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📖#8 天皇に身も心もお仕えした乙女の打ち明け話『讃岐典侍日記』

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11月になりました。
私は幼い鳥羽帝にお仕えしながら、またも堀河帝と過ごした日々を思い出します。

あれは雪が降った朝のこと。
その夜は、私が堀河帝のお側におりましたので、帝と一緒に雪景色を眺めていました。

庶民の家でも雪が積もったら素敵に思えるのに、ましてやぜいらした内裏の中では、その美しさは特別素晴らしいものでした。
私が絵を描ける人だったら、堀河帝が私と一緒にご覧になっている光景をありのまま描いて、他の人にも見せたかったのに。

大雪なので「何かご命令があるかもしれない」と思った警固の武士たちが立っているのが見えました。
「彼らに寝起きの顔が見られてしまうかもしれない」と恥ずかしく思った私は、

長子「いつもよりも美人ならいいのにと思ってしまいますわ、今朝は」

と申し上げたのを、堀河帝は面白く思われて、

堀河帝「私はいつだって、君がもう少し美人ならいいのにって思ってるよ」

冗談を言って、にっこり笑ってみせたお口が、今でもはっきり思い出せるのです。

「堀河帝、ひどい!」と思わないでください。

堀河帝は言葉通りに長子ちゃんに悪口を言ったのではなく、長子ちゃんと親しい間柄だからこそ、冗談を言ってからかったのです。

堀河帝「私はいつだって、君がもう少し美人ならいいのにって思ってるよ(なんてね。冗談だよ。君はいつでも美人だよ)」

仲良しだからこそのディスりですね!


あれは、お仕事のあとに用事があったので、いつもより早く退出しようと思っていた夜のことでした。
堀河帝は中宮様(正妻)のところへ行っていらして、夜更けまでお帰りになりませんでした。

それでも、私はずっとお待ちしていました。
帝がやっと帰っていらっしゃったので、夜のお勤めを致しましょうかと申し上げましたところ、

堀河帝「君は、このあと、実家に帰って婿を取るらしいね」

帝はどこでお聞きになったのでしょうか。
私が今日のお仕事が終わったあと、実家に帰って婚儀を行うことをご存知でした。

長子「さようでございます」

私が申し上げると、帝はごろんと横になられました。

堀河帝「明け方にあれをしよう。眠いから寝るよ。なにか不都合でも?」

と微笑みながら、おっしゃいました。

長子「いいえ、私は不都合だなんて思いません。私を待っております使用人や和泉守の役職についている兄は困るかもしれませんが……」
堀河帝「和泉は困ればいい。私はちっとも困らないよ」

帝は畳の上におやすみになられて、私をご覧になり、

堀河帝「ああ、大変だ。憎らしいと思っているのが君にバレバレだよ。どうしよう。苦しいから横になって休むよ」

とか、

堀河帝「しばらく我慢して。ああ、やりきれないなあ」

などと、それほどでもないことを大げさにおっしゃって、お笑いになられました。

堀河帝のやきもち、かわいいー!!
長子ちゃん、めっちゃ愛されてるじゃないですかー!!

みなさま、キュンキュンしませんでしたか!?
私は、かなりキュンキュンしましたよ!

「なんだよ~、お前ら相思相愛じゃん! 付き合っちゃえよ!」と、腕で小突いてやりたいです!笑

そんな私のしょうもない妄想は置いといて、結婚式前夜も帝の夜のお勤めはあるんですね……引くわー。
明日結婚するんだから、誰か長子ちゃん以外の人が夜のお勤めを代わってあげたらいいのに。

日記には書いてありませんけど、堀河帝のご指名だったのかも?
長子ちゃんが明日結婚すると知った堀河帝が、今夜はどうしても長子ちゃんでないと嫌だと言ったのかもしれません。

堀河帝にはたくさんお妃さまがいるし、お子様もいるけど、一番好きなのは長子ちゃんだったんじゃないのかなーと思えてなりません。

ちなみに、長子ちゃんの役職の典侍ないしのすけは、天皇の性生活のお相手もお仕事としてありますが、他の人と普通に結婚します。
この夜のお相手のお仕事は、記録によると、なんと明治時代まであったそうです。
それほど、宮中では当然のお仕事だったんですね。

「夫になる人は嫌じゃないの?」と思いますが、#1でも触れたとおり、天皇に一番近いところでお仕えしている妻(典侍)から、重要な情報が手に入るので、夫にとっては出世のチャンス!
夫自身にもメリットがあったので大歓迎だったそうです。

一方、典侍にとっても結婚はメリットがあり、経済面を支えてくれる夫の存在は必要でした。 
帝にとっても、典侍との間に子どもが出来てしまった場合、のぞまない皇子を引き受けてくれるので、典侍の夫は助かる存在でした。

典侍は天皇にとって、昼も夜もお世話してくれる存在以上でも以下でもありませんが、堀河帝にとって長子ちゃんは少なくとも夫に嫉妬しちゃうくらいには、愛しい存在だったんでしょうね。
二人の立場上、どんなに想い合っていても、お互いだけを愛することは出来ませんけど。
ううっ……切ない関係ですねえ。

10月になって、実家に戻っていましたが、なんでもかんでも「堀河帝がいらっしゃったころは……」と思い出してしまうので、私は堀河帝の御墓参りに出かけました。
昔は大勢が帝にお仕えしていたのに、今は都から離れた山のふもとに、たったお一人でいらっしゃるのだと思うと、涙がこぼれたのでした。

堀河帝のお墓参りに出かけて、ぽろりと涙を流す長子ちゃん。
そろそろ本当に心の整理をつけて、前へと進むときが近づいてきました。
いいぞ! その調子!

亡き堀河帝を私と同じ気持ちでお慕い申し上げている人と、この日記を一緒に読みたいのだけれど、堀河帝をお慕い申し上げない人なんて一人もいないはず。

けれど、私に共感してくれない人に見せたら、世間に誤解されるような形で広められてしまうかもしれません。それは嫌です。

また、私の気持ちをよくわかってくれる人でも、同じ思いを語り合う友人がいなければ、見せても意味がないような気がするので、この三つの条件に合う人がいいと思います。

私の先輩である常陸殿だけが、この三つの条件に合うので、お呼びしたらこころよく来てくださいました。
一日たっぷりと、この日記のことを語り合ったのでした。

『讃岐典侍日記』おわり

この日記、ラストはまさかの「読んで欲しい読者」を指定しているんですねー。
他にはなかなか見られないですよね。珍しい。

長子ちゃんの希望する条件は以下の3つ。

この日記を読んでほしい人の条件3つ

  1. 堀河帝を本当に慕っている人

  2. 長子ちゃんのことを理解し、共感してくれる人

  3. 同じ気持ちで読んでくれる友人がいて、この日記を推薦してくれる人

さて、みなさま、3つすべて当てはまりましたでしょうか?

病弱で大臣と乳母になめられてるけど、おちゃめでかわいい堀河帝のこと、好きになれましたか?

自分の意見をあまり言わずに流されちゃうけど、本当に堀河帝のことを慕っていた長子ちゃんを理解して共感出来ましたでしょうか?

あなたと同じような気持ちで読んでくれる友人がいて、この日記をおすすめしたいと思われたでしょうか?

私は堀河帝いいなーと思い、長子ちゃんにも共感出来たのですが、お友達がね……その……全然いないので( ;꒳​;  )

ですので、ここでみなさまにオススメしましたわけです!

これで、一応、長子ちゃんの3つの条件はクリアしたかな?

『讃岐典侍日記』はそんなに長くないですし、とんでもない愛憎劇もないので、さらっと読みやすいと思いますので、みなさまもご興味ありましたら、原作もお読みくださいませー。

あらあらかしこ(*ˊᗜˋ*)ノシ

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