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📖#4 千年前の和風シンデレラストーリー『和泉式部日記』


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まさか、ぼく以外の男が!?

弟宮様がいつものようにお忍びでいらっしゃったけれど、和泉は「今宵は来ないわね」と思い、毎日お経をとなえていて疲れていたので、うとうとしていました。
弟宮様の家来が門を叩いても、和泉含め家の者には聞こえませんでした。
弟宮様は和泉のふしだらな噂を耳にしていらっしゃったので、

弟宮「誰か他の男が来ているのか」

と思い、帰ってしまわれました。

このあと、弟宮は「門が開かなくてあなたに拒絶されたようで悲しい」と歌を詠み、和泉ちゃんは「門が開いてないのにどうして私の心が分かるのですか。外から見ただけでは何もわからないでしょう」とお返事。

弟宮は傷つくのがこわいようです。
おぼっちゃまほど、傷つきやすいガラスのハートですよね。

他の男が来ているのか確かめもせず、一人で傷ついてるなんて面倒くさ……いえいえ、繊細なお心をお持ちです。


弟宮、ひよる

弟宮様は今宵も和泉のところに出かけたいと思いましたが、周りの家来がお止めし、乳母からも怒られてしまいます。

乳母「あの女のところに行ってはなりません。宮様の忍び歩きはみんなが噂しておりますよ。あの女は身分が低いのですから、お屋敷に使用人として呼び寄せて愛人にしたらいいでしょう。それに、あの女のところには、たくさんの男が通っているそうですから、そのうち誰かと鉢合わせて奪い合いにでもなったらお怪我をされてしまうかもしれません。兄宮様も夜な夜なあの女のところに通ったせいで病気になり若くして亡くなってしまったのですよ」

弟宮様自身も、毎晩こそこそと身分が低い女のところへ通っていることが、一条天皇(異母兄弟)や藤原道長に知られて軽いやつだと思われてしまったら……と考えて、お出かけするのを悩むのでした。

弟宮、乳母に叱られてしまいました。

昔の身分が高い女性は自分で子どもを育てずに、乳母にお任せ養育スタイルです。
なので、本当の母よりも乳母は弟宮に身近な存在

そんな乳母から「あんな女のところに通ってはダメです! そんなに好きなら、お屋敷で働かせて愛人にすればいいでしょう」と言われて「それもいいかもしれない。天皇や大政治家の藤原道長に知られて軽蔑されたらこわいし」と思う弟宮です。

いやいや、本当に好きなら妻にしなさいよ!
育ての母にちょっと言われただけでひよってるんじゃない!

身分が違うのでしょうがないのですが、それにしたって、使用人兼愛人のような扱いをしたら和泉ちゃんを傷つけてしまうと思うのですが……。

そこまで考えが及ばない、生まれながらのロイヤル思考の弟宮です。


行けないのなら連れてきちゃえばいいじゃん

弟宮「自分でも驚いてしまうくらい長い間ご無沙汰してしまいましたが、私の気持ちが冷たいと思わないでくださいね。そもそもあなたの日頃の行いが悪いせいですよ。私以外にもたくさん男が通っていると聞いたのでつらかったのです」

と真顔でお話されてから、

弟宮「さあ、いらっしゃい。今夜だけは誰もいないところでゆっくりとお話しましょう」

と言い終わらないうちに、和泉を牛車に乗せてしまいました。
和泉は牛車の音を誰かに聞かれたらどうしようと心配でしたが、すっかり夜が更けていたので気づく人はいませんでした。
人がいない渡り廊下に牛車を寄せて、弟宮様は降りられて和泉にも降りるように言いました。
和泉は月が明るくて誰かに見られたらみっともないと思ったけれど、思い切って降りました。

弟宮「どうですか、誰もいないところでしょう。これからはここで会いましょう。あなたの家だと誰か来ているのではないかと遠慮してしまうので」

夜が明けると弟宮様は和泉だけを牛車に乗せて、

弟宮「送っていきたいですけど、家の者に外泊したと思われては困りますから」

と言って、自分はお屋敷に残りました。

和泉「女性の私が男性のところに通うなんて変なこと。他の人はどう思うかしら」

と心配だけど、明け方の光に浮かび上がった弟宮様のお姿が、他の男たちと比べものにならないほど美しかったのを思い出して、愛情を込めた歌を詠んだのでした。

それから度々、弟宮様は和泉を家に呼んで逢瀬を重ねました。

そうです! 連れ去られた人がいないところは、弟宮の広大なお屋敷の一部だったのです!

平安時代のお屋敷はとても広くて、それぞれの建物が渡り廊下でつながってます。
だから、お屋敷の端の建物でこっそりデートをしても、別の建物にいる正妻や使用人たちには気づかれにくいんですね。

「彼のお家デートしちゃった! やったー!」と喜んでいいかは微妙なところ。
平安時代は男性が女性の家に夜に通うのが一般的
それをいくら身分が低いからって、和泉ちゃんが弟宮様の家に通うのは、ちょっとひどい扱いな気がします。
女性を大切に思ってないですよね。

現代でたとえるなら、彼氏の都合のいい夜にだけ家(奥様は別の部屋にいる)に呼ばれてお泊まりして、朝のうちに起こされて「送っていきたいけど妻にバレたくないから」とタクシーに乗せられて一人で帰らされるようなもんです。

おクズ過ぎません!?
いくら超セレブなイケメンだからって、普通はブチ切れたくなりますよね。

でも、和泉ちゃんは切れません。
弟宮様のことを本気で好きになってしまったから。

それどころか、朝の光に照らされた弟宮の美しい姿を思い出して、愛情たっぷりのお手紙と歌を詠んでしまうのです。

恋って惚れたものの負けですねー。
悲しいですけど。

弟宮、こんなに好かれているんだから、和泉ちゃんをもっと大切にしてあげてくださいよ。


続きます。


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