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📖#5 千年前の和風シンデレラストーリー『和泉式部日記』


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またしても勘違いから嫉妬

和泉を自分のお屋敷に呼ぶことで、以前より会う機会が増えた二人の恋は、落ち着いたかに思えましたが、またしても問題が発生しました。
弟宮様が和泉の家に行ったところ、すでに男性用の牛車があったので、

弟宮「誰か他の男が来ているのだな」

と勘違いして不愉快な気持ちになり、帰ってしまわれました。
それでも和泉と別れることが出来なくて、むしゃくしゃした気持ちをお手紙に書いて送りました。

弟宮「昨夜、私がお訪ねしたことを知っていますか。あなたが他の男と浮気をしているとは知っていましたけれど、この目で見てしまったので、とても悲しいです」

じつは、和泉は一人で住んでいるのではなく、姉妹などの家族や使用人たちと、あちこちの部屋で同居していました。
たまたま姉妹のところに来ていた男の牛車を見て、弟宮様は勘違いされたのです。
和泉は訳が分からず、誰かが弟宮様に嘘を言ったのだろうかと思って、

和泉「宮様こそ、浮気っぽい方と聞いております。宮様が浮気をされているからって、私は浮気をしませんわ」

とお返事したところ、だいぶ経ってから弟宮様からお返事がありました。

弟宮「あなたのことを冷たい人だと恨んだり、恋しいと思ったり、私の心はあなたを思って休むときがありません」

あの夜に弟宮様が見た男性客は、同じ家に住む姉妹のところに来ていたのですと言いたかったけれど、無理やり作った言い訳だと思われても困るので、

和泉「これから宮様とお逢いできなくなっても嘆きませんが、お互い憎みあう関係になってしまったら悲しいです」

とだけ、和泉はお返事しました。

弟宮、またしても勘違いして嫉妬。
この前も同じように早とちりだったじゃないですか!
少しは学習してくださいよー!

イライラするけど、和泉ちゃんとは別れたくないご様子。
嫉妬でムカムカする気持ちのまま、嫌味っぽいお手紙を送りますが、和泉ちゃんは冷静にお返事。

「あなたが浮気をしても、私は浮気をしません」と毅然と言い返してかっこいいですね!

弟宮はプリンスだしイケメンなのでモテまくります。
正妻以外にも恋人がたくさんいるのを和泉ちゃんは知っていました。

和泉ちゃんは弟宮と会えなくて悲しむけれど、弟宮のことは責めません。
色んな男たちからモテる恋多き和泉ちゃんですが、好きになった男にはいじらしいほど一途なのです。

自分には妻も恋人もいるのに、和泉ちゃんの浮気は許さずに嫉妬するなんて、弟宮は子どもっぽくて器が小さいですねー。


誤解がとける月夜の逢瀬

それから、弟宮様は全然来なくなってしまいました。
和泉は月を眺めながら弟宮様を思って歌を詠んで送りました。
すると、その歌を見て弟宮様が久々に和泉の家の庭にやって来たのです。
すだれ(ブラインド)越しに見る弟宮様は、いつ見てもその度に美しいと思えるほど素敵な姿でした。
何もおっしゃらずに和泉の歌の返歌が書かれているお手紙を扇の上に乗せて、連れてきた従者に簾の中に差し入れさせました。

弟宮「あなたの手紙を持ってきた使いの者が、私の返事を待たずに帰ってしまったので」

和泉は話しかけようとしましたが、自分は部屋の中で弟宮様がいる庭まで距離があってうまくいきません。
弟宮様は部屋に上がろうと考えましたがやめて、庭を歩きながら、

弟宮「私の好きな人は草や葉の上にあるつゆなのかな。だから、私の袖が涙で濡れてしまうんだろうね(泣きたくなるくらい好きですよ)」

と歌を詠んだお姿はなんとも優美なことです。
弟宮様は和泉の近くに寄って、

弟宮「今宵はこのまま帰ります。本当のことを言うと、この前の牛車に乗っていた男は誰だったのかを突き止めようと思って来たのです」

そう言ってお帰りになろうとしたので、和泉は咄嗟に歌を詠んだ。

和泉「ためしに今、雨が降ってくれたらいいのに。あなたが雨宿りのために、この家にとどまってくれるかもしれないから(このままここにいて欲しいです)」

弟宮様は和泉の歌を聞いて、

弟宮「他の人は彼女のことを悪く言うけれど、本当は無邪気でかわいい人なのだ」

と思い、しばらくの間、和泉の部屋にあがったのでした。

ちょっと、弟宮!
やれば出来るじゃないですか!!

そうですよ。最初からちゃんと確かめに来れば良かったんですよ、もう!

和泉ちゃんが弟宮を引き留めようと咄嗟に詠んだ歌には、彼女の素直な感情が込められていました。
それを聞いて、弟宮はやっと本当の和泉ちゃんを見ることが出来ました。よかったー!

それでもやっぱり噂を信じてしまう弟宮

和泉「宮様は本当に素晴らしい方だわ。宮様の周りの人は私のことを身分が低い淫らな女だと言ってるのでしょうけど、なんとかしてそれは嘘だとわかってもらいたい」

と、和泉は思いました。
一方、弟宮様は、

弟宮「和泉は話し相手としておもしろい。何もすることがない時に和歌を詠んだりするのにちょうどいいな」

と考えました。
そんな二人の仲を裂くように、弟宮様にお仕えする女房(エリート女性使用人)たちは「あの男が和泉のところへ行ったそうですよ」「この男も通ってるらしいですよ」と悪い噂を言いつけるので、弟宮様は和泉のことをやっぱり軽い女だと思えてきて、家に行くこともお手紙も送らなくなりました。

おい、弟宮!
またも噂を信じてるじゃないですか!
いい加減学習してくれと何度も……!!

今と違って電話もなければメールもSNSもない時代なので、ちょっと離れただけでも相手を疑っちゃうのは仕方ないのかもしれませんね。

………いや、それにしたって、弟宮は疑い過ぎでは?


続きます。



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