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読書日記*『ツバキ文具店』小川糸さんは”おいしい”

読み終えたとき、おいしいものを完食した気分になる本。
小川糸さんの物語は、すべての作品が”おいしい”

『ツバキ文具店』は鎌倉を舞台に文具店と代筆屋を営むポッポちゃんが、バーバラ婦人や男爵やパンティーやQPちゃんと泣いたり笑ったりする物語。
手紙の代筆の仕事、人とのこと、そしておいしいものたちがいきいきと描かれる。

夏はそうめんや海でタイ料理。
秋は鰻と生ハムとシェリー酒。
冬は七草粥や京番茶や祖母の手紙を読んで涙を飲み込むように食べる白菜と葱の春巻き。
春はお花見で持ち寄りパーティ。

鳥一さんのコロッケや焼き鳥、萩原精肉店のローストビーフ、ベルフェルドのソーセージなど懐かしい顔ぶれの他、しめ鯖や鯵寿司、釜揚げシラスなどの海の幸も豊富だ。デザートには、これまた鎌倉に馴染みのある麩帆の麩饅頭や、松花堂のあがり羊羹がある。
(P309)

もう、食べるだけのために鎌倉に行きたい。

春苦み、夏は酢の物、秋辛み、冬は油と心して食え

台所に先代こと祖母が書いた張り紙。
ポッポちゃんが同じ標語を書いてみるシーンがいやに心に残った。

ふと、先代と同じ言葉を書いてみたくなったのである。
最後の一文字を書き終え、空中浮遊するUFOのようにふわりと筆を持ち上げる。その瞬間、体の中に新しい息が流れ込んでくる。確かに、ほんの一瞬だけど心は無になっていた。
でもやっぱり違う。字の下に伸びる影の濃さというか、密度というか、存在感というか。とにかく、何かが決定的に違うのだ。でも、今はこれが現実である。
(P175)

ポッポちゃんはポッポちゃんでいてもいいことを、まわりの人に教えてもらっているような気がする。わたしも誰かを目指してみたいと思ってもそもそもその願いは根本から違うことに気が付いて愕然としたことがある。
わたしはわたし。
真似はできるけどその人の思想や作品は、その人だけのもの。

そして手紙を代筆すること。
それはその人に”憑依”するって言葉にしてあったけど、結局はポッポちゃんの言葉をその人の気もちになって書けるから、いい手紙になるんだろう。

絶縁状の依頼…わたしだったらどんな手紙を書くだろうか。
ポッポちゃんが書いた手紙は鏡文字で感謝の気もちとともに相手を自由にすると書いてあった。

大切な人への想いは当人では言葉にすることが難しくて怖いこと。
ポッポちゃんが先代である祖母に書いた手紙を読んでわたしは大泣きした。

**

小川糸さんの作品は『あつあつを召し上がれ』『食堂かたつむり』『にじいろガーデン』もたまらなく”おいしい”
小川糸さんは山田詠美さまに並ぶグルメ女王だとわたしは密かに思っています。

あ、それからページの左下にあるパラパラ漫画がうれしくて、ついぱらぱらしたことも追記しておきます。

付録:ほかにもわたしの飯テロ小説をいくつか。
◆『さんかく』千早茜
◆『麦本三歩の好きなもの』住野よる
◆『吉祥寺デイズ』山田詠美(これはエッセイ)



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