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📖#6 千年前の和風シンデレラストーリー『和泉式部日記』

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切なくて儚い和泉の立場

和泉は弟宮様が悪い噂を信じてしまっていると聞いて、

和泉「私はこれまで宮様に、ちゃんとした愛人にしてくださいとか、こういうことをしてほしいとかお願いしたことはないわ。ときどき、宮様が私を思い出してくれたときに和歌をやりとりする関係でいいと思っていた。それなのに、ありもしない噂のせいで宮様との関係が終わってしまうだなんて……」

と情けなく思いました。

二人の関係が終わってしまったかと思いきや、お手紙のやりとりは続いたので、まだ弟宮様は和泉を慕ってくれているようでした。

それから、まだ明るい夕暮れ時に、弟宮様は突然、和泉の家に来ました。
和泉は自分の顔や姿がはっきりと見られてしまうことを恥ずかしがりますが、弟宮様は褒め言葉をしきりに口にして帰っていきました。

ところが、その後、何日経ってもやって来ません。
和泉は「私の顔をはっきりと見てがっかりしてしまったのではないかしら」と心配しましたが、弟宮からのお手紙には

弟宮「あなたのお顔やお体をはっきりと見られて感動したことを覚えてますよ。だから、お逢い出来ていないのは、それが理由ではないのです」

とありました。

和泉は見ていて可哀想になるくらい生活力も経済力もなく、弟宮様との関係は愛人でも妻でもない中途半端なもので、和歌のやりとりでしか繋がっていない儚くて情けない人生です。

和泉ちゃんが弟宮に図々しく何かを要求したことはありません。
それなのに、悪い噂が流れてしまうのは「なんでセレブでもない普通の家の娘が、プリンスやたくさんの男たちから愛されてるのよ!」という周りからの嫉妬が原因だと思います。

弟宮がそんな噂を気にせず、和泉ちゃんを大切にしてくれればいいのに……。
すぐに噂を信じて、へそを曲げてしまう厄介なプリンスです。

しかも、またもアポなし訪問。
よりによって、まだ辺りが明るい夕方に来やがりました。

この時代、女性は家族以外の男性には姿を見せないのが常識。
ブラインド越しか、暗くてはっきりと分からないときにしか近くには寄りません。
それなのに、明るいうちにやってきて、和泉ちゃんのお顔とお体を見て、その後は訪れず。

和泉ちゃんが「私の顔にがっかりしちゃったの!?」と不安に思っても無理はないです。
初めて顔を合わせてから音信不通になったら、そう思うのは当たり前です。
現代の乙女だってそう思いますよね?

弟宮は「それが理由ではありません」って返事しましたが、じゃあ一体どんな理由なの!?
はっきり言いなさいよー!


和泉@石山寺

八月になり、和泉が弟宮様と出逢ってから四ヶ月が経ってしまいました。
弟宮様との恋がどうなってしまうのか、答えが出ない日々に嫌気がさした和泉は、石山寺にこもって七日間お祈りすることにしました。

和泉「こんなふうにお寺におこもりするなんて、以前の華やかな恋愛三昧だった私とは打って変わってしまったわ」

とても悲しく思いながら、仏様にお祈りしていると、弟宮様にお仕えしている少年が訪ねてきました。
少年が差し出した弟宮様からのお手紙を受け取り、和泉はいつもよりも急いで手紙を開けると、

弟宮「なぜ、私に石山寺でおこもりしますと教えてくれなかったのですか。私を置いて行くなんて恨めしいことです。早く都に戻って来てください」

と書いてありました。
近くにいたときはお手紙も訪問もほとんどなかったのに、距離が離れてからお手紙が来るなんて不思議だわと思いながら、和泉は弟宮様と何度か歌をやりとりしました。

「こんな人生嫌だわ」と思ったのか、和泉ちゃんは七日ほど石山寺いしやまでら(滋賀県)にこもってお祈りすることにしました。

すると、すぐに弟宮からお手紙が来ました。
都にいるときは全然お手紙をくれなかったのに、遠くに離れた途端にお手紙が来るなんて不思議です。

近くにいるときや手に入れやすいときほど、人間は欲しいと思いませんが、遠くに行ってしまったり、手に入りにくくなると欲しいと思ってしまいがちですよね。

和泉は手紙の端に、

和泉「私の山籠やまごもりの決意がどれくらい強いのか試してみたいので、宮様がこちらにいらっしゃって、私に『都に戻っておいで』と誘ってみてください」

と書きました。
それ読んだ弟宮様は、

弟宮「私が石山寺まで行けないと分かっていて言ってるんだな。いきなり出かけていって驚かせてやりたいな」

とお思いになりましたが、高貴な身分の弟宮様には出来るはずがありません。

和泉ちゃん、強気ですねー!

これまで何かをしてほしいって要求したことはほとんどなかったのに、ここに来て必殺技を出してきましたね。

つまらない噂にびびってないで、弟宮が迎えに来いや!

弟宮の心にしっかりとダメージを与えられたようで、弟宮は寺まで迎えに行きたいと思いましたが、プリンスがおいそれと遠出できるはずもなく……。

そうこうしているうちに、和泉は都に戻ってきました。

弟宮「おや、私が迎えに行くつもりでしたのに戻って来られたのですね。誰か別の男があなたに『都に戻っておいで』とお願いしたようですね」
和泉「私は仏様がいらっしゃる明るい山を出て、真っ暗で苦しいことばかりの世間に戻ってきました。ただ、宮様にもう一度お逢いしたいという気持ちのために」

迎えにいけるはずないのに何言ってるんでしょう、この皇子は。
和泉ちゃんが早く戻って来てくれたので、余裕ぶっこいてますねー。

それに対して、和泉ちゃんは一途ですね。
恋多き女性ですが、好きになった人には真剣な和泉ちゃんです。

この後、和泉ちゃんは弟宮を思ってさびしくしている秋の夜の切ない気持ちを、長々とお手紙に書いて送ります。
ところが、弟宮からのお返事は歌五首ごしゅというあっけないもの。

短すぎる?
いえいえ、五首の歌はぜんぶ和泉ちゃんが詠んだ歌の初めの五文字と同じものを使ってくれていました。

短いけれどもセンス抜群!
さびしがってる和泉ちゃんのために、早くお返事を出してくれたのです。
「私もあなたと同じく、秋の夜を切なく過ごしてますよ」と。
お互いの気持ちが通じ合ってますね。

で・す・が!

このあと、弟宮は和泉ちゃんに、

弟宮「付き合ってる女性が遠くの国に行ってしまうから、この女性のために良い歌を私の代わりに代作してくれないかな。『こんなに素敵な歌をもらったのだから、心おきなく都を離れられる』と思ってもらえるような素晴らしい歌を頼むよ。あなたはとても歌が上手だから」

と、とんでもなく図々しい無神経なお願いをします。
いらっとしたけれど、和泉ちゃんはしぶしぶ美しいお別れの歌を詠んであげました。

弟宮はプリンスなので、甘やかされて育ったんでしょうね。

和泉ちゃんの代わりに、扇でひっぱたいてやりたいです。


続きます。



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