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📖#2 天皇に身も心もお仕えした乙女の打ち明け話『讃岐典侍日記』

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今から900年くらい前の平安時代末期、当時の天皇に身も心もお仕えした藤原長子ちゃんが語る打ち明け話とは!?


5月(旧暦6月)の梅雨空の下、私は実家で、とくに用事のない、静かな日々を送っておりました。
さびしいので外の景色を眺めていましたら、空は私の心を分かってくれているかのように雲がかっています。

堀河帝にお仕えしていました頃は、春の花、秋の紅葉、月の明るい空、雪が降った朝を観るとき、私はいつも帝のお側におりました。
帝にお仕えした8年間は、本当に素晴らしいことばかりでした。

その日々を思い出して、日記に書いてみようと思うのですが、すずりに涙が落ちて、書く文字も流れていってしまいそうです。

日記は6月(旧暦5月)の梅雨どき、お仕事を引退して、実家に戻っている長子ちゃんが、亡き堀河帝にお仕えしていた頃を思い出すところから始まります。

みかどとの思い出を書き留めておこうと筆を持ちますが、次から次へと涙があふれて、悲しい気持ちは増すばかり。

初っ端から、帝はすでにいません。
この日記は長子ちゃんの回顧録かいころく(思い出日記)なのです。


1107年6月20日のことでした。
みかどはご気分が優れないご様子で、

みかど「こういうのを普通は病気と言うんだよね。どうしてみんなは私を心配してくれないのかな」

とおっしゃって、世の中のことを恨めしくお思いでした。
今思えば、重症になってしまわれる前に、ご祈祷をして、もっと早くご譲位出来たらよかったのにと思いますが、そのころの私には、どうにもできないことでした。

「国で一番尊い方が病気なのに、なんで誰も心配してくれないの?」というと、堀河帝の持病は何年も続いていて、重症→回復→重症を繰り返していたからです。

当時の人の日記『中右記ちゅうゆうき』(作者:藤原宗忠)によると、堀河帝は14歳から毎年何回も体調不良でした。
27歳からは、こんな感じ。

  • 27歳:1月・3月・4月・7月・8月・9月・10月

  • 28歳:1月・2月・3月・5月・6月・7月・9月・10月

  • 29歳:3月・5月

そうして、長子ちゃんが思い出した6月20日につながります。

ほぼ毎月体調不良じゃないですか!
体調不良じゃない月の方が少ない!

いやいやいや! みかど
これは「はいはい。いつものやつね」と思われても仕方がないですって!
長子ちゃんは優しいから心配してくれてますけどね!

ちなみに、この『中右記ちゅうゆうき』は当時の政治のことが細かく書いてある貴族日記です。
この日記に、長子ちゃんのお名前が本名でちゃんと書かれていたので、後世に『讃岐典侍日記』の作者が「藤原長子」だって分かりました。
藤原宗忠さん、グッジョブ!


7月6日からみかどのご病状が悪化し、皆が心配します。

みかどの看病のために、もっと人手が欲しいのですが、お仕えしているのは私を含めて、たった3人です。
他の上級女房にょうぼうたちは、産休だったり、お母様の喪中だったり、実家にこもっていて、ここ2、3年ほど宮中に出仕出来ておりません。

今回ばかりは、さすがに、みんな心配してくれました。よかった、よかった。

帝が病気で苦しんでいるのに、お傍でお仕えしてるのは、長子ちゃん含めて、たったの3人!!

おいおいおい! 帝は国のトップですよ!? ありえないでしょ!!

他の上級女房にょうぼう(宮中にお仕えしているエリート女性)たちは、2~3年休職中。

産休と喪中は仕方ないとして、実家にこもってるやつ、出てこーい!

天皇に仕えるなんて、とんでもなく雅でセレブなお仕事なのに何が嫌なの?
お給料いいんじゃないの!?

この国のトップが今度こそ重症なんだから出勤しなさいよ。


日が暮れて、みかどはますます苦しそうなご様子なので、私は白河院(堀河帝の父)にみかどのご様子を申し伝えました。

長子「院は驚かれまして、近いところでみかどのご様子を聞こうとおっしゃって、お隣のお屋敷までいらっしゃいました」

と、私はみかどにお伝えしました。

灯りを普段よりも近くに寄せて明るくして看病していると、みかどは意識を失ってしまわれました。
「ああ、大変!」と泣きさわいで、大変なことになりました。

帝のお父さんである白河院が、心配して来てくれました。
道を挟んだお隣のお屋敷に。

え? なんでお隣の屋敷に?

その理由は日記に書かれていないのですが、「天皇は清らかであることが大事なので、ケガレ(死など)を避けなければいけない」という考えがあったので、白河院はお隣のお屋敷だったのかも?

ちなみに、この時代、天皇はたとえ妻や子であっても、死に際もお葬式も参加出来ませんでした。

白河院はこんなに心配してくれているというのに、堀河帝の側近ときたら……。

続きます。


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