あの頃好きだった曲❹…DOWN TOWN
『あの頃好きだった曲』の第四回目は、『DOWN TOWN』を取り上げてみます。
シティ・ポップスの歴史に燦然と輝く名曲
『DOWN TOWN』のオリジナルは、山下達郎(1953/2/4-)や大貫妙子(1953/11/28- )が在籍したシュガー・ベイブ(SUGAR BABE)が1975年4月に発売した楽曲です。作詞・作曲は、山下達郎と伊藤銀次(1950/12/24-)の共同制作で、プロデューサーは、山下達郎と大瀧詠一(1948/7/21-2013/12/30)が務めています。
当時の日本を代表するハイセンスで知的なアーティスト達が集まり、コラボすることで作られたと言われ、シティ・ポップスという音楽ジャンルを日本に根付かせた一曲という評価もあります。『日本音楽史に燦然と輝く名曲』であり、雑誌『レコード・コレクターズ』2020年6月号の特集「シティ・ポップの名曲ベスト100 1973-1979」では堂々の1位に選出されています。
『オレたちひょうきん族』のエンディングテーマ
ただ、この楽曲についての私の思い出は、1980年発売のEPO(1960/5/12-)が唄うカバー・バージョンの方です。もっと正確に言うと、土曜日の夜8時にフジテレビ系列で放送されていた『オレたちひょうきん族』のエンディングテーマ曲としてです。番組でこの曲が使われていたのは、1981年5月から1982年9月までの約1年半と短かったものの、その印象は強烈です。
私が中学1年生だった1981年5月に始まり、大学3年生だった1989年10月まで放送された『オレたちひょうきん族』は、1980年代の空気を象徴する番組だったと思っています。
土曜日の午前中まで、仕事や学校があるのが社会標準だった1980年代前半、多くの人にとって土曜日の夜は、一週間の会社勤めや学校通いを終え、「明日は休みだ!」と解放感に包まれる時間でした。ひょうきん族は、ようやく兜を脱いでリラックスできる夜の娯楽の一つとして、多くの人が楽しみにしていた番組で、エンディングに流れる『DOWN TOWN』はその空気感にぴったりな曲だったと思うのです。
『オレたちひょうきん族』がはじまるまでの土曜日夜8時には、TBS系列の『8時だョ!全員集合』という怪物番組が君臨していました。番組を観ていないと友人同士の会話に入れない、という現象が日本中の学校で起こり、社会問題化していたほどのお化け番組で、私も幼稚園~小学生時代は夢中で観ていました。
そこへ殴り込みをかけてきたのが、ひょうきん族でした。徹底的に作り込まれたドタバタコントのライブ感とベタな笑いで勝負する全員集合に対し、ライトなシュールさとアドリブやパロディを大切にするひょうきん族は、笑いの方向性が対照的でした。おそらくは、狙っている視聴者も違いました。
それはエンディングの演出に象徴的です。全員集合は、ドリフターズのヒット曲「いい湯だな」の替え歌の「ドリフのビバノン音頭」で、出演者全員が登場してのほんわかムードのこども向けだったのに対し、ひょうきん族は、ハイセンスなシティポップスで、これから深まる夜に向けておしゃれなイメージを駆り立てる大人向けでした。
『老舗の全員集合 vs 新興のひょうきん族』の視聴率争いは、ひょうきん族に軍配が上がり、全員集合は1985年に放送終了に追い込まれます。この結果には、時代の波を捉えたエンディングの演出の方向性の違いも一役買ったのではないか、というのが私の見解です。
『DOWN TOWN』には、都会で働く若い男女に、「番組終了後の21:00からは、あなたが羽を伸ばす時間ですよ。さあ街へ出て下さい!」と背中を強く押す効果があったのではないでしょうか。
土曜日の楽しい夜の妄想を盛り上げた曲
思えば、中学生になったばかりの私は、この楽曲の歌詞が描き出す洗練された都会の街のイメージに強く魅了されていました。
『土曜日の夜』『ダウンタウン』ということばには、ゾクゾク、ワクワクさせる淫靡な響きがありました。「大人になったら、土曜日の夜にダウンタウンへくり出すぞ」とまだ見ぬ眩しい未来を妄想していた気がします。
未来を信じて
1980年代後半になると、週休二日制を導入する企業も増え、土曜日の夜は、金曜日の夜にその座を譲り、「花金」なることばが生まれます。娯楽や愉楽に対する国民的一体感が感じられたのは、せいぜい1990年代半ばくらいまででしょう。価値観の多様化が広がり、相互の分断が進んだ今では、国民大衆に一体感を作り出すような楽曲は簡単には生まれません。
自民党の新総裁は、岸田文雄氏に決まり、今日で緊急事態宣言とまん延防止等重点措置も解除となります。
と、すぐにはならないのでしょうが、"ダウンタウンへくり出そう"と明るく言える未来がまたやって来るといいな、と思います。
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