読後10日で「目の見えない白鳥さんとアートを見に行けた」奇跡!
川内有緒さんの本が好きだ。
それは一緒に旅している気持ちになれるから。
今回はバスの旅らしい。
ふたつの美術館でガイドボランティアをしている私は有緒さんの新作が「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」と知り、心が踊った。
「今度はアート鑑賞らしい。それも目の見えない人と。これは、もしかしたら、長年のモヤモヤが晴れる糸口になるかも!」
モヤモヤの原因は、今から15年ほど前、F美術館の初任者研修でのこと。
私の所属するF美術館は「対話型鑑賞」を行っている。その日の講師は全盲の方で開口一番こう言った。
「私は美術館に行くのが好きなんです」と。
「え?目が見えないのになぜ…?彫刻とかを触って楽しむんたろうか?」
でも、その方は触る鑑賞ではないと言う。
そして、ミロの絵を前に
「どんな絵か教えて下さい」
と言いながらにこやかに立っている。
中途失明のその方に、まるで見えているかのように再現することが大事だと思った私は、苦戦したもののミロの抽象画をうまく再現することはできなかった。
そして、何より
「あれでよかったんだろうか?あの方は楽しんでもらえたのだろうか?」
というモヤモヤがずーっと後悔として残った。
そして、9月上旬に届いた「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」
本を開いたとたん、その奇跡は始まった。
奇跡 その①「そうか、見えるみたいに再現することが大事じゃなかったんだ!」
「白鳥さんと見ると楽しいよ!」
と友人のマイティさんに誘われて美術館に出かける有緒さん。
私も同じバスに乗ってみよう。
ページをめくるとバスが加速する。
「有緒さん、はじめて全盲の人と見ることへのとまどいが、私と同じだ。」
「行ったことがある展覧会や知っているアーティストがいてイメージしやすいな」
「んん?白鳥さんは正確な解説や再現は求めていない?そうか、見えるみたいに再現することがすることが大事じゃなかったんだ!白鳥さんはみんなの会話でアートを楽しんでるんだ!」
どうやら、15年前の全盲の方は記録を掘り起こしたところ白鳥さんの鑑賞法を知っている方だったようだった。中途失明の方の中には正確な再現を望む方もいるかもしれないが、きっとその方は再現に困った私の説明もそれなりには楽しめたのかもしれない。
うーん、15年のモヤモヤが晴れてきた!
さらにバスは進む。
「そうそう、ボランティア研修でアート作品を前に『何が見えますか?』って聞かれると、みんなあれこれ言って、作品は人によって見え方が違うんだな、とは思っていたけど、その違いは知識や経験というフィルターを通すから違って見えていたのかな」
美術館の学芸員でさえ、白鳥さんとじっくり作品を見ることで、見慣れた作品の見えていなかったところが見えてくるという。
「私も白鳥さんと見てみたい!見えなかったものが見えるのも体験したい!それに、なんだか有緒さんやマイティさん、白鳥さん、それに次々バスに乗り込む人たちはなんだかとっても楽しそう。」
奇跡その②「目の見えない白鳥さんとアートを見に行けた!」
読み終わらないうちに我慢が出来なくなって、バスを途中下車。
F美術館の教育普及の学芸員数名にメールして
「対話型鑑賞の参考になるすごい新刊本がありますよー!」
と伝えた。(公立図書館の司書でもある私はいい本があると誰かに勧めたくなってしまう)
すると、学芸員から私の所属するもうひとつのA美術館で白鳥さんのワークショップがあり、ドキュメンタリー映画の「白い鳥」上映があるという情報を得ることができた!
(コロナ禍で美術館の活動が制限されていて不覚にも知らなかったのだ)
「うーん、なんというタイミング!これは逃すまい!」
申し込みにもギリギリで間に合い、抽選待ちで祈るような日々の中、本屋さん主催のオンライントークも視聴した。ゲストは白鳥さんと有緒さん。
そして緊急事態宣言が明けた直後にその日はやってきた。
すでに本を読み、オンライントークも視聴したので、初対面とは思えない。
「白鳥さん、ほんとに背筋がピンとしていてやさしそう。マイティさん、本の中と同じ!奈良美智のおかっぱの女の子に似てるかも!(あっ、もちろん、まっすぐ前を見る瞳のきれいな女の子の方で、目つきのわるい?方じゃない。)」
ワークショップはファシリテーターのマイティさんと白鳥さん、参加者が8名。時間は2時間半。(F美術館の対話型鑑賞は40分なので、かなり長い!)
A美術館はアジアの近現代美術を所蔵する美術館だが、開館以来20年以上も活動してきているので作品も馴染みのあるものばかり。
ここでのガイドはおしゃべりしながらだけど、どちらかと言うと解説型の案内だ。
「知っている作品のことを初めて見たかのように話せるんだろうか?」
心配は1作品目から吹き飛んだ。
作品の知識はあった。
でも、知っているはずの作品は見えていないところだらけだった。
白鳥さんは多くは語らないのに絶妙なタイミングで合いの手のように質問をしてくれる。
「それはどんな色なの?」
「それは、どんな感じなの?」
参加者のおしゃべりは止まらない。
誰かの言葉で違う見方ができる。
誰も人の言葉を否定しない。
私の言葉も誰かが拡げてくれる。
おもしろい!楽しい!
2時間半はあっという間だった。
どの作品も知識はあったけど、いかに見えてなかったかということに驚いた。でも、見えていなかったことを悔いるというより、ものすごく得した気持ちにもなった。参加者同士の妙な連帯感も生まれた気がする。
「白鳥さんと見ると、なんでこんなに楽しくてしあわせな気持ちになるんだろう?思ったことをアウトプットするのが楽しいから?認めてもらえるから?」
白鳥さんと一緒にアートを見た!
白鳥さんはニコニコしながら私たちのハチャメチャトークを聞いていた。
ときどき簡単な質問をしてくれた。
その言葉でじっくり見ていたらいろんなものが見えてきた。
その場にはないものまで。
白鳥さんをアテンドした。歩くのがとても速くて驚いた。
みんなで時間を共有できたことがとてもしあわせだった。
奇跡③映画「白い鳥」上映会。アフタートークには川内有緒さんも!
ワークショップの翌日には、映画「白い鳥」の上映会とアフタートークもあった。
なんといっても有緒さんと映像作家の三好大輔さんが制作したドキュメンタリー映画なので本のなかで気になっていたことや人々が出てきてとても良かった。
本には個性的な人々が登場するのだが、「実際にどんな風貌なのかな?どんな風に話したんだろう?」という想像が映像でわかるのは新鮮だった。
みんなの言葉が深くて愛のある言葉で、とてもいい。本人が語るのがまたいい。
(その中でも一番気になっていたドレッドヘアのホシノさんが登場したのが嬉しかった。彼の言葉が心に響いた。)
映像も工夫がいっぱいで、耳で聞いたイメージで描かれたイラストと実際の作品の対比も面白かった。
映画もしあわせな気持ちにさせてくれたし、いろいろ考えるきっかけになった。
本と映画、相乗効果でどちらから入ってもいいのかもしれない
質問コーナーで、有緒さんの著書のファンとしては、次はどんな旅に連れて行ってくれるのかとの期待も込め、つい
「映画も素晴らしかったけど、(本の執筆だけではなく)このまま映像作品を作っていくのか?」
と聞いてしまったが、制作中の劇場版「白い鳥」も楽しみなので、本の次回作はゆっくり楽しみに待ちたいと思った。
奇跡④「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」という本に出会えた!
再びバスに乗り込み、本を読み終えたのはワークショップの10日ほど前だった。
最初は全盲の人がいかにアートを楽しむのかというところに興味があって読み始めたが、白鳥さんを通していろいろなことを見ると、アートだけではなく、様々なことが見えてきた。
今の日本は全盲の人をはじめや障害のひとが生きやすいんだろうか?
人が死ぬということは?
しあわせに生きるってどういうことなのか?
文字にすると深くて重たいテーマのような気がするが、この本では無理なく自然に一緒にバスに乗りながら考えることが出来る。
それは、白鳥さんを通して有緒さんが自然体でなんの誇張もなく、思ったことを綴っているからだと思う。
(白鳥さん・マイティさん・有緒さんがあまりに本の通りで、実際に会っても何の違和感もなかったことも驚きだった)
私の勤務する図書館でも「目の見えない白鳥さんとアートを見に行く」は予約がいっぱい入っている。(嬉しい悲鳴だ!)
でも、司書としてはこんなことを言うのも何なのだが、この本は買って手元に置いた方がいい。
装丁が凝っていて表紙の裏にも秘密がある。
図書館はブッカー(ビニールシート)がかかっていて裏は見えないから。
それに、この本を私は何度も読み返すだろう。
なので、手放せない。
ワークショップの前と後とでは私の中で読後感が違っていたし、今はコロナで中断しているガイドボランティアの活動が再開したらこのしあわせな鑑賞を少しでも誰かに届けたい。そう、バーチャル白鳥さんとともに。
私の中でいろんな奇跡があったけど、一番の奇跡は「目のみえない白鳥さんとアートを見にいく」という本に出会えたことかもしれない。
有緒さんからいただいたサイン
「Bon Voyage!(よい旅を!)」
って書かれている。
あ!バスがでる!
「ブッブッー!発車オーライ!」
「待って待って!私も乗せて!」
ページを開くとこの本はいつでもだれでも乗せくれる。
*noteはじめます*
オンライントークで「白鳥さんの写真作品をnoteで見ることが出来る」と聞いてnoteをのぞいて見た。そうしたら、ちょうど「読書の秋2021」の課題図書に「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」があるではないか!誰かに「この本読んでみて!」と伝えたかったので、初投稿。
これを機会にときどき投稿しようかな。
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