階で、感染症の防御、感染症流行の抑止には「感染経路の遮断」がほぼ唯一の施策であり、マスク着用もソーシャルディスタンスもステイホームもロックダウンも感染経路の遮断という目的を実現する為の手段に過ぎない、と基本原則を丁寧に何度も繰り返されます。
一回目の緊急事態宣言(2020/4/7~)に対しては、当時の安倍首相が「8割削減で2週間」という具体的な数値目標を出したことを評価しつつも、「罰則規定はないが、実質的なロックダウンである」とはっきり言わなかったことに失望されたようです。岩田先生は、『ロックダウン』とは、
● ロックダウン対象地域への内外からの人の出入りを禁じる。
● 対象地域内での人の外出を禁じる。
ことであり、「罰則規定の有無」は決め手ではないと考えています。
その上で以下の評価をしています。
①宣言を出すのが遅すぎた…政府内の手続きの問題も一因
②範囲が広すぎた…流行の強い地域限定で、経済ダメージは抑制できた
③宣言解除が遅すぎた…①及び『ロックダウン』の不徹底
本書で学べたのは、感染症の知識以上に、先生の考え方や提示されている情報にどう向き合うかという姿勢です。先生は、厚生労働省を含む政府や一部マスコミの、事実や結果よりも「一生懸命やっている空気感」を重視する姿勢に対して批判的です。
発言の一部を曲解して切り取られたり、事実とは異なるフェイクやデマを流されて苦しんだ自身の経験も踏まえて、短絡的な「分かりやすさ」を求めてしまう風潮にも警鐘を鳴らされています。
断言口調で、ワンフレーズで結論めいたものだけをメッセージっぽく伝えても、それは「分かりやすい」のではなく、「分かったっぽい気分になる」だけです。(P17)
大事なのは「イワタが言いたいこと」であり、「イワタが言っていたこと(のように思えること)」ではありません。(P28)
本書で岩田先生が何度も強調されるのは、「状況の判断」が大切だということです。マスクは必要か/必要でないか、緊急事態宣言は必要か/必要でないか、といった条件や状況を無視した極端な問いの立て方の方がおかしい、よく考えて何度も反芻しないとわかりにくいことをわかった気分で終わらせないよう、「丁寧に」説明されようとしていることに好感を持ちます。
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