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📖#1 天皇に身も心もお仕えした乙女の打ち明け話『讃岐典侍日記』

皆様、こんにちは。
ごきげんいかがですか。
マリナデシコです。

皆様には、好きで好きで、いつまでも忘れられない方はいらっしゃいますか?

私は「いつまでも、あの人が忘れられない!」と思えるほどに激しい恋を経験したことがないので、別れてもずっと好きでい続けられる恋を経験された方が羨ましいです。いいなー。

素敵な恋愛をしたら、ただでさえ、恋人を忘れるのが難しいのに、その恋人がこの国の最高権力者だった場合は、どうでしょうか?

しかも、彼には立派な奥様がたくさんいて、自分とは身分違い。
絶対に結婚できないし、独占も出来ません。

でも、どの奥様たちよりも、自分が一番お側で昼も夜もお仕えして、文字通り身も心も彼に捧げているとしたら──
彼も身分が低い自分のことを、とても大切にしてくれて相思相愛だったなら──

忘れるなんて、絶対に出来ないですよね!?

「そんなドラマみたいなことがあるわけない」と思ってしまいますが、900年前の平安時代末期に実在していたことが分かる日記があります。

その日記の名前は讃岐典侍日記さぬきのすけにっき

作者は藤原長子ちゃん。
29歳の若さで亡くなった堀河天皇(1079~1107)に、誠心誠意お仕えした中流貴族女性です。

こちらの日記、『蜻蛉日記かげろうにっき』や『和泉式部日記』『更級日記さらしなにっき』と比べたらマイナーですが、他の日記よりもすごいところは、天皇(みかど)が登場するところ!

しかも、天皇が発したお言葉や、どのように行動されたかまでも、細かく書き留めてあるのです!

『蜻蛉日記』『更級日記』では天皇は雲の上の存在なので登場しませんし、『和泉式部日記』は天皇の息子たちが登場しましたが、天皇は登場していません。

天皇のお世話係だった長子ちゃんだからこそ書けた珍しい日記なのです!

有名じゃないからと読まないのは、もったいない!
貴族ファーストの平安時代で、もっとも高貴で尊い存在とされた天皇が、心を許した者にだけみせる本音を知れるのは、この日記だけだと思います!

藤原長子ふじわらのながこちゃんのプロフィール

まずは、作者である長子ちゃんのプロフィールをご紹介。

  • お名前:藤原長子ふじわらのながこ(または、「ふじわらのちょうし」)

  • お仕事:天皇のお側でお仕えする「典侍ないしのすけ

  • 22歳~29歳まで、堀河天皇にお仕えした

  • 堀河天皇とは同世代?

  • お父さんが51歳のときの末っ子。お母さんは不明(正妻ではないかも?)

  • 藤原道長と同じ父をもつ藤原道綱みちつなのひ孫

  • 堀河天皇が病気で亡くなってから2年後に日記を執筆

長子ちゃんは、藤原道綱のひ孫です。
「藤原道綱って誰?」といいますと、『蜻蛉日記かげろうにっき』の作者の息子。

そう。長子ちゃんは、あのぽややんとした察しの悪いおぼっちゃんのひ孫なんです!

道綱自身は、美人で賢いお母さんから「この子、頼りなくて大丈夫かしら」と心配され、腹違いの兄弟からは「あいつ、バカだな」と見下されましたが、子孫は千年先も伝わる文学作品を書いていました。
道綱だけ特別に出来が悪かったのかな?

▼『蜻蛉日記かげろうにっき』についてはコチラをご覧あれ


堀河天皇と長子ちゃんは、身分の差はありますが、お互いに愛し合っていたようです。

それというのも、日記には、堀河天皇が長子ちゃんにだけ見せてくれる愛情のこもった本音が、たびたび出てきます。

おおやけであることを強制され、プライベートはほとんどない最高に高貴な彼が、常に側にいて自分のお世話をしてくれる同い年の彼女にだけは、心を許して愛してくれる。

なんとも、キュンキュンくるシチュエーションじゃないですか!
今も、こんな恋愛漫画ありそう! 大ヒットしそう!
どなたか、お描きあそばして!(笑)

そんなキュンキュンくる立場のお二人は、実はとっても大人な関係

昼も夜も天皇にお仕えする典侍ないしのすけのお仕事は、お食事を差し上げたり、身の回りのお世話はもちろんのこと、性的なお相手も務めました。

堀河天皇は長子ちゃんのことを大切に想ってくれてはいましたが、愛情をそそぐ対象は長子ちゃん一人だけではありません。

正妻である中宮ちゅうぐうをはじめ、大勢の上流貴族の姫様が妻になっていて、長子ちゃん以外の女性との間に何人も皇子・皇女がいます。

一方、長子ちゃんにも夫がいます。
夫との結婚に愛情はなく、経済面をサポートしてもらうための結婚だったようです。

現代の感覚では、到底理解できない複雑な関係ですが、当時はこれが普通。

堀河天皇と長子ちゃんはともかく、夫はそれでいいのか?と不思議に思いますが、夫は妻が天皇にお仕えすることに大賛成。むしろ、誇らしい気持ちだったそうで。

何故なら、長子ちゃんが常に堀河天皇のお側でお仕えすることで、宮中の情報が手に入り、自分が出世するチャンスをつかみとれると思ったから。
夫にもメリットがあったからこそ、このような謎の関係がたもたれていました。
(妻の力を借りずに、自分の実力で出世してほしいけど……)

他の記事と同じように、今回も分かりやすいように原文を色々変えちゃって紹介しますね。
(例:堀河帝は譲位じょうい(別の人に天皇の位を譲ること)をされたので、「堀河院」とするのが正しい表記かと思いますが、ややこしいので「帝」とします)

あと、天皇に対しては最上敬語(二重敬語)を使うべきなのでしょうけど、分かりやすさ重視で、普通の敬語にしちゃってますが、ご容赦くださいませ。

ちゃんと知りたい方は、原文を読んでみてくださいね。

次回から本編です。


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