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『徳川家康 弱者の戦略』を読む

本日は、磯田道史『徳川家康 弱者の戦略』(文春新書2023)の読書感想文です。

才人・磯田道史氏の著書

私は、本書の著者である歴史学者、磯田道史氏の長年のファンであり、その著書の多くを読んできました。その磯田氏の最新刊が徳川家康の解説本であることに少々意外な印象を受けました。結論から言うと、大変面白い一冊で買ったことすら忘れていたにもかかわらず、今夜一気に読み終えることができました。歴史好きの人にはもちろん、将来の「天下取り」「成功者」を狙う野心満々のビジネスマンにもおススメの一冊です。

苦手の徳川家康本だが…

私は、徳川家康という人物には苦手意識があります。その波乱万丈の生き様や、複雑な人間性や、成し遂げた偉業を知っても、心の底からは惹かれない偉人の代表格です。現在NHKで放映中の大河ドラマ「どうする家康」にも食指が動かず、これまで一度も観ておりません。

ところが、磯田氏の筆力はさすがで、すっかり楽しく読み進めることができました。子どもの頃から馴れ親しんできている、”桶狭間の戦い”、”三方ヶ原の戦い”、”長篠の合戦”のストーリーは、ほぼほぼ史実に反していることを知って、軽い驚きがありましたし、そもそも伝承されている天文十一年(寅年)ではなく、天文十二年(卯年)生まれなのではないか、という議論があることも知れて面白かったです。

歴史家の語るわかりやすい歴史書の価値

繰り返しになりますが、毎度感心するのは、磯田氏の文章構成能力の素晴らしさです。ご本人も書いていますが、歴史研究者の文章は読みづらいものが多く、史料に記述された内容を極端に重視する史料偏重が目立ち、どう考えても筋が通らないだろうという説に固執したり、逆に強引過ぎる論旨になったり、読み物として成立していなかったりします。

磯田氏は、一般的な知識しか持っていないような読者でも、歴史の世界に自然に引き込んで、深く楽しませることのできる稀有な存在なのではないかという気がします。私は「わかりやすい」を重視する風潮については、異論がありますが、磯田氏の押し付けがましい記述は抑え、強引で派手な表現を控えつつ、飄々と軽快に筆を進めていく技は好印象です。その文章術について、学びたいと考えている学識人の一人です。

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